団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

漢字パズル

2019年06月28日 | Weblog

 外に出られない。やれ台風3号が来る。大雨になる。数日前は気温が上がるので熱中症に注意。私が外に出ることを諦めさせようとあの手この手を使ってくる。加えてここ数日、右脚の閉塞性動脈硬化症の症状が悪化して歩くことに支障がある。7月に高校の同窓会の有志が江戸城36見附廻りの案内を送ってくれた。コースは赤坂見附→山王社(日枝神社)→溜池→虎の御門跡→幸橋御門跡→山下御門跡→数寄屋橋御門跡→南町奉行所跡→鍛冶橋御門跡→北町奉行所跡→呉服橋御門跡→金座(日本銀行・貨幣博物館見学)だ。“ゆっくりなのでどなたでも歩けます”と添えられていた。でも私は無理。皆に迷惑をかけられない。この会は、東海道を何回にも区切って歩ききり、同じように小刻みに中山道も制覇。今年はネパールへトレッキング遠征までやってのけた。とにかく私と違って健脚である。羨ましいお達者な一軍である。同じコキイチの人間とは思えない。

 外に出られない時は、どうするか。今はまっているのが漢字パズル。妻が朝6時40分に家を出て夕方6時に帰宅するまで約12時間私は家に一人でいる。時間はたっぷりある。買い物や夕飯の用意は数時間で済む。まだ10時間残る。以前は読書や執筆に多くの時間を割けた。集中力が翼をはやしてどこかへ飛び去ってしまった。テレビは目が痛くなるだけでつまらない。ネットフリックスやアマゾン・ファイアーテレビの映画も一人で観ても面白くない。妻と一緒に言いたい放題観て、観終わってから、ああだこうだと話すほうが楽しい。

 最近時間を忘れられることに、ようやく出会えた。漢字パズルだ。英語のパズル、日本語のクロスワードパズル、そして漢字パズルにたどり着いた。一番相性がいい。時間を感じない。また全問の答えを書き込み、やり遂げた時の喜びも大きい。

 私が好きなのは、縦26センチ横60センチの大判の漢字パズルだ。別の169個の漢字が入るチェック表。まず拡げたパズルの大判には縦24マスと横に56マスの合計1344マスがある。パズルなので黒く塗られたマスもある。またあちこちに漢字が配置されている。その漢字が解くカギとなる。全般を見渡す。あちこちの漢字から糸口を見つけようと目を走らせる。例えば□状□憶□□とある。もしや“形状記憶”? でもうしろの2個の□□に入るのは何。とりあえず□の中に小さく“形”を入れる。チェック表の116のマスに“形”と書き込む。さてそれから1344マスのはじからはじまでのマスの中から116を探す。ここで役に立つのが音楽だ。私はクラシックのCDを用意してある。その日の気分で曲を決める。モーツワルトの交響曲40番に目を動かす速度を合わせて116を探す。最初の行にない。次もない。あきらめかけはじめた半分を過ぎた所に116を発見。この喜びが半端でない。会いたかった友人に再会できたような気持ち。見つけた116のマスに“形”を記入。“空□形”すでに“空”は印刷されている。□に何が入るか考える。手形が浮かぶ。小さく“手”を67のマスの中に書く。試行錯誤を重ねて進む。ついに“□状□憶□□”の後ろ2個の□が“合金”と他を解いたことによってつながった。

 パズルはこれだけで前に進ませてくれない。私はモーツワルトの交響曲の響きに促されて、事業をしていた時、銀行から借入金の多くが、手形借入れだったことを思い出す。苦労した。返済を延ばしてもらったこともあった。手形の書き換え。今は手形と縁がない。それだけでも幸せだ。そんな事を思い、時間が過ぎる。気を取り直して、今度は67“手”を探し始める。漢字は1個しか使われていないこともあれば、10個以上使われていることもある。

 私は英語を自分が経営する塾で教えた。英語を学ぶことに多くの時間を使った。記憶力に劣る私は、優秀な人より何か覚えるのに時間がかかる。それでも英語が好きで秀才なら数か月で習得することを10年以上かけなければならなかった。英語が好きになった。英語を学べば学ぶほど、日本語に敬意を持った。特に漢字の素晴らしさには魅了された。

 漢字パズルを解きながら、私は自分が歩んできた過去を浮遊する。その心地よさに酔っている。嫌な事件も孫の病気も自分の老いも脇にどいてくれる。モーツワルトのCD3回繰り返して聴いて、やっと169個の漢字すべてを埋めた。


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