気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2014-04-28 17:59:27 | 朝日歌壇
八畳の鴨居に四つ軍服の遺影掲げてその母逝けり
(前橋市 荻原葉月)

自転車のパンク修理を待つ軒のバケツの水のたぷたぷ光る
(島田市 水辺あお)

二時間は別の人生生きられる映画館とう魔法の箱で
(宇都宮市 鈴木孝男)

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一首目。一読わかる歌。事実のみを提示して作者の主観が入らないのが良い。八畳、四つの数詞も魅力。鴨居というのも久しぶりに聞く言葉で懐かしい。
二首目。パンク修理、軒のバケツがレトロ。こういう退屈な時間に惹かれる。このごろ「退屈」が無くなっているのではないだろうか。退屈な隙間の時間があればこそ、詩や歌が生まれる。
三首目。これもまさにその通りのわかりやすい歌。映画館にお金を払って入ることがなくなってしまったが、ふと映画を見に行きたくなった。

今日の朝日歌壇の歌には、ルビの歌が多かった。ルビを打つのは、親切なのか、読者を信用していないのか、どちらだろう。ブログに横書きで歌を載せようとすると、かっこに入ってしまうという現実的な理由もあって、取り上げなかった。私自身は、ルビは少ない方がスマートな感じがして好きだ。だから、必要最小限にしている。

短歌人5月号 5月の扉

2014-04-27 18:59:23 | 短歌人同人のうた
たいせつに使われながら減ってゆくしろい牛乳石鹸がんばれ

日溜りの疊の上にまどろめるわたしはハチミツ色のせっけん

(木曽陽子 タイルを走る)

図書館の本の匂ひや公園の手摺りの匂ふ手、ざぶざぶ洗ふ

せつけんをかろくにぎつてくすぐるとわらつてわらつて泡をはきます

(大滝世喜 ざぶざぶ)

ワイシャツを揉み洗いせんウタマロの刻字磨り減る固形石鹸

両の手を揉むしぐさにててきめんに液状せっけんあらわれてくる

(柏木進二 除菌滅菌)

短歌人新年歌会の福引きに「たわしと石鹸」の景品ありき

ジェリー藤尾の歌声聞こゆ「シャボン玉ホリデー」の頃思いておれば

(西勝洋一 泡のごとくに)

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短歌人5月号、5月の扉。今月のお題は「石鹸」。

今日の朝日歌壇

2014-04-21 18:53:02 | 朝日歌壇
補聴器を買いて最後の贅沢をするとう母は九十二歳
(大洲市 村上明美)

卓上の遺影を旅の思ひ出の写真に替へぬ三度目の春
(羽村市 竹田元子)

春雨にぬれて帰ればさびしさもつき来ぬひとりの煮物をつくる
(摂津市 内山豊子)

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一首目。補聴器を新調するくらいで、贅沢というお母さまがいじらしい。生きることに執着することに照れがあるのだろうか。この歌は文語。もし口語にするなら、補聴器を買って最後の贅沢をするという母は九十二歳、となる。「とう」は短歌でよく使う言葉だが、短歌的すぎるので、「という」の方が好ましい気がする。新かなで、「とう」「おりぬ」などを読むと違和感があるが、どうだろう。
二首目。卓上に遺影があるということは、ご家族なのだろう。遺影を別の写真に替えるとは、自分では思いつかなかったが、思い出の写真ならそれもいい選択だ。「三度目の春」が的確でいい。
三首目。よくわかる歌。出かけて帰ってから、自分のために煮物を作るというのは、なかなか出来ない。少なくとも私にはできない。実際に作ったかどうかは、どうでもいいことで、歌の中には演出があって当然だ。「煮物をつくる」で、歌全体が引き立つ。作ったように思わせるところが巧い。どこかにリアリティーのある事を入れると歌が生きてくる。

短歌人4月号 春のプロムナード つづき

2014-04-16 18:18:38 | 短歌人同人のうた
目見(まみ)ほそく視力おとして感覚の樹に寄りゆかむ手ぶくろを脱ぎ

がさごそと居心地わろき音たてて稼働すねむたき春の心臓

(感覚の冬 柚木圭也)

どこまでもどこまでも分け入らむ 草 動くから 詩句に動くから

沈着しあるいはすばやく手の指がページを押ふ詩人のやうに

(麝香 Ⅳ あなたへ 西村美佐子)

主婦らしき処よりこころ逸れゆきてあまたの本の置場にまどふ

生きてゐる家を殺めて生きのびむ京のうしとら花折断層(だんそう)の上

(家を殺める 近藤かすみ)

われの茎の維管束まで染む冷気出勤前にエンジンかける

気になる人座敷に残し外に出るススメと冬の大三角形

(大三角形 澤志帆)

ラジオより坂本九のうらごゑの流れきたりぬ涙にじめり

日本酒のうまさやうやくわかるころ残念ながら晩年である

(晩年 大橋弘志)

ふた粒のひかりは床(ゆか)にこぼれをり「ゆめぴりか」とふそのゆめのつぶ

美濃は雪、飛彈も雪とぞ明日のためゆふべ尾張の牛蒡をあらふ

(ゆめのひかり 春畑茜)

芽を出さぬひとつ球根「完全に削除しましか」問はれてをりぬ

コーヒーはいつもの味だ積みし雪よごれはじめる朝を出でゆく

(明日からも 大越泉)

この年は咲きしばかりの梅が枝に何年ぶりかの大雪降れる

食べ残す蜜柑にメジロ一羽来てひそと食みいる雪の日の夕

(恋文のはじめは 橘圀臣)

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短歌人4月号、春のプロムナードより。

今日の朝日歌壇

2014-04-13 19:15:15 | 朝日歌壇
拇印押しデヅラ受け取る飯場にて帰り道熊の心配している
(ホームレス 坪内政夫)

百枚の二円切手を買うて来ぬ兎あふれん四月のポスト
(春日井市 伊東紀美子)

この場所で初心にかえる内定の乾杯をした書店のカフェで
(東京都 上田結香)

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一首目。デヅラという言葉を初めて知った。賃金のことらしい。選者の高野公彦氏のコメントに「熊さんの体調を案じる優しい作者」とある。熊は人間の友達の名前をいうことか?
私は、熊は動物と読んだ。野生の熊、動物園の熊を突然思い浮かべて、どうしているかと想像するなんて面白い。取り合わせも意外でいい。詩情がある。熊を人間の名前と読むと、当たり前の人情噺になってしまう。新聞歌壇だから、そう読むのだろうか。作者に聞く術がない。
二首目。下句がいい。消費税の値上げに伴い郵便料金もアップして、兎の絵柄の二円切手を足さなくてはならなくなった。郵便ポストには、印刷された兎が溢れるほどあるだろう。まるで本物の兎がたくさん居るように思わせて愉快だ。四月のポストが効いている。
三首目。仕事に倦んできたとき、内定をもらって乾杯した場所に戻るという作者。初心に戻ることの大切さを知らされた。書店のカフェというのも現代的だ。

短歌人4月号 同人のうた その3

2014-04-11 21:44:05 | 短歌人同人のうた
それぞれが二十七人の子をなしぬ父・俊成と息子の定家
(秋田與一郎)

音量を絞りて夜ごと部屋に聴くチャイコフスキーに雪は降りいき
(木曽陽子)

あかき血のすける鉤爪ひそませて四肢ゆるゆると兎はねむる
(佐々木通代)

昼月のうかべる空をあふぎつつ歩めりここは根津八重垣町
(高田流子)

飽くことなくしゃべり続ける口のあり春の窓辺のランチの席に
(今井千草)

一言居士のいない歌会は速やかに進み夕べを人は散りゆく
(西勝洋一)

無頼派をよそほふ人に憧れを抱かずなりて陽だまりのなか
(宇田川寛之)

錯覚と思ひてみしも白髪のジュリーがうたふ「花の首飾り」
(斎藤典子)

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短歌人4月号、同人1欄より。



短歌人4月号 同人のうた その2

2014-04-08 17:22:33 | 短歌人同人のうた
トルコブルーの敷物に遊ぶいもうとが見えくる永久に十歳(とを)のいもうと
(蒔田さくら子)

妻を亡くせしわれを親身に慰めむと神田の蕎麦屋にさそひくれたりし
(小池光)

馬場あき子の弔辞読むこゑ聞きながらをやみなく降る雪を見てをり
(中地俊夫)

生きてゐる生きてはゐるがきちんとは生きてはゐない老い人に餐
(武下奈々子)

大寒のつらら日すがらゆるむなく軒に太りて夕茜受く
(椎木英輔)

水仙を瓶いつぱいに溢れさすけふは誰にも会はないつもり
(山下冨士穂)

足跡に足跡かさね雪の道けぶれるところ身を移しゆく
(人見邦子)

「一日一生」傘寿の年もしなやかに心ときめく恋ひとつあれ
(小川潤治)

人生はこの場所に不意に絶たれしか更地にちいさな花束三つ
(平林文枝)

りんだうが峠に咲くとうたひけり島倉千代子こゑのかぎりに
(榊原敦子)

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短歌人4月号、同人1欄より。

小池光、中地俊夫の歌は、2月14日に急逝した小高賢氏の挽歌。あまりの突然の死に驚きを隠せない。青磁社より、シリーズ牧水賞の歌人たちVol.5として出た本をアマゾンで買った。
短歌人の全国集会に講師として来ていただいたとき、一度だけお会いして話した。ちょうど『雲ケ畑まで』が出た直後、日本農業新聞に私の歌を紹介していただいたことを小高さんの口から初めて聞き、嬉しかったことが思い出される。

ご冥福をお祈りいたします。

今日の朝日歌壇

2014-04-07 22:03:54 | 朝日歌壇
それぞれの春へと子らは歩み出し式後の靴なき玄関に立つ
(石川市 瀧上裕幸)

ひねもすを亀は亀の字春日和われは大の字ひねもす昼寝
(川崎市 藤田恭)

ぽこあぽこ春の足音poco a pocoゆっくり寄り道しているらしく
(神奈川県 九螺ささら)

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一首目。卒業式に子供を送りだした後の玄関だろうか。ほっとしたような、ちょっとさみしいような感じが「靴なき玄関」に表れている。
二首目。亀の字は、亀そのもののように見える。三句目までで俳句になっている。下句は蛇足のようにも思われる。いや、三句目の「春日和」を介して、自分に引きつけて詠むのがいいのだろうか。図らずも短歌と俳句について、考えさせられる。
三首目。「ぽこあぽこ」は、スペイン語で「ゆっくりと」という意味。初句はひらがなで、三句目は横文字で表記して繰り返す。まさに、ゆっくりした歩みが感じられる。

短歌人4月号 同人のうた

2014-04-04 00:06:17 | 短歌人同人のうた
みちゆきを思うてゐたりもどかしく毛穴のひらく春の闇夜に
(泉慶章)

三十一回五十音図を読む友に頷きながら歌は生まるる
(有沢螢)

こころ固くなりゆく夜半よひくくひくくラフマニノフの青に隠れる
(鶴田伊津)

斎藤茂吉の墓にきて大声に泣くをとこのあればそれはわれなり
(山寺修象)

現実もまぶたの裏のまぼろしもさかいめあらぬただ雪野原
(阿部久美)

森にふる粉雪こゆき細雪あかず眺むる窓のむかうを
(庭野摩里)

パン野菜玉子の残を確かめて三日吹雪けば三日籠りぬ
(明石雅子)

同じ楽同じ踊で時告げる人形がまた俺を見ている
(八木博信)

冷凍庫買はむと思ふわが食の未来をしばし確保するため
(藤本喜久恵)

たれかれの消息にはなし及ぶとき放射線量つもるふくしま
(紺野裕子)

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短歌人4月号、同人1欄より。