気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

つららと雉 黒﨑聡美

2018-07-21 11:43:17 | つれづれ
折り鶴のおりかた思い出せなくて畳のにおいの立ちのぼる部屋

鯉たちにわたしの影を見つけられわたしの子どもに会える気がした

じゅうたんをさか撫でにしてまたもどすひとり遊びのような年月

散ってゆく葉の影うつす食卓を見つめていれば十年過ぎる

雨の日はすぐに暮れゆく差し出された診察券から煙草のにおい

待合室はさいしょに暮れてさかさまに戻されていた雑誌を直す

歩いて歩いてカーブミラーに辿り着きわたしのなかからまだ抜け出せない

ソーラーパネルの土台ばかりが放置されあかるい方へ向かされたまま

少しずつ点が小さくなるようなきみとの暮らしにあかりを灯す

それぞれの記憶を話せばあらわれるどこにも存在しない薔薇園

(黒﨑聡美 つららと雉 六花書林)

あらがね 本田一弘

2018-07-13 11:19:25 | つれづれ
山鳩はかなしみを啼く此世(これのよ)に生まれ出でたるたれのかなしみ

雪の息聞(きこ)ゆるといふ嬬の耳やさしく咬みてそを聴きてをり

ちのみごのうぶ毛のやうなふくしまの桃のはだへを愛せりわれは

ふくしまの米は買ふなといふこゑをふふむ土満つフレコンバッグ

枇杷の花香(にほ)ふゆふぐれ喪ひし人をおもへばにじみゆく白

復興は進んでゐますといふ言葉から漏れつづくCs(セシウム)と水

東京は大丈夫ですー係(かかり)助詞「は」に其の人の心根を見る

ふるゆきは誰のてのひら 瓦礫より骨の見つかる七歳の子の

歌ふとはうつたふること磐梯を映す田の面をわれらは愛す

亡きひとのゐてあたたかき月の夜の声かき抱(むだ)くふくしまのそら

(本田一弘 あらがね ながらみ書房)