気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

鱧と水仙46号

2016-02-26 00:44:13 | 鱧と水仙
道端にみづは輝くむきだしのペットボトルの直立のなか

川の面にうつる火影のさざめきて夜をながるる風の息みゆ

(近藤かすみ 沈黙は金 鱧と水仙46号)

***************************************

鱧と水仙 46号水仙号が出ました!

短歌連作「沈黙は金」14首と、アンケート特集「お酒は好きですか?」「短歌は文学か?」に小文を寄せています。作品30首は中野昭子、彦坂美喜子。書評は、黒瀬珂瀾『蓮喰ひ人の日記』、小谷博泰『昼のコノハズク』、香川ヒサ『ヤマト・アライバル』について。

ご希望の方は、このコメント欄にその旨お書きください。京都寺町三月書房には、本日午後納品に行く予定です。定価1000円(送料共)です。


つぎの物語がはじまるまで  天野慶 

2016-02-25 10:33:12 | つれづれ
たくましく生きるほかない タピオカは嚙み砕かれることなく喉へ

平凡な奇跡を毎日繰り返しハッピーエンドのその先へゆく

この星のすべてがplaygroundでいつも見ていてくれてた 誰か

美しい約束をした胸にあるアザミの蕾もゆるむくらいの

くちびるをはじめて合わせた瞬間にアンリ・ルソーの密林のなか

羽根を抜き終えてしまった夕鶴の顔した私を運ぶ終電

「著者急逝のため最終回」小説は焼け落ちてゆく橋で終わった

輪郭が生まれるわたしを抜け出したちいさなひとのかたちが浮かぶ

手のひらがまず母になる陽のあたる頬に触れたら朝が始まる

週一回60本の爪を切る3人の子の母ということ

(天野慶 つぎの物語がはじまるまで 六花書林)

***********************************

短歌人同人の天野慶の第二歌集『つぎの物語がはじまるまで』を読む。

天野さんを初めて見たのは、テレビの中だった。私が短歌を始めた十数年前、当時のNHK教育テレビの番組に、現在のパートナーである村田馨さんと出演していた。番組は、進行役の女性タレントと三人で街を歩いて、即詠をするという企画だった。遠い世界の人のように思って見ていた記憶がある。

その後、村田さんと結婚。三人のお子さんに恵まれて短歌を続けている。百人一首関連の本を何冊も上梓したり、ラジオの番組に出演したり、すごい人なのだ。
歌は、わかりやすく何の説明も要らない。歌人にありがちな鬱鬱とした重さはない。軽やかな詠いぶりだ。二首目、三首目に彼女の特長が出ている。向日性ということ。三首目の下句の「いつも見ていてくれた 誰か」、これが彼女の根っこにあるから、安心して伸び伸びと歌が詠めるのだろう。巧妙に作られたキャラとは思えない。
四首目、五首目、七首目は私の好みの歌。しかし、こういうタイプの歌はほかの人でも作りそうな気がする。
十首目は、三人の子の母親となった日常を、爪を切る行為を通して詠う。
天野さんの活躍を羨ましく、眩しく見ている。


短歌人2月号 同人のうた その3

2016-02-24 13:05:08 | 短歌人同人のうた
受付の女性の言葉は風のやう聞耳(みみ)を立ててもことばが逃げる
(古川アヤ子)

ガラス戸の向かうは秋晴れ年を経し柿の木瘤といくつもためる
(大和類子)

ユニクロのTシャツをユニクロのTシャツに着替へしてゆく忘年会へ
(長谷川莞爾)

身のめぐり死のあまたある日常と思へどザクッとセロリ嚙みたし
(藤本喜久恵)

宝くじにあたったことはないけれどあたったような今までの無事
(𠮷岡生夫)

けふの日の楽しみひとつ舞ひきたる六花亭の菓子のさまざま
(高田流子)

出会ひたる人はおほかた彼岸なりざわめき深き昭和とともに
(武下奈々子)

小春日の午後の遊具のけがれなさ母と子ふたりだけの公園
(川田由布子)

終焉の雨かもしれぬかく寒き時雨頭を肩を濡らして
(藤原龍一郎)

千五百円の老眼鏡をかけて読む『阿部一族』のみな死ぬところ
(小池光)

***********************************

短歌人2月号、同人1欄より。


短歌人2月号 同人のうた その2

2016-02-15 11:11:24 | 短歌人同人のうた
鳩の首さながらわれも逍遥す仲見世通りに馴染みゆかむと
(斎藤典子)

径の角にだんじり信に満ちてあれば夏の光もそこにとどまる
(谷村はるか)

目ぐすりをさしてしばらく天仰ぐかたちすじんわり沁みゆけるもの
(蒔田さくら子)

竜田姫 母はわたしを分からないわたしはこんなに知つてゐるのに
(大森益雄)

テロリストになるべく生まれ育てられ貧しき国の若きら爆ぜる
(本多稜)

五年まえアルルの村に拾いたる胡桃が三ついまも窓辺に
(木曽陽子)

紅葉のライトアップの期間(とき)も過ぎライト転がる芝の一処に
(八木明子)

鳥の声入ると校正係りよりもどりしテープにしばし聞き惚るる
(寺島弘子)

サラリーの意味を問ひつつ四十年つひに解けずに終りゆくなり
(西台恵)

踊り場の隅で手紙の封を切る鉄の匂いの夕焼けの中
(青柳泉)

***********************************

短歌人2月号、同人1欄より。




短歌人2月号 同人のうた

2016-02-08 00:27:07 | 短歌人同人のうた
燗酒を一本付けて和みをる一人の夜も地球は回る
(泉慶章)

かなしみは手足に宿る この軽きひらがな書きのいじめがきらい
(鶴田伊津)

ひさかたの天の力士のまく塩かこころ鎮めの初雪がふる
(洞口千恵)

ゴンドラはたとへば柩 横たはり見てをり空と舳先の飾り
(阿部久美)

「里の秋」唄えばいつも涙出るわれの身体のいずこに浸みし
(関谷啓子)

こんなにも空青ければ旅立たむインディアンサマーだどこへでも行ける
(有沢螢)

しやぼんだま屋が来ればをさなと手をつなぎついてゆきたし秋の日ざかり
(和田沙都子)

日だまりに落葉は集う命なきもののやさしき黄金色よ
(八木博信)

擬人化はときに無敵であることをまざまざと思(も)うたとえばゆるキャラ
(生沼義朗)

さかしまに置かれし琴のくるしみをわれは歌ひて生き来しものを
(西橋美保)

***********************************

短歌人2月号、同人1欄より。

きなり色の高野豆腐に湯をそそぐ花の絵のある魔法瓶より
(近藤かすみ)

春の一筆箋 現代短歌新聞 2月号

2016-02-01 00:24:49 | 総合誌掲載
さみどりの双葉あふひのお守りをふたたびいただく糺の森に

紙に筆、商ふ店は戸のそとに春の一筆箋を並べる

  近藤かすみ(短歌人)

****************************************

現代歌人特集に「春の一筆箋」5首を載せていただきました。
京都の日常の風景です。

http://gendaitankasha.com/