再婚した今の妻に、時々グサッと突き刺さることを言われる。「あなたには2人も子どもがいる」 妻は、自分に子供がいないことを、やはり気にしているのだろうか。妻は、子供の頃から自分のDNAは残さないと決めていたという。私は最初の結婚で二人の子供の父親になった。計画的に子を持ったというより、事の成り行きとでも言ったらいいのか。離婚してその二人を私が育てた。
日本は、少子化が国の存亡を揺るがしかねない事態に追い込まれている。現政権も少子化対策を重視しているが、状況を変えられるような政策は出されていない。40年ほど前、ロケット博士の糸川英夫氏の講演会で、博士は「この先、日本の人口は、今の半分になって豊かな暮らしやすい国になる」というような事を言った。当時私は、人口が減ると日本は良くなると信じた。カナダ留学時代、まわりの現地の人から頻繁に「日本は、国が小さいのに人口密度が世界で最も高いんだって、ギュウギュウ詰の東京の電車みたいな所で、皆どうやって生活しているの?」などと言われた。何か人口密度が高いことが悪いことのような言われ方に、私は落ち込んだ。
カナダから長野県に帰って暮らした。高校の同窓生の多くが地元を離れていた。東京一極集中が加速していた。長野県のような農業主体なところは、嫁不足が深刻な問題になっていた。結婚相手を海外から迎い入れることも多くなった。
第二次世界大戦の前、私の母方の祖母は、9人、父方の祖母は5人の子供を産んだ。私の両親は、4人。5人目の出産で、母と赤ちゃんが死んだ。後に母の妹が継母になった。継母は、「もし私が子供を産んでいれば、家族の中が複雑になると思ったので、あえて子供を産むことはしないようにした」と語った。その先見性と強い意志は、私のような軟弱で、行き当たりばったりで生きてきた者にとって、眩しい程気高く見える。
妻が子供を産まなかったせいもあるが、私たち夫婦の周りには、子供がいない夫婦が多くいる。夫婦二人の問題なので、理由は聞かない。子供が欲しくても恵まれないこともあるだろうし、あえて子供を持たない夫婦もいるだろう。私の姪にも結婚しなかった者もいる。結婚したくてもできなかった姪もいるし、自分から独身を決めている姪もいる。
妻の母親がある時、私たちに「子供を産めば。私が育てるから」と言った。私たちの結婚にあれだけ大反対した人が。変わってくれたことは、嬉しい。でも私は、離婚後子供二人を育てた、長男に続いて長女が大学を卒業して、毎月の仕送りをしなくてもよくなった初めての月、通帳にしっかり残高があった。それを見て、膝から崩れ落ちるのではないかという気持ちになった。奴隷だった人が、自由人になれた気持ちって、こんなだったかもしれない。
再びあの苦しい仕送りは、もうできない。やる気も起こらない。世間には、血のつながらない他人の子を養子にして育てる立派な人もいる。やはり私は、寛容でもなく度量の小さい人間である。二人の子供を自立させたことで放免して欲しい。
なるようにしかならない。ただ、今は、お布施集めに夢中の新興宗教が、その財力で「産めよ 増やせよ 地に満ちよ」と言って、信者数を増やすために出産を勧める方針を出さないことを願うのみ。