気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

今日の朝日歌壇

2006-09-25 20:34:11 | 朝日歌壇
根を詰め字を書く真昼じんじんと頬のあたりに髭が芽を出す
(東京都 豊英二)

蛇の背のような鉄路をすべりゆきモノレールいま月へと昇る
(茨木市 瀬川幸子)

とり入れるタオルは肌に柔らかくこんなところに秋は来にけり
(大津市 櫻坂佳子)

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一首目。男の人は髭が皮膚をやぶって生えてくるのがわかるのだろうか。びっくりした。はじめて知った。感動した。
二首目。大阪のモノレール、蛇の背というのも面白いが、それを月へ行かせちゃうのがいい。下句で飛ぶというのは、こういうことだ。
三首目。夏は日差しが強いので洗濯物が乾きすぎる。秋になるとそれがやわらいで、タオルもぱりぱりにならない。実際に洗濯をする人の視点がある。

このところ体力気力がやや低下している。水泳やエアロビクスは続けているし、それ自体は楽しいのだが、前後の人つきあいが苦痛。大急ぎで身体を洗って逃げるように帰ってくる。バスで知り合いに会わないことを祈る。何も悪いことしてないのに、なんなんだ私は。


ノートル・ダムの椅子 日置俊次

2006-09-22 18:53:07 | つれづれ
晩秋の雨の尾曳きてほのひかる地下鉄(メトロ)近づく われに逢ふため

破傷風の接種を受けしよりパリの路地には馬のにほひ満ちたり

水紋のごとく薔薇窓昏(く)れなづむわれと崩れよあをきあかき環

カテドラルが夕映えの髪を梳かしをり 春のかなしみ春にをさめよ

乾きかけしバゲットちぎり鴨にまくいつしか嚙みてをりたりわれも

(日置俊次 ノートル・ダムの椅子 角川書店)

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パリに行ったことはないが、映画を観ているような気分にさせてくれる歌。


きのうの朝日歌壇

2006-09-19 18:41:03 | 朝日歌壇
素麺をどこから饂飩と呼ぶべきかそういうことか「惑星」論議
(徳島市 荒津憲夫)

熊の住む山にしあれば通らせていただきますと鈴鳴らし行く
(東京都 志摩華子)

電車来れば孫の手解きてわかれたり彼には小さき別れなれども
(高松市 山田千津子)

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一首目。冥王星が惑星から外れたことからの時事詠。どこに線を引くべきか、わかったようなわからんような感覚を捉えている。
二首目。熊が居るとして、鈴を鳴らしていくと本当に熊避けになるのだろうか。「通らせていただきます」のリズムが心地よい。
三首目。一期一会という言葉を思い出す。この次会うとき、おばあちゃんはそう変わっていないだろうが、孫はすっかり大きくなっていそうだ。


大切の籠

2006-09-17 11:45:13 | つれづれ
白鳥の飛来地をいくつ隠したる東北のやはらかき肉体は

とつぷりと暮れたる遊歩道をゆく 星見ざる小さき犬に引かれて

泣くわれをじつと見てゐる男あり非の打ちどころなき夫として

わたくしの大切の籠は小さくて春の野草の名前のみ摘む

ふたりくらせばよけいさみしいみちのくのゆきふるみなとまちのよふけは

(大口玲子 ひたかみ)

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『ひたかみ』から、犬の歌、だんなさまの歌、東北の歌。

このところ私の趣味の種類が増えすぎて、収拾がつかなくなりつつある。
家で休養したり、身辺の整理をすることが大切と思う。

ひたかみ 大口玲子歌集

2006-09-13 17:44:47 | つれづれ
花束をもらふなら青 初夏の花舗にあふるる光の束を

鬼灯を喪服の人が提げてゆく後追ひたれど見失ひたり

深くすれ違ひしは君か濃紺の傘さし夢に名乗り合はずき

小刻みにチェロはその向き変へられて奏者より深き恍惚にゐる

咲いてしまつた悲しみ小さき卯の花の鉢を日向へ押しやりにけり

(大口玲子 ひたかみ 雁書館)

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理由はうまく言えないが、今日の私がこころを惹かれた歌。
いい歌を読むと、理屈を言うことがうっとうしくなって、ただ、いいなあと楽しみたくなる。
歌会に出ると、もちろん勉強になるが、理由を言うのにしばしば疲れてしまう。
ここは私のブログだから、好きなように書きます。

きのうの朝日歌壇

2006-09-11 11:17:27 | 朝日歌壇
今日も妻ボランティアより帰りきて夕餉の鯖の味噌煮焦がせる
(小田原市 田口誠一)

遠足に行くみたいだと病む妻は入院準備をさびしく笑う
(河内長野市 西川正治)

数学の補習授業をさぼりたる幼い理屈 つくつくほうし
(愛知県 山本早苗)

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一首目。つつましく殊勝なご夫婦だと思う。わが家なら「今日も妻歌の会より帰りきて夕餉のコンビニ弁当チンす」とでもなるのだろうか。ボランティアと鯖の味噌煮が作者の奥さまの人柄をしのばせる。
二首目。入院の準備のパンフレットは、ときどき古くて実情にあっていないことがある。でも患者としては文句を言うわけにも行かず、さびしく笑いながら準備をするしかない。病弱な妻を見守る夫のまなざし。
三首目。短歌は結句に跳んだ発想の言葉を持って来いと言われるが、これはその成功した例。理屈 つくつく・・・の音の遊びがおもしろい。「幼い」が口語だが、それもまた幼さを演出しているのだろう。


鯵のひらき

2006-09-10 21:24:34 | つれづれ
死に場所のなお決まらざる蝉ありて差し出せばわが指につかまる

手にとって鯵のひらきを折りたたみ子に見せており夕餉の前に

キリトリ線で切り取るごとく丁寧に告げられている全員の解雇

人質のごとく差し出す履歴書の写真の顔は天井を向く

携帯電話持たざるわけを問われたり持たざることにのみわけが要る

(松村正直 やさしい鮫)

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作者独特のものの把握が表れていて面白いと思ったうた。
鯵のひらきをわざわざ折りたたむって、変だがやってみたくなった。
今の世の中で携帯電話を持っていないことは、どこか社会に適応していないことなのだろうか。私も持っていない。子供を保育園や学校に行かせていたら、持っていないと困るんだろうな。

やさしい鮫 松村正直歌集

2006-09-08 21:21:36 | つれづれ
∞(無限大)の瞳となって風船の最後の点を見つめる子供

幸せを何度も自分に言い聞かす君はさびしい半島である

子の小さき二枚の耳を洗いおりかなしき羽根のような耳たぶ

子が乳を飲まなくなりし寂しさというを聞けどもついにわからず

ようやっと昼寝せる子のかたわらに残る虫食いだらけの時間

(松村正直 やさしい鮫 ながらみ書房)

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松村正直氏の第二歌集。子供さんが生まれた時期の歌が多く、父親として子育てに深くかかわる作者のすがたに感心した。会社で仕事してたら、子供が大きくなっちゃったというどこかのお父さんとは違う。実感が表れている。


スサノオの泣き虫 加藤英彦歌集 ながらみ書房

2006-09-05 10:59:29 | つれづれ
圧しかえす力が足りぬあかときの敗走どっと覚めぎわの汗

ふかき疲労の暈(かさ)をぬぐため窓あけて夕闇に首を突っ込んでいる

抱(いだ)きあうかたちの雲がうごかざり愛の濃さとは渇きのふかさ

敗れしは敗者にすぎぬ垂乳根の母恋のスサノオの泣き虫

樹の洞(うろ)からわれを視ている男ありて昨日のわが残像かもしれぬ

汝がこばむこと求めむとする夜の男とはかくさびしきけもの

消しゴムで消すわたくしをわたくしの影をわたしのなかのわたしを

(加藤英彦 スサノオの泣き虫 ながらみ書房)

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作者は、なかなか男っぽい礼儀正しい雰囲気の人。
同人誌『Es』をいただいたことがある。
剛直なようで、弱い一面を見せるのが面白い。

水仙

2006-09-01 22:00:28 | つれづれ
水仙をたばねてかざるひとところかぎりなく死に近き香りす

鬼ヤンマゆらりと影を地におとしむかしの夏へかえりゆきたり

(朝生風子 短歌人9月号)

想い出のひとつひとつに櫂があり駆け抜けてゆく夏の少年

次の葉を摑みそこねている風の飛沫に君の足音濡れる

(江國凛 短歌人9月号)

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短歌人9月号会員2欄から、心に残った歌。
作者にはお会いしたことがないが、それぞれ名前に魅力がある。