夕映えに釈迢空のしんねうが伸びだしてきてねろり張り付く
上映会なれば見知らぬ人たちと並び観てゐる金魚の交尾
奈良がすき奈良はきらひといふときにならはあたしが好きなんやろか
台風のちかづくといふまひる間の日傘しなるわしなるでしかし
反戦川柳作家 一九○九 一九三八
「エノケンの笑ひにつゞく暗い明日」拷問のすゑ鶴(つる)彬(あきら)死す
読み聞かせ、駆けつけ警固、江戸しぐさ、痒いところが余計痒くて
紛う方なき依代としてホテルLOVE生國魂(いくたま)神社の脇に佇む
恵美須東といふ町名はありながら常にひらけてゆく新世界
几帳面に展示ガラスの指紋消す白き作務衣の職員たちは
日常に近くなりゆく奈良のまち自転車に乗り雲居坂のぼる
(勺禰子 月に射されたままのからだで 六花書林)
***********************************
短歌人同人の勺禰子、第一歌集『月に射されたままのからだで』を読む。
勺さんとは短歌人関西歌会、子の会でご一緒している。2007年4月に短歌人会入会ということで、そのときから毎月一回は会い、さんざんお世話になっている。几帳面でしっかりしてられるので頼りにしてしまって、いろいろご迷惑をかけたこともあった。それをちゃんと処理してくれるのが勺さんの強さだ。
第一歌集が出るまで、簡単には書ききれない。本当に嬉しく思う。
一首目、釈迢空と勺禰子の関係はいかに。勺禰子という名前を耳で聞いたとき、ほとんどの歌人は、迢空と思ってしまう。「しやくさんはあの釈ですかと問はるるに十勺で一合の勺ですとは言へず」と言う歌がある。結局どうなのだろう。「しんねう」「ねろり」に迢空のあの感じがよく出ている。
二首目は関西歌会で出た記憶のある歌。本当にこれでいいのか、という微かな戸惑いが垣間見える。三首目。この十年間で彼女の身の上にあったことをここで言うべきではないが、この歌集は相聞が多く、奈良は今のパートナーの象徴と読める。
三首目、四首目にある関西人特有の口調が痛快だ。関西と言っても地域によって大きく違うのだが。
五首目は社会詠。政治の対する意識をきちんと歌集に入れることは大事。逃げずに詠い歌集に入れることは力だ。
六首目は、言葉使いについての違和感を詠っていて、よくわかる。いちいち突っ込んでいては社会生活が成り立たないが、この痒さはよくわかるのである。
七首目、八首目は固有名詞の濃い歌。・・ゆく新世界の句跨りが心地よく広がって行く。十首目。雲居坂の地名が美しい。
土地への愛着は人への愛着である。土地と丸ごと深く関わっていって、やがて一体となることの強さを歌集から感じる。
また、社会詠、言葉へのこだわり、大阪、奈良への愛着は勺禰子を語る上で欠かせないことだ。短歌をきれい事で済ませずに体当たりする強さを改めて感じた。ここに書ききれないので、ぜひ買って読んでいただきたい。
上映会なれば見知らぬ人たちと並び観てゐる金魚の交尾
奈良がすき奈良はきらひといふときにならはあたしが好きなんやろか
台風のちかづくといふまひる間の日傘しなるわしなるでしかし
反戦川柳作家 一九○九 一九三八
「エノケンの笑ひにつゞく暗い明日」拷問のすゑ鶴(つる)彬(あきら)死す
読み聞かせ、駆けつけ警固、江戸しぐさ、痒いところが余計痒くて
紛う方なき依代としてホテルLOVE生國魂(いくたま)神社の脇に佇む
恵美須東といふ町名はありながら常にひらけてゆく新世界
几帳面に展示ガラスの指紋消す白き作務衣の職員たちは
日常に近くなりゆく奈良のまち自転車に乗り雲居坂のぼる
(勺禰子 月に射されたままのからだで 六花書林)
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短歌人同人の勺禰子、第一歌集『月に射されたままのからだで』を読む。
勺さんとは短歌人関西歌会、子の会でご一緒している。2007年4月に短歌人会入会ということで、そのときから毎月一回は会い、さんざんお世話になっている。几帳面でしっかりしてられるので頼りにしてしまって、いろいろご迷惑をかけたこともあった。それをちゃんと処理してくれるのが勺さんの強さだ。
第一歌集が出るまで、簡単には書ききれない。本当に嬉しく思う。
一首目、釈迢空と勺禰子の関係はいかに。勺禰子という名前を耳で聞いたとき、ほとんどの歌人は、迢空と思ってしまう。「しやくさんはあの釈ですかと問はるるに十勺で一合の勺ですとは言へず」と言う歌がある。結局どうなのだろう。「しんねう」「ねろり」に迢空のあの感じがよく出ている。
二首目は関西歌会で出た記憶のある歌。本当にこれでいいのか、という微かな戸惑いが垣間見える。三首目。この十年間で彼女の身の上にあったことをここで言うべきではないが、この歌集は相聞が多く、奈良は今のパートナーの象徴と読める。
三首目、四首目にある関西人特有の口調が痛快だ。関西と言っても地域によって大きく違うのだが。
五首目は社会詠。政治の対する意識をきちんと歌集に入れることは大事。逃げずに詠い歌集に入れることは力だ。
六首目は、言葉使いについての違和感を詠っていて、よくわかる。いちいち突っ込んでいては社会生活が成り立たないが、この痒さはよくわかるのである。
七首目、八首目は固有名詞の濃い歌。・・ゆく新世界の句跨りが心地よく広がって行く。十首目。雲居坂の地名が美しい。
土地への愛着は人への愛着である。土地と丸ごと深く関わっていって、やがて一体となることの強さを歌集から感じる。
また、社会詠、言葉へのこだわり、大阪、奈良への愛着は勺禰子を語る上で欠かせないことだ。短歌をきれい事で済ませずに体当たりする強さを改めて感じた。ここに書ききれないので、ぜひ買って読んでいただきたい。