団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

フキの皮むき

2016年03月23日 | Weblog

  母ちゃんが新聞紙を拡げる。父ちゃんが山へ行って採ってきたヤマブキの皮をむく。床にべったり座って黙々と作業する。私はフキの皮むきが好き。でも爪の中が黒くなり指も汚れる。いつの間にか母ちゃんの真向いに腰をおろしてフキを手に取る。フキの先端に爪を入れ、皮をめくりあげる。皮を指でつまんでサ~ッと引き下ろす。快感。ヤマブキは細い。3回も繰り返せば一周する。皮をむかれたフキがどんどん山になる。

  行きつけのスーパーで太いフキの束を見つけた。私の思いは遥か60年の時をさかのぼる。カゴにフキの束を入れてしまった。約70センチのフキはカゴにおさまりが悪い。二つに折り曲げるのも気が進まない。フキは繊維質なのでポキッと折れない。グニャッとなるだけだ。仕方がなくカゴから半分以上ブラブラさせながら買い物を続ける。他の客に当てないよう気を使う。レジで「持ちやすいように半分に切りましょうか?」と尋ねられた。「いいえ、このままでお願いします」「かしこまりました」支払いを済ませて駐車場へ。車の中に入れてしまえば、フキも邪魔ものではなくなる。

  20日の日曜日妻と買い物に行った。フキを見て二人でフキの皮むきをしようと思った。先日のフキはニシンと煮て2日で食べ終えた。妻は茶色いおかずは嫌いと言う。茶色いおかずは、貧しさを彷彿させるから。子ども時代に指や爪の中を黒くして母親の手伝いをさせられたという悪い思い出でもあるそうだ。妻のフキに対する考えを変えてあげようと思った。

  家に戻って買ってきた食材の下ごしらえをした。フキは最後にまわした。長いまま茹でられれば良いのだが、この長いフキをそのまま茹でることはできない。皮をむくのは長ければ長いほど気持ちがいい。鍋には入らないのでフキを半分に切った。大きなバットになら入る。熱湯をフキが並べられたバットに注ぐ。私はすばやく百数える。湯を捨て、冷たい水を何回か取り替えながら冷やす。二人並んでペティ‐ナイフを持つ。ナイフを先端の皮のところに3,4ミリ幅に入れる。ナイフを起こす。親指で皮をナイフに押さえながら、一気に引き下ろす。フキの皮は途切れることなく、筋に沿ってまっすぐむける。気持ちいい。妻もまんざらではなさそうだ。昔のように指も爪の中も汚れることもない。フキを食べなくても他にいくらでも食べ物はある。

  フキは栄養成分をほとんど含まない。繊維が多いので腸の働きを促すと言われている。私はフキに栄養や健康効果を求めていない。フキという日本原産の食べ物が持つ日本人との関わりに興味を覚える。私の父は「フキの苦みが美味いと感じるようになれば大人だ」と言った。大人になりたいと子供ながらに努力した。他に食べるものがあまりなかったから、仕方なしに食べた。美味しいとは思わなかった。皮をむくのだけが楽しかった。68歳になりハウス栽培で一年中出回るフキを店で買うことができる。品種改良もされているのだろう。アクも強くはない。それでもほのかに残る苦みを私は求めるように味わう。父の言った“大人”になったとは大きな声で言えないが、フキを口にして「美味い」と心から言える。

  夕食でいつもの強いジン・トニックを飲みながら、妻が「美味しい」と言ってくれたことが何より嬉しかった。晴れるという天気予報が当たらず一日中雨だったが腹は立たなかった。


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