気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

遺伝子の舟 森垣岳 

2016-10-09 12:40:49 | つれづれ
画家となる夢を今更あきらめてウツボカズラに虫を喰わせる

パンジーの幾万本も廃棄されて週末明るい死で満ちている

見上げれば空一面に銀色の魚の群れが過ぎ行くところ

一秒前の姿を示す月面の光に揺らぐビーカーの水

農業に明日はあるかという問いに芋虫はただ黙秘で返す

アナログは終わりましたと表示され画面は青き空の広がり

わらび餅売る声遠く響きいる出荷間際に鳴く牛のごと

動物の本をめくれば猛獣の餌となるべき小鹿群れ飛ぶ

遺伝子の舟と呼ばれし肉体を今日も日暮れて湯船に浸す

鳥類に産まれることもできたのだ我が子の背なの産毛に触れる

(森垣岳 遺伝子の舟 現代短歌社)

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第2回現代短歌社賞を受賞した森垣岳の第一歌集を読む。

森垣さんは兵庫県で農業高校の先生をしている30歳代の方。人生がそのまま歌になり、歌集になったと読んでまちがいないだろう。
目次を見ると、栽培実習、生物工学、ビジネス基礎、発達と保育、などと学校の教科のなまえになっていて面白いと思った。

パンジー→明るい死、芋虫→黙秘、と言った発想の飛ぶ歌に魅力がある。遺伝子の舟の歌は、集題になり、彼の代表歌になるだろう。遺伝子の舟という観念が、下句の日常の叙情に繋がって心に残る。