団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

権兵衛がエビまきゃカラスがつつく

2008年04月18日 | Weblog

 熱海駅を境にJR東海とJR東日本が分かれる。線路上に何の境界線も敷かれていないが、見えない形で“むこう”と“こっち”を分けている。ICカード型乗車券のスイカとトカコの互換性もない。

 静岡県由比の桜えび漁が解禁になった次の日、桜えびを天日干しにする光景が見たくて由比へ行った。貸し自転車を駅の駐輪場で借りた。“一日乗り放題500円 由比シルバーセンター管轄”の看板のキャッチフレーズが気に入った。そこのおじさんに尋ねた。「桜えびを干しているところを見たいのですが」 おじさん「お客さん、えびはここじゃ干さねえよ。ここから二つ目の駅“新蒲原”で降りて、タクシーで15,6分の富士川の川原で干してる。でも今日行ってもまだ干していないよ。今年はエラい豊漁で去年の3倍は獲れてるみてえだ。最初はみな市場へいっちゃって干すのはまだ先だ。港で桜えびのかき揚丼でも食べてこられりゃいい。この街は自転車が一番。見所はすべてこの街道沿いだ。これ案内図」と渡された。観光ガイド本なんかより、ずっと土地の人のほうがよく知っている。どこへ行っても口で尋ねて、耳で聞く、これにまさる観光ガイドはない。その日は自転車で街をめぐり、おじさんに薦められた桜えびのかき揚げ丼を港の漁協で食べて帰ってきた。

 15日、久しぶりの快晴だった。今日こそはと再び東海道線に乗り富士川の川原を目指した。熱海で15両編成の電車から『島田行』の3両の電車に乗り換えた。JR東日本とJR東海は異文化をもつ。まず発車の仕方が違う。JR東日本の電車のドアは勢いよく案内もなくシューッと閉まる。JR東海はまず3両目の最後部の窓から顔を出した車掌が笛を「ピピピーピッピッピー」と元気よく吹き、ドアのチャイムが「ピンポンピンポンピン」と優しくのどかに鳴る。電車の乗客はJR東日本は観光客でいっぱい。JR東海は生活者でいっぱい。函南駅を出てから進行方向右手側に天気がよければ富士山が長い区間見える。左手の太平洋、右手の富士山、これを両手に花の気分で満喫。天気の恵まれ、右へ左へ首がねじれそう。

 新蒲原で下車。でもタクシーがいない。小さな駅。待つこと10分やっと古びたタクシーが来る。「桜えびを干しているとこ見たいのですが」と私。「あいよ」とまたかいの雰囲気を、声にしのばせ運転手。出発。無言の十数分。

 治水工事完璧のコンクリートの土手を越えると富士川の流れと広い川原。そこに黒いシートがずらっと並ぶ。雪を抱いた富士山がくっきり見えて、遠いところで国道1号線の富士川を渡る橋の上をひっきりなしに車、特に大型トラックが行きかう。黒のシートにいろいろな赤系統のえびがまるで絨毯のようにひろがる。

 広い川原にカラスの大群。カラスを追い払うおじさんたち。逃げる。降りる。喰う。逃げる。カラスがあれほど狂ったように喰うのだから、干した桜えびは旨いに違いない。鯨の主食もオキアミでエビの一種だ。あのでかい体を維持するぐらいだから良質な食料であることは間違いなさそうである。それにしても生産者にとっては、
カラスにみすみすタダ喰いされて、大変な損失であろう。ここにも熾烈な自然の戦いがあった。

 観光案内はその土地のおじさんに。旨くて健康によいものはカラスに聞けばいいのだという教訓を胸に、春の川原を散策。駅まで歩いた。万歩計13、765歩。久々の心地よい疲れとともに三島、熱海と乗り継いでJR東日本国のせせこましくいらだつ観光客でいっぱいの領土に帰還した。
(写真:干し終わったエビをまとめる生産者)

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