気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

あるはなく 千葉優作 青磁社

2023-10-21 11:14:52 | つれづれ
かなしみの予兆のやうにしづかなりティッシュの箱を充たすティッシュは

失くしたと気付かなければえいゑんに失くしたものになれないはさみ

ほんたうは僕が変はつたせゐなのに度が合つてないと言はれるめがね

労働の合間はひとり死んだものばかりを詰めた弁当を食ふ 

知り合ひがひとりもゐない空間で「おてもと」の箸だけがやさしい

ワイシャツを脱げばわたしがワイシャツのたましひだつたひとひが終はる

たんぽぽのやうに暮らしちやだめですか三万人が自死する国で

鯖缶のぶつ切りの鯖 この鯖の身体が別の鯖缶にもある

鶏卵をこつりと割ればこの世でもあの世でもない時間がひらく

花の下にて死んでたまるかきさらぎの銀月アパートメントのさくら

(千葉優作 あるはなく 青磁社)

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塔短歌会所属。歌集には略歴がなく、作者の実像は隠されている。もしかしたらペンネームなのかもしれない。「謎」の作り方が現代的。「こんなわたしだから、こんな歌を作りました」という報告的な歌集ではないところに注目する。発見の歌、ものの見方の歌、食べ物の歌にとくに魅力を感じた。

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