団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

アフリカの太陽

2009年11月02日 | Weblog

 都合により11月4日投稿分を本日掲載します。

 現在経営が行き詰まり、迷走している日本航空の内情を小説にしたと思われる、山崎豊子著小説『沈まぬ太陽』が映画化された。早速映画館へ足を運んで観てきた。観ていて日本人の偏見に腹立たしくなった。だいぶ前になるが、商社マンに人気のない任地について聞いたことがあった。1位中近東 2位 アフリカ 3位インドだった。今回映画を観ながらこのランキングのことを思い出した。映画を観ているうちに不愉快さは、募るばかりだった。官庁でも民間会社でも日本には、暗黙の序列ができる。その弊害が出始めている。現在の国際社会において、10年後にどこの国が驚異的発展を遂げるかは、予想もつかない。レアメタルなどの資源産出国になるかも判らない。商社に任地のランキングがあるように、外交官の勤務地にも歴然としたランキングが存在する。現在のような体制で外交や貿易をしていれば、必ずそのしっぺ返しがくるに違いない。あまり露骨にその偏見が表現される映画に反感を覚えた。

 主人公である国民航空の社員恩地元(おんち・はじめ)が、労働組合委員長として組合を統率し、労使の話し合いで物別れになり、ストライキの決行を決めた。会社側の重役たちがその見せしめに恩地をパキスタンのカラチに左遷の人事で送り込む。ランキング3位のインドに該当する。そしてさらにイランのテヘランへ移される。ランキング1位の中近東である。さらにさらにアフリカのケニアのナイロビに送り込まれる。ランキング2位のアフリカである。恩地自身も屈辱と感じていた。

 私は、この山崎豊子の小説をアフリカのセネガルで読んだ。妻の職業は医務官だった。小説『沈まぬ太陽』のアフリカ編の中にある医務官の話しが出てくる。医務官の妻が、現地人の男と駆け落ちする、という実話である。私は、ここで俄然本気になって読み出した。山崎豊子の取材力に注目した。小説は、けして作家の発想力だけで書かれていない。資料情報の裏づけがある。その事実の断片に関わっていれば、更に小説に巻き込まれ、読み進む。小説の後半に龍崎一清という得体の知れない怪しい男が登場する。この男は、山崎豊子の『不毛地帯』の主人公である。山崎豊子は『不毛地帯』を書いたことを後悔していると噂で聞いた。事の真偽は私には判るはずもない。しかしその鍵は、『沈まぬ太陽』の中の龍崎一清の描かれ方に隠されていると、私はみている。映画の中で龍崎一清は、政界と経済界を股にかけ、暗躍する黒幕である。私は、謎が解けたような気がしている。

 恩地は、最後にまた左遷されてナイロビに行くことになる。しかし今回は、以前と違って自ら戻りたいとたとえ左遷であっても思った。アメリカの動物園にある鏡の前に檻の鉄格子がはめられ、そこに「地球上で最も危険な生き物」の看板がかかっている。つまり人間のことである。恩地は、アフリカの自然に、自分が翻弄された権威と金の人間社会の幻想を断ち切ってくれるとの期待を持って穏やかな気持で赴任する。アフリカに足を踏み入れた者は、必ず戻ってくる、と言われている。私は戻りたいとは思わない。しかしアフリカで見た太陽の美しさを忘れることはできない。


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