遠山に秋は素早し土の上の携帯電話小さくふるふ
寝袋に紐を締めれば草原(くさはら)にもつとも小さきわたしの空間
戸隠の山のまひるま無人小屋を小さき箒でひとり掃きをり
ノイズ多き<ペチカ>を歌ふ給油車は雪なき街を行きつ戻りつ
離れ住むむすめはゐないやうなもの葉桜のころメールは届く
三十年過ぎて風の日返さるるエーリッヒ・フロム『自由からの逃走』
廻りくる軍艦巻きの皿取りてそれから本題「辞める」と言ひぬ
何者に戻りゆきたる父ならむ東西相似の病棟広し
まだあつき頭蓋の骨は父にして父にあらざり箸にてひろふ
夜遅き電車に立つひと胸元に港をうすく映してゐたり
(松原あけみ ペロポネソス駅 本阿弥書店)
**********************************
ヤママユの松原あけみさんの第一歌集を読む。
登山のうた、旅行詠、家族詠が中心の歌集。家族との交流が深く、その理解のもとに趣味や旅行をされている様子がまぶしく感じられる。作者の人柄の良さから来るものだろう。
<ペチカ>や『自由への逃走』など固有名詞の出し方がおもしろい。
寝袋に紐を締めれば草原(くさはら)にもつとも小さきわたしの空間
戸隠の山のまひるま無人小屋を小さき箒でひとり掃きをり
ノイズ多き<ペチカ>を歌ふ給油車は雪なき街を行きつ戻りつ
離れ住むむすめはゐないやうなもの葉桜のころメールは届く
三十年過ぎて風の日返さるるエーリッヒ・フロム『自由からの逃走』
廻りくる軍艦巻きの皿取りてそれから本題「辞める」と言ひぬ
何者に戻りゆきたる父ならむ東西相似の病棟広し
まだあつき頭蓋の骨は父にして父にあらざり箸にてひろふ
夜遅き電車に立つひと胸元に港をうすく映してゐたり
(松原あけみ ペロポネソス駅 本阿弥書店)
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ヤママユの松原あけみさんの第一歌集を読む。
登山のうた、旅行詠、家族詠が中心の歌集。家族との交流が深く、その理解のもとに趣味や旅行をされている様子がまぶしく感じられる。作者の人柄の良さから来るものだろう。
<ペチカ>や『自由への逃走』など固有名詞の出し方がおもしろい。