団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

エメラルド・ホタルイカ

2017年05月23日 | Weblog

①    富山湾 ホタルイカ

②    ネパール  ホタルツリー

③    水族館 ネオンのようなクラゲ

①    毎年恒例行事のように5月にどこかしらのテレビ局が富山湾のホタルイカ漁の映像を流す。テレビの画質は改良され年々美しくなる。私はエメラルド色に光り輝く引き上げられた網の中のホタルイカに「こんなではない」と文句を言う。本物は違う。ホタルイカのエメラルドは、実際に自分の目で見なければ。私が初めて滑川の漁港から観光船でホタルイカ漁を見たのは、もう20年以上も前だ。妻の父親と妹、私たち夫婦とアメリカから帰国中だった私の娘の5人で車で行った。旅館に泊まりホタルイカ尽くしの夕飯を取り翌朝3時に起き港へ観光船に乗るために行った。私は何の期待もしていなかった。旅館の夕食に出たホタルイカを美味いとも思わなかった。船が出た。漁場は近かった。集魚灯が消され、あたりが真っ暗になった。網が漁師たちによって引き上げられる気配を感じた。ポッ ポッポ、ポッポッポ。次から次とエメラルド色の光が点り始める。やがてそれが網のたわわな膨らみ全体に拡がる。観光船には40人くらいの観光客がのっていた。静寂。息する人もいない。漁師の一人が網からホタルイカを手でつかみ、客に向かって放り投げた。「キャーッ」と歓声が上がった。目が覚めたように現実の世界に戻った。数分の沈黙がエメラルド色効果を高めた。私は網の中に入って光に包まれたかった。

私は自分が生き物だと自覚している。生き物の自分ができないこと、空を飛ぶ、自分の体の色を変える、光を放てるなどに驚嘆する。そしてもし自分が空を飛べたら。自分の体の色を変えることができたら。光を放つことができたら。・・・と空想することが好きだ。空想をして自分には結局できないのだと自覚する瞬間、それができる生き物に畏敬の念を持つ。

②    我が家の裏庭にもそろそろホタルが飛来する時期である。ホタルといえば思い出すのがネパールで見たホタルツリーだ。ネパールに住んでいた時、日本の製鉄会社に勤める友人が私にぜひ見せたいものがあると誘ってくれた。友人の会社が受注して建造した橋がネパールとインド国境近くの山中にあった。その橋はすでに完成していた。(写真参照: 子供の後ろあるのが橋)友人はすでに帰国寸前だった。見せたいものが何なのか友人は言わなかった。まるでミステリーツアーである。妻は仕事でカトマンズに残った。友人が施工した橋を見学してすでにネパール人に払い下げられていた元宿舎に泊まった。夕食も終わって部屋にいると友人が来た。「さあ、行きましょう」 私は驚いた。なぜなら彼が私に見せたいと言ったのは、彼が関わった橋だと思っていたからである。彼が運転する車で宿舎から20分くらいの森の中へ行った。真っ暗だった。車を止めてライトを消して彼は黙って指さした。私は指された先を見た。嘘だ。木全体が同調して何百万という消えたり点いたりする小さな灯りに被われていた。一本だけの木ではない。並木のように列をなす木がそれぞれ競うように灯りを点滅していた。彼が「どうしてもこれを見てもらいたかった」とポツリと彼が言った。彼の気遣いが嬉しかった。ホタルツリーの点滅がしばらくぼやけた。長い時間二人で黙ってホタルツリーを見た。

③    水族館のクラゲにも光を発するものがいる。照明を消した館内の水槽の中をユラユラ上下するクラゲ。よく見ればヒラヒラさせている傘のようなクラゲの縁がネオンの管が入っているように光りが移動する。青、紫、黄色、白。クラゲが動くたびに揺れ動く。私の目はクラゲそのものよりネオン管を移動する等間隔の色の帯を追う。生き物にこんな装置がついていること自体が不思議である。見とれる。何もかも忘れて。


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