気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

星の上 海野よしゑ

2005-11-30 23:04:09 | つれづれ
ほほゑみの内に別れしひとあまた月日は夢のなかに烟れる

幸ひを背負ひて生き来し歳月に密かにととのへられし旅路は

雨の夜の眠りのつづきに明日あると恃む心はいつまでならむ

生涯に飲酒喫煙なさざるを己がこころの勲章とする

群どりの影ひくく地をはしりゆきますます高く青き空なり

(海野よしゑ 星の上 短歌人12月号)

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短歌人同人の海野よしゑさん。
シカゴ在住で以前短歌人賞を取られた方という程度しか知らなかったが、12月号を見て亡くなられたことを知る。長い闘病ののち死を覚悟されていて、その前に退会届を出されたという潔さに感服した。
「生涯に飲酒喫煙なさざるを・・・」の歌、とてもよくわかる。この詠草を投函されたとき(またはご家族に託されたとき)どんなお気持ちだったか思うと、胸が痛くなる。
ご冥福をお祈りいたします。


題詠マラソン2005(98~100)

2005-11-29 20:47:55 | 題詠マラソン2005
098:未来
未来きつと明るいと言へば言霊はさう言ふひとの明日を照らすか

099:動
ひとりバスに旅の心算(つもり)で乗りたれど隣りの女の口よく動く

100:マラソン
マラソンの果てのたそがれ横書きの歌にオヤスミ とつぴんぱらり

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11月末が題詠マラソン2005の感想の〆切なので、大急ぎで自選と心に残った歌を考える。膨大な歌。宝の山がここにある。

・題詠マラソンに参加したことについての感想

今年で三回目の参加です。例年どおり「一日一首以上出さない」という自己ルールで、少しずつ進みました。最初のころ、いままでから知っている参加者が、テーマを決めて早い時期に終ってしまわれたことに驚き、あせりました。私は私のルールで、押し通すしかないと、テーマも特になく行き当たりばったりで進みました。作ったときのことを思いだせる歌もあって、それはそれで良かったと思っています。

・「ルール」など、マラソンの運営方法についての感想や提案

これは五十嵐きよみさんはじめ、スタッフのみなさまを信頼してお任せしています。大変な作業だと思います。ありがとうございました。

・難しかったお題、面白かったお題など、お題についての感想

じゃがいも、探偵、胸騒ぎ、官僚・・・意外と一字の題に苦しみました。
 
・自選

大空を見上ぐる瞳その数とおなじ数だけある空の色
春の日は鞄を置いて中年よ!妻子を抱け壊れぬうちに
触れられてその身を閉づる眠り草ひと去りしのち身をひらきをり
義理チョコより友チョコだつてさこれからは女が女にやさしくする世
教室の窓辺にをりしは佐野朋子うはさに高き座敷わらしの
顔文字で照れて笑つて汗をかく世界がときどき馬鹿らしくなる
迷信を肯ふ人は理屈言ふひとより大人と知りぬこの頃
「科学的根拠」に護られ罪人と狂人のあはひ茫漠となる
何もかも揃はぬと怒るパソコンがインクを買ひに行けと夜更けに
計画を立てる計画スタジオの鏡の奥の奥までわたし

旧かなという縛りがあるだけで、今はなんでもやってみようと思っています。
人の作品をたくさん読むことで、どんどん自分を変えてゆけたら幸いです。

・心に残った歌について

019:アラビア 大辻隆弘
廉価版塚本邦雄集の背のほつれアラビア糊もて糺す
098:未来 村本希理子
ゆつくりと未来が落ちてゆくみたいパタパタ時計の零しゆく今
094:進 ひぐらしひなつ
頬杖のまま聞いていた進化論あなたの耳のかたちを好きで
038:横浜 櫂未知子
横浜のアイスクリンはとけながらいろいろ思ひ出せといふのよ
008:鞄 伊波虎英
さかさまに鞄をふればしろがねのゼムクリップ出づ泣けとばかりに
015:友 春畑 茜
友好のために上野を出でゆけぬパンダ真昼を笹食むばかり
015:友 荻原裕幸
西友のかたちにいつも切りとられそこだけ蜜を見せぬ黄昏
041:迷 五十嵐きよみ
「迷」の字がゆるゆる動く気配してガラスケースを這う蝸牛
063:鬼 資延英樹
花水木しげる青葉の下闇の境港を鬼太郎がゆく
083:キャベツ 杉田加代子
臨月のキャベツが肩で息をする朝明の露にぬれた畑で

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ひと日にて題詠マラソン振りかへるムチャクチャでござりますわな そりや
(近藤かすみ)

今日の朝日歌壇

2005-11-28 22:47:00 | 朝日歌壇
古きギターばららんと弾く指先にとおき日の秋ばららんと鳴る
(夕張市 美原凍子)

黄葉(もみじ)透く光満ちたる登山道エゾシマリスのくるくる弾む
(札幌市 はづきしおり)

合併後はふじみ野市とす隣接の富士見市からの抗議はあれど
(所沢市 若山巌)

自転車でぐいっぐいっと坂のぼる子を先頭に突っ立ってこぐ
(東京都 豊英二)

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一首目。最初の「ばららん」とあとの「ばららん」は微妙にちがう。絃を弾こうとする瞬間の期待された音と、実際に鳴った音がちがうから。そのちがいに年月の遠さを作者は感じたのだろう。
二首目。文句なく明るく秋らしい歌。くるくるという言葉がまさに弾んでいる。
三首目。埼玉県の新しい市の名前についての歌。以前、愛知県で南セントレア市という名前が候補になって、結局なくなったことがあった。市の名前にひらがなを混ぜるのは、親しみやすさを狙っているのだろうか。こういうときに審議会があるとすれば、地元の歌人を呼んで、延々と討議させればよかろうに。
四首目。佐佐木幸綱の選。佐佐木幸綱の歌で「のぼり坂のペダル踏みつつ子は叫ぶ「まっすぐ?」、そうだ、どんどんのぼれ」を思い出す。

街の名は南セントレア早春の風のたはむれに疾く散りゆけり
(近藤かすみ)

たんぽぽのぽぽ

2005-11-27 22:27:46 | つれづれ
たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ
(坪内稔典)

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図書館から電話があって、待望の『柿喰ふ子規の俳句作法』(坪内稔典 岩波書店)が入ったと言う。私のリクエストで図書館の俳句短歌関連の本が増えつつある。しかも来年からインターネットで予約まで出来るようになるらしい。著者、出版社、書店に利益はどうなるのだろう。本を身銭を切って買わないと身につかないのは、よくわかっているのだけど、やはり図書館はありがたい。

夕食後、テレビのIQテストの番組をかなり集中して見て、時間を費やしてしまった。私は右左型の脳で、嗜好からすると研究者のタイプらしい。しかし、終って洗いものをして、それがどうした・・・と思った。数値はけっこうよかったんだが、気にしてる自分がかっこ悪い。CMまで集中して見てしまった。

あれもこれもやらねばやりたいやるつもりおもひめぐりてまず米をとぐ
(近藤かすみ)

四五日は<躁>やがて

2005-11-25 23:01:04 | つれづれ
冬蛍飼ふ沼までは(俺たちだ)ほそいあぶない橋をわたって
(岡井隆 神の仕事場)

ひぐらしはいつとしもなく絶えぬれば四五日は<躁>やがて暗澹
(岡井隆 鵞卵亭)

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また少し本を読み進む。口語も( )も<>もこうして使うと効果が上がるという見本。

いつもいつもほかの人はたくさん読んでいてなんでも知っているのに、私はどこか抜けていて足りない気がする。キャリアが短いから当然なのだが。
四五日は<躁>やがて暗澹・・・は、こころに響く。今、ネット上ではもっと動きがはやく、盛り上がってすぐに落胆する。四五時間かもしれない。私はわたしであるし、粘り強くやるしかないんだと思う。

家ぬちのことは細かく言ふまいぞ隣りの芝生はあをあを繁る
(近藤かすみ)

つれづれ

2005-11-24 21:01:38 | つれづれ
プチ・ショーズそのなつかしき友をおもふ風車をわたる松風のなか

(岡井隆 歌集未収録 『ぼくの交遊録』より)

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岡井隆の本を少し読み進む。フランスの旅中に旧制高校の友人たちをおもう・・・という章の最後に添えられた一首。ドーデーの『風車小屋だより』を読んだころの友人を思い出しての歌。エッセイのなかに何気ない歌が置かれていて、それを読むのも楽しい。

また自分の話になる。きょうはクロールのレッスンで「足にビート板をはさんでストロークだけで泳いでください」と言われて、相当ずっこけてしまった。
すんでのところで溺れるところだった。あまりの照れくささに「オバサンが泳げるまでというビデオを作ったら、これがハイライトシーンになって爆笑ものね」と言ってごまかす。まだクロールの息継ぎが会得できない。がんばると力が入って、体勢がくずれる。意識しないと形ができない。
とりあえず、「成長の過程を楽しむ」「すぐできるとコーチの出る幕がない」と言っておこう。

生徒らをおもひ通りに泳がせる廣瀬コーチは吾子より若し
(近藤かすみ)

ぼくの交遊録 岡井隆 ながらみ書房

2005-11-23 20:17:37 | つれづれ
眠られぬ母のためわが誦む童話母の寝入りし後王子死す

父よその胸郭ふかき処(ところ)にて梁(はり)からみ合ふくらき家見ゆ

(岡井隆 斉唱)

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図書館で、岡井隆『ぼくの交友録』を借りてくる。
図書館の在庫をネットでチェックできることは、とても便利。きのう調べると左京図書館にこの本が入っていて予約もないことを知り、借りに出かける。NHK歌壇での連載をまとめた本。NHK歌壇(いまはNHK短歌)は、そこまで手が回らず読んでいなかった。一冊になって読めるのがうれしい。
いままで、何度か聴いた岡井隆の話が、この本を読むことでつながって全体が見えてくる。

話変わって、京都は紅葉の見ごろで観光客がいっぱいだ。実相院の床紅葉が最近有名になってきて、道が狭いのにバスが混む。去年、野際陽子と中井美穂がテレビで紹介してから、ますます混みあう。先週はブッシュ大統領の訪問で厳戒態勢だったし。
桜が散る風情を楽しむのと同様に、紅葉は四季の終わりの華やぎということで、熟年の心を誘うのだろう。

今日の朝日歌壇

2005-11-21 22:07:08 | 朝日歌壇
長すぎるキリンの影が子を溶かし明日のことはだれも知らない
(東京都 吉竹純)

あしひきの山ふところに降る雨はひびきさびしき十月の雨
(福岡県 磯野トモヨ)

植物に感情あるという記事を心に深く眠らむ今宵
(岡山市 小林道夫)

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一首目。キリンの影に子供の影が重なっていく不気味さ。下句は当たり前なのだがうまく続いている。
二首目。「あしひきの」という枕詞から十月の雨をうまく詠んでいる。
三首目。歌の読みとは別の話かもしれないが、ちょっと感想。
植物に感情があって、よく育てと願って水をやるとよく育つらしい。そうならば育ちの悪いのは、心が足りないと解釈し得る。心を込めて育てたら必ずうまく育つとは言えない。そこまで責任は持てない。発芽の条件は、水、空気、適当な温度だったかな。植物との心の交流か・・・ああしんど。農家のみなさまごめんなさい。私は植物に感情があると思うと、ますます眠れなくなってしまうタイプだ。作者はどちらを思って眠ったのだろう。


蜜柑

2005-11-20 21:40:32 | おいしい歌
街をゆき子供の傍を通るとき蜜柑の香せり冬がまた来る
(木下利玄)

蜜柑(みつかん)のむきがはにささる吸殻のこころ荒(すさ)みにまた朝は来ぬ
(小池光)

胃のなかに蜜柑のランプを灯しつつ書いてる、出だしが決まれば速い
(吉川宏志)

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蜜柑は一年中手に入る果物になったが、やはりこの季節、こたつの上にみかんを置いて食べるのはうれしい。このごろのみかんは昔のように酸っぱくてたまらないものはない。でも甘いのに当たると得をした気分になる。

蜜柑の筋を丁寧にとる男だね 結婚前に祖母は言ひをり
(近藤かすみ)

幸福なひざこぞう 

2005-11-19 21:36:13 | つれづれ
日に一度すべてを脱いでいることの幸福な幸福なひざこぞう
(佐藤りえ)

ふるさとの床屋の鏡わが顔と麦の畑をうつせし鏡
(石川啄木)

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今朝のNHK短歌で、佐藤りえさんの歌が紹介されていた。三枝昂之氏が講師で、場面を読みとる例をして石川啄木の歌と並んであげられていた。読者が場面を想像して楽しむ歌。読者によって幾とおりもの読み方ができて、そこが楽しい。
私はやはりお風呂のときのひざこぞうを思う。ありきたりだが、一日を無事に終えた充実感幸福感があふれる。

佐藤りえさんと言えば思い出すのは、題詠マラソン2003の猫の歌。
031:猫  ありえないかたちで眠る猫の足にみなぎっている春の肉球

ネットで検索するとこんな本が出てました。
http://books.yahoo.co.jp/book_detail/31174201

りえさん、またお会いしましょう。