気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

時の基底 短歌時評98-07 大辻隆弘

2008-08-31 01:19:47 | つれづれ
秋のはじめと夏の終りをかさねあふ縫ひ目のやうな雨は降り来つ
(大辻隆弘 夏空彦)

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大辻隆弘の評論集『時の基底』を読む。
300ページ以上ある分厚い本だが、すらすらと読めてしまう。
前半は、「未来」時評の1999年6月から2003年12月まで。後半は短歌現代などの短歌総合誌や、大辻氏が中心になっている同人誌「レ・パピエシアン」などに載った文章で、ひとつの文が短く、楽しんでどんどん読むことができた。

小池光の近業について、ネット歌人は傷つかない、歌集の値段、ブンガクになりたい病、俵さんが泣いた日・・・など、目次を見ただけでも興味を惹かれる内容。
題詠マラソン2003の熱気を伝える文章など、とても懐かしく、登場する歌人、引用される作品にも馴染みがあり、親近感を持ちつつ読んだ。時代の流れが速いので、今はちょっとちがった感覚になっていると思うところもあったが、私が短歌をはじめてから歩んできた軌跡をこの本を読むことで再確認することができたと思う。
鋭い論客で、短歌に熱い大辻さんでさえ、パネリストデビューのときは発言できなかったという話しに、ある意味勇気づけられた。
実は繊細だけれど、努力と情熱で優れた論客になって行かれた道筋は、けっして平坦でなかったのだと知った。

ちゃばしらの井口一夫さんは、どうなさっているのかなどとこれももはや懐かしい気分にさせられた。
題詠マラソンが三年、その後題詠ブログになって今年で三年目。大辻さんも私もはじめからずっと続けている。やっと折り返し点まで来ることができた。後半も力を抜かずにがんばりたい。

時評集が出ることは珍しいと聞くが、私にとって、いままでバラバラだった知識がつながって全体が見えてきて、読んで有意義な本だった。星がつながって星座になって見えた感覚である。巻末にある人名索引も親切。ここ数年の目まぐるしい歌壇の動きを振り返るのに最適の一冊だ。ぜひ一読をおすすめします。
宇田川寛之さんの六花書林から、定価、本体2800円。

http://rikkasyorin.com/

今日の一首は、ちょうど今の時期にぴったりの歌を大辻さんの作品のなかから見つけたので、掲載しました。

今日の朝日歌壇

2008-08-25 22:20:18 | 朝日歌壇
ぐっすりと眠れたあとの星空は星の間にまた星見える
(岩手県 奈瀬あすみ)

性別のあること時に煩わしあまつさえ空の虹にもありと
(岡山市 秋山素子)

少しずつ人は魚になるだろう魚は人にならないだろう
(高槻市 門田照子)

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一首目。熟睡できたあとの満足感がよく伝わってくる。それにしても、星の見えるときに目覚めるとはすごい早起き。作者は、何歳くらいの方なのだろうかとふと気になった。
二首目。八月四日の朝日歌壇に載った歌「朝かげに男虹と女虹たちたれば黄のひとすじがきわだちて見ゆ」(豊橋市 小村宏)を踏まえて詠まれたのだろう。返歌ともいえる。私もどちらかと言えば、秋山さんの意見に賛成。サッカーもマラソンも女子がやって当たり前の時代になった。問われるのは、その人の個性で性別ではないと思う。
三首目。オリンピックで、選手のドルフィンキックを水中から映した映像を見ると、ほんとうに魚のように見える。訓練の結果、魚のような動きを人間が習得することは出来る。しかしその反対はないという。意外な発想でハッとさせられる歌。

お盆が済んでから、すっかり涼しくなってしまった。あんなに勢いのあった百日紅やノウゼンカズラも、衰えてきて、外では秋の虫が鳴いている。日の暮れの早いのもなんとなくさみしい。秋ですね。

エウラキロン  真中朋久歌集

2008-08-23 00:50:54 | つれづれ
をさなごの泣くこゑがもれてくるほどのやはらかき夜の雨が来てゐる

ゑのころを見るたびに摘むをみなごの父なれば手にゑのころ五本

ゆるやかに小潮若潮かすかにも夕刻の海の輝くが見ゆ

広辞苑を装ふクロスの青のごとき朝はやがて靄ふかき谷

ぎんいろのレールがゆるくたばねられ車庫から本線へ流れ入りたり

ひとを抱きたましひを抱かぬさびしさもあるべしその逆もあるべし

手に豆ができたらつちに播いてごらん雲梯の木がのびてゆくから

森のうへにほかりと白い雲があるあなたを支配してはならない

(真中朋久 エウラキロン 雁書館)

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塔の真中朋久の第二歌集を読む。以前、どこかの批評会の流れの居酒屋で、テーブルの向こうで飲んでおられるのを見かけた。気象関係のお仕事をしておられて、生活が真っ当なので、歌も真っ当な感じがする。いいお父さんなのだろうと思わせる温かい歌をいくつも見つけた。気象をはじめ理科全般にくわしく教科書で見たような言葉が出てくる。ちょっと懐かしくなる。生活者として足が地にしっかりついているので、好感が持てる。

夕立がやむまでここにゐる人の湯呑みにすこしお茶を注ぎたす
(近藤かすみ)