私が逃げてきたこと
① 組織で働くこと
② 結婚斡旋
③ 宗教勧誘
① 週刊文春に『それでも社長になりたいあなたへ』という日本で“ソフトブレーン”を創立した中国人の栄文洲のコラムがある。10月12日号に彼はこう書いた。「・・・私は日本の大企業の社長になりたくありません。・・・まあそもそも先方が『お前みたいな中国人に頼むわけがない』とおっしゃるでしょうけど。・・・先日中国人の経営者と会食しました。・・・安いジャンパーを着て社員に酒を注ぐ姿は、百四十以上の会社を持ち、プライベートジェットで世界中を飛び回るグループ統師には見えません。・・・一方日本の大企業のトップには気難しい性格と、周囲の尋常ならざる忖度が付き物です。いつどこにいても『この人は役員だな』とすぐわかります。・・・日本の大企業では、『上司・部下』『先輩・後輩』などのように、『上』『下』、『前』『後』などの位を示す言葉が良く使われています。・・・」
私は神戸製鋼、日産自動車、スバルの役員がテレビカメラの前で深々とお詫びする姿を見ながら、栄さんのコラムを思い出した。日頃私が感じていることを栄さんは、書いていた。“ものづくり日本”という評価は、けっして会社に与えられたものではなく、職人や会社員個人のものである。多くの日本人は、日本の会社が世界でもトップクラスの製品を作っていると信じている。本来なら会社は組織として、同業他社と生き残りをかけて競い合う。明治維新から百数十年しか経っていない。日本の会社は、封建時代の藩のようなものである。ただ社長の多くは、世襲ではない。それが故に会社内の出世競争は、激しくなる。オリンパス、東芝、神戸製鋼、日産、スバルなどの不祥事は、ほとんどが内部告発だと聞く。ここは、封建時代と違う点である。内部告発などしようものなら、封建時代なら打ち首切腹であったであろう。少しずつではあるが、進歩している。
内部告発がでるような環境が悪いのであって、内部告発する事自体が悪いこととは思わない。日本の旧態依然のもろもろの制度風習の改善への風穴になると信じる。栄さんは、『それでも社長になりたいあなたへ』のコラムを書くきっかけは、「社長になりたくない若者が増えた」ことだったと言う。それでも社長になりたいと思う若者を応援したい、というのが栄さんの本心なのだ。
② 塾で教えたので、多くの生徒に関わった。授業中バツいちの身でありながら、「将来、結婚できなかったら、相談に来い。良い人紹介するから」と豪語した。のちに私に相談に来た生徒は、一人もいなかった。しかし、結婚していない生徒は、驚くほど多い。私の二人の子どもは、それぞれ家庭を持った。私は子どもの結婚にまったくアドバイスも関与もしていない。親戚でもまだ結婚していない甥や姪も多い。
離婚して再び独身に14年間戻っていた。寂しく虚しく感じたが、独り身の心地よさも感じた。この時代、食べ住む着ることに不自由はない。洗濯、掃除、調理も家電製品の助けもあって何とかなるものだと体験して知った。
多くの若者が結婚したくない、と言う。日本の若者は、中学高校のもっとも異性への思いが強まる時に、その思いを削ぐような指導や道徳感や社会慣習に圧迫される。私はカナダの高校へ留学して、かの地の若者の異性への関心の強さと行動力に圧倒された。日本では、ごく一部の生徒しか見られなかった現象である。
③ 宗教と政治の話は、不特定多数が集まる場でするな、とよく言われた。私自身は、キリスト教、仏教に自分なりに深く関わった。再婚して妻の海外赴任に同行して、ヒンズー教、イスラム教、セルビア正教、ロシア正教が主なる宗教の国々で暮らした。どの宗教が真実なのかと探し求めた時もあった。しかし私にとっての真実の宗教は、見つからなかった。だから宗教には、関わらないことにしている。
30日午後、神奈川県座間市で9人の遺体の一部が、白石容疑者のアパートから発見された。おぞましい事件である。まるでアメリカの刑事ドラマに出てくるような猟奇的事件だ。人間の中に存在する計り知れない暗闇に面食う。我が家に最近やたらと出没するムカデを見つけた時、本能的に戦慄をおぼえる。しかしこの事件が私に与えた衝撃は、暗闇に目を背けたくても人間の本性にある残虐で原始的な行動が確かにあることかもしれないと恐れるせいかもしれない。