バスの中でおじいさんとおばあさんが話している。「あんたさあ、いつも今日みたいに、杖使わなくちゃダメだよ」「ああ、そうすることにした。家の前の段で転んでえらいことした。死ぬかと思ったさ」 二人の会話が続く。参考になると思い、ずっと耳を傾けていた。
今年の正月から私は、腰を痛めている。26日になる今日もまだ完治していない。7,8年前に痛風で歩行困難になった。その時杖を買った。今回の腰痛にも、その杖の厄介になっている。
あの日バスに乗って驚いた。乗客は5,6人だった。そのほとんどが杖を持つ老人だった。もちろん私もその中の一人。腰痛ベルトを妻の出勤前に巻いてもらった。妻は力持ち。ギュッと閉める力の強いこと。ベルトのお陰で歩くことはできる。しかしどうしても動きがぎこちない。そこで杖の出番である。3本目の脚となる。杖があると歩きやすい。特に道路の起伏は、危険個所である。歩道でも決して安全ではない。各家の駐車場などの入り口は、歩道を不規則な凹凸になっている。敷石タイルが同じ色なので、足腰が弱い老人は、段差でこける。杖を持っていると、この咄嗟のよろめきを3本目の脚でガッチリと支えることができる。歩道を歩かずに車道を歩く老人が多い。これは歩道が実はとてもこけやすく造られているからだ。歳をとって初めて見えてくることがある。
散歩していて気が付いた。3本足4本足(スキーで使う2本組のストックのような登山用の製品)の老人が何とたくさんいることか。腰痛ベルトして杖をつく。私もその一人。バスに乗っていたおばあさんがおじいさんに言っていた。「あたしが転んで入院したら、6人部屋の全員が転んで骨折した人だった。先生が言ってたよ、転ばぬ先の杖ってさ」