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妻が遅い夏休みを1週間取れた。家でゆっくり溜まった疲れを取りたいと言っていたが、19日(水)に伊豆へドライブに出かけることになった。家を出た午前6時ごろは、雨が強く降っていた。お昼までには晴れ間が出るという天気予報を信じて、伊豆半島ドライブを決行した。時間が経つにつれて、雨が小降りになってきた。
修善寺を過ぎて湯ヶ島方面の山の中へ入った。道路は狭く、対向車が来たら、どうすれば違うことができるかとハラハラしながら進んだ。普通の人々の夏休みも終わり、その上雨の所為なのか、対向車とすれ違うことがなかった。狭い道でのすれ違い恐怖症の私には助かった。雨にけむる伊豆山中はまだ緑が色濃く覆っていた。ススキの群生地で車を停めた。猛暑が続いた後での雨は、湿気を不愉快なほど高め、車から外に出ると眼鏡が曇って何も見えなくなるほどだった。
雨が止んだので、林の中に入って歩いてみた。林の中の落ち葉がしっとりして濡れていた。しばらくするとキノコがあちこちに顔を出していた。私はキノコ採りを師匠と呼べるほどの人と一緒でないとしないことにしている。過去にベニテングダケを故郷のスナックで供され、あわや命を落としたかもしれない目に遭った。それ以来、野生のキノコに必要以上に警戒している。たとえ食べるためのキノコ採りでなく、キノコがあちこちで生えているのを見ているだけで満足できる。妻はまったくキノコに対して食べる以外興味がない。私が喜んでキノコを覗き込んでいていても、スタコラさっさと先に進んでしまう。「イノシシ注意」の立て看板にもお構いない。
二人で林の道を進んだ。私の目は地べたを、妻は森林浴をするように深呼吸しながら視線を常に上へ向けている。私はイガ栗二つとキノコが5、6本生えているのを見つけた。キノコ採りの師匠たちから菌輪(きんりん:キノコが輪になって生える状態。英語ではフェアリー・リング:妖精の輪)の話を何度も聞いている。それは菌輪ではないが、たとえ5、6本の群生でもフェアリー・リングに匹敵するほど私を喜ばせた。一人で山の中を歩き回って夢中でキノコを探していて、もしもキノコが大きな輪になって群生していたら、食用だろうが毒キノコだろうと、幻想の世界に入り込んだ気になるだろう。ムラサキシメジや真っ赤の地に丸くて白い斑点などの入ったキノコだったら尚更だ。舞茸という名前は、見つけると踊りだすからと聞いた。キノコの魅力は、妖しさにある。
いよいよ秋か。いい構図である。カメラを向けて注意深く撮った。(写真参照)妻を追いかけて写真を見せた。デジタルカメラは便利である。即撮った写真を観ることができる。妻は「いい写真だね」と褒めてくれた。雨が再び強く降り出した。急いで車に戻った。猛暑がやっと途切れた日、伊豆半島の山中で道草をくったお陰で「小さな秋みっけ」と気が滅入ることの多い現世を離れることができた。森の妖精たちの魔法かな。