ゆつくりと空を渡りてゆく月に月の匂ひあり向き合うて吸ふ
歳月は返り来るなり二人子を膝に添はせ『ひかりのくに』読む
つくづくとさびしい人だね裕子さんれんげの芽を見てゐる後ろ手をして
兄のやうな父親のやうな夫がゐて時どき頭を撫でてくれるよ
ぼおうとしてこの世は過ぎてゆくからに夕雨(ゆふさめ)の後に青い虹たつ
階段のうへに待ちゐる丸いあたまふたつ並びてひとつは猫よ
たましひのそよぐ夕べの風のなか咲きゐる花合歓落ちゐる花合歓
よき妻であつたと思ふ扇風機の風量弱の風に髪揺れ
さみしい人となりてしまひし君江さんあなたからあなたが剥がれゆく
(河野裕子 母系 青磁社)
**************************
河野裕子の最新歌集『母系』を読む。
白地にやや濃淡のある赤の栞ひもが二本ついているシンプルな装丁。白い肌に血が流れているように見えて、これが母系の血脈なのかと思わせる。
第43回迢空賞、第20回齋藤茂吉短歌文学賞を受賞している評価の高い歌集である。
数年前、大病を患って体調が万全でない上、母親を看取るという出来事があり、ハードな内容であるが、家族の繋がりが強いので、かろうじてそれを乗り越えていることがわかる。
三首目のように自分のことを「つくづくとさびしい人だね・・・」と言いながら、頼りになる夫がいて、二人のお子さんも立派に社会人として、歌人として活躍され、うらやましく輝かしい立場におられるように見える。
語尾に「よ」をつけて、軽く呼びかけるような歌をいくつも見つけた。重い内容を軽い詠いぶりでさらっと流している。
歳月は返り来るなり二人子を膝に添はせ『ひかりのくに』読む
つくづくとさびしい人だね裕子さんれんげの芽を見てゐる後ろ手をして
兄のやうな父親のやうな夫がゐて時どき頭を撫でてくれるよ
ぼおうとしてこの世は過ぎてゆくからに夕雨(ゆふさめ)の後に青い虹たつ
階段のうへに待ちゐる丸いあたまふたつ並びてひとつは猫よ
たましひのそよぐ夕べの風のなか咲きゐる花合歓落ちゐる花合歓
よき妻であつたと思ふ扇風機の風量弱の風に髪揺れ
さみしい人となりてしまひし君江さんあなたからあなたが剥がれゆく
(河野裕子 母系 青磁社)
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河野裕子の最新歌集『母系』を読む。
白地にやや濃淡のある赤の栞ひもが二本ついているシンプルな装丁。白い肌に血が流れているように見えて、これが母系の血脈なのかと思わせる。
第43回迢空賞、第20回齋藤茂吉短歌文学賞を受賞している評価の高い歌集である。
数年前、大病を患って体調が万全でない上、母親を看取るという出来事があり、ハードな内容であるが、家族の繋がりが強いので、かろうじてそれを乗り越えていることがわかる。
三首目のように自分のことを「つくづくとさびしい人だね・・・」と言いながら、頼りになる夫がいて、二人のお子さんも立派に社会人として、歌人として活躍され、うらやましく輝かしい立場におられるように見える。
語尾に「よ」をつけて、軽く呼びかけるような歌をいくつも見つけた。重い内容を軽い詠いぶりでさらっと流している。