団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

隠し撮り

2012年06月22日 | Weblog

 6月21日午前7時11分に家を出た。前日に引き続いて再び箱根に向かった。台風一過にすべてを賭けた。ネットで前日調べた箱根近辺の天気予報では、午前9時まで晴れだった。家を出る直前に調べた時は、午前3時まで“晴れ”それ以降は“曇り”か“雨”だった。箱根芦ノ湖近辺に前日のような霧はなかった。期待は高まるばかり。展望台に到着。しかし本来見える筈の方角に雲が厚く立ち込めていた。二人並んで立った。雲の流れは静岡県側から神奈川県側へ速かった。そこに立って数分のことだった。麓から少しずつ、まるで歌舞伎座の緞帳が上がるように雲が切れてきた。何やら黒ずんだ雲とは違う何千年を生き抜いた屋久杉の切り株のようなモノが登場してきた。緞帳が上がりきった。私は車に逃げ込んだ。胸が張り裂けそうだった。フロントグラスからじっとマミーを見ていた。ぼやけて見えた。

 19日に彼女が到着してすぐ聞いた。「カメラとかビデオカメラとか持ってきましたか?」 彼女は言った。「写真は撮らずにすべてを心に遺すことに決めてきました」 その答に彼女の覚悟が込められていた。桜の季節に来日することを勧めた。残念がったが彼女には時期で決めることは不可能だった。そうとも知らずに能天気な私は「何もわざわざ梅雨に来ることはない」と不満だった。そんな馬鹿な自分を呪いたかった。

 フロントガラスはスクリーンのようだった。私は決めた。これだけは、写真に遺そう。彼女は胸の前で腕を組んで微動だにせずに立っていた。デジタルカメラをフラッシュが作動しないようセットした。彼女に気づかれないようシャッターを押した。確認ボタンを押して取れているか見た。(写真参照)

 4,5分して彼女は車に戻った。「魔法」と英語で言った。「奇跡」とは言わなかった。あの方角に私の目を向けた。そこに富士山の姿はなかった。ただ雲海が横たわっていた。

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