またやってしまった。バルミューダの空気清浄機のフィルター交換の警告灯がオレンジ色に点灯した。我が家の台所は仕切りがなく、どうしてもニオイが居間などの他の部屋に出てしまう。友人がバルミューダの空気清浄機を使ったら良くニオイが取れると教えてくれた。さっそく購入。確かに効果抜群だった。本体は3万円くらいだった。フィルターの交換は1年ごとにと説明書に書いてあった。最初の交換は、純正品を使った。本体が3万円で交換用フィルターが約1万円。私にはとても高く感じた。
今年の夏2回目のフィルター交換を知らせるオレンジ色の灯がついた。通販サイトのアマゾンで調べると代替品が純正品の半額以下で売られていた。値段が私を即決させた。注文して2日目に品物が届いた。早い、便利と口元がゆるんだ。箱を開けて説明書を探した。ない。以前の純正品には付いていなかった、プラスチックの袋に入れられた不織布があった。袋に赤い文字で23か国語の注意書きがあった。日本語はない。英語表示を読んだ。「警告:プラスチックの袋は危険をもたらす可能性があります。窒息を防ぐためにこの袋を赤ちゃんや子供が触れない所に保管してください」 これは恐らく子供が事故を起こした時、責任逃れのための布石であって、このフィルターの説明書ではない。フィルターが入っていた梱包段ボールもいかにも怪しげな質の悪いものだった。箱に大きな文字でMADE IN CHINAとある。バルミューダの純正品も中国で生産しているのであろう。生産を他国の会社に委託すれば、そこから技術や製法が流出するのは必然だ。バッタモンであろう。“二度と安物買いの銭失い”はしまいと誓う。
以前パソコンにある日本製のプリンターをつないで使っていた。プリンターも本体は、家電量販店で安く買える。本体を安く売って消耗品で稼ぐ。携帯電話会社が最低2年間の契約をすれば、本体を無料にした。それでも電話料金で稼げるからだった。多くの会社がこの形式を真似ている。プリンターのインクは驚くほど高価である。当然純正品でない安いモノが出回る。イタチごっこが始まる。プリンターの会社は純正品でない消耗品を設置するとモニターに警告文を表示。「純正品を使わないと機械の故障の原因となります」 値段は購入の決定的な判断材料である。自分で勝手に、“大丈夫、製造会社はこんなこと言ってるが、ちょっとやそっとで日本のメーカーの製品が壊れるわけがない”と思って、モニターの警告を無視して「使用続行」をクリックした。結果インクが漏れて機械が使えなくなった。
チュニジアに暮らしていた時、現地の友人に頼んで車のバッテリーを買いに行った。アラブ系の国の買い物は、日本人には難しい。定価というものがない。交渉で値段が決まる。だから大きな買い物は、常に現地の人を頼っていた。無事バッテリーを新品に取り換えた。友人が古い私のバッテリーを欲しいと言った。あげた。すると一緒に来るように誘われた。彼は農場を持っていた。毎年、羊を放牧していた。羊の世話をベルベル人の一家に任せていた。彼らは農場の木陰にテントを張って暮らしていた。契約が終わると期間内に生まれた子羊の1割がベルベル人の取り分だという。友人は私のバッテリーをベルベル人のテントに持って行った。テントの中に古い小さなテレビがあった。画面はいわゆる雪が降っているような状態で、かろうじて映像が観られる状態だった。友人が「あなたのバッテリーでこの家族は1カ月以上テレビが観られるでしょう」と言った。一家の主がテントから出てきて丁寧に礼を述べた。
私は日本に帰国して、チュニジアのあの羊の世話をしていたベルベル人の家族が想像もできないくらいのモノに囲まれて暮らしている。テレビは4K対応の液晶大画面である。画面はキレイでベルベル人が観ていたテレビのような雪が降る状態からは程遠い。バッテリーもいらない。家はテントではない。鉄筋コンクリート。エアコンは、外が33度の猛暑でも快適に過ごせる室温を保ってくれる。「モノ余って、ヒト劣化する」の1例になりつつあった。
海外で私は何を見てきたのだろう。成長のあとがみられない。人間的に決して成熟したともいえない。同じ過ちを繰り返す。軌道修正しよう。恵まれた時代に生きることを素直に感謝する。安物買いの銭失いでなく、賢い金の使い方を学ぼう。まだ間に合う。