団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

幻の魚

2010年01月19日 | Weblog
 王子製紙が北海道猿払村に所有する猿払川流域の社有林2660ヘクタールの河川と周囲の森林をイトウを保護するために「環境保全区」にすると発表した。嬉しいニュースである。

 私はサハリンでイトウを見た。ユジノサハリンスクの市場でイトウが売られていた。もちろんロシアでもイトウは、絶滅危惧種に指定されている。ところが法はあっても遵守されてはいない。取り締まりは穴だらけなのである。

 サハリン自然教室の私の恩師、リンさんは、釣りが人生と言い切る人である。特にイトウの話をさせたら、止まることはない。映画『釣りバカ日誌 ファイナル』で浜ちゃんは北海道で彼の究極の釣りバカの最終の獲物としてイトウをあげている。「イトウを釣ったら死んでも良い」とまで言わしめる。釣り好きだった作家、開高健のイトウに対する思いいれも何冊もの釣り紀行の本に書かれていた。私は、凄い魚だと印象が強く残った。 イトウは体長1~1.5メートル体重25キロから45キロ、寿命が20年といわれる大型の淡水魚である。サケの祖先といわれてもいる。

 確かに立派な魚であった。私は、リンさんとサハリンの河川へ釣りをするために渡り歩いた。リンさんが最後にイトウを釣ったのは、もう10年も前だという。ある日、リンさんと買い物に行った市場でイトウが売られていた。私は、イトウを買って食べてみたいと言ってしまった。リンさんは「山本さん、イトウは買って食べる魚と違います。川でイトウと闘って闘って、勝って釣り上げた人だけが食べてもいい魚の王様です。絶対買ってはいけません。わかりますね」 あの時の自分の愚かさと、恥ずかしさを忘れることはできない。リンさんにして王様と言わしめたイトウの存在感が私を打ちのめした。そしてリンさんの哲学にも圧倒された。今でもあの時のリンさんの目の鋭さを思い出す。

 王子製紙の英断が、いつかイトウが悠悠と猿仏川を絶滅の危機を乗り切り、泳ぐ日につながるよう祈る。

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