団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

草取り

2008年04月28日 | Weblog
 22年間の長きにわたり、日本女性は世界の最長寿記録を保持している。大したものである。今年の統計では日本女性の平均寿命は85、59歳、男性は78、64歳を記録した。

 私を5歳の時から育ててくれた継母は、私の実の母の妹にあたる。その継母もすでに80歳後半になった。元気で長野県に暮らしている。小さな借りた畑でできるだけ自分で食べる野菜を育てている。一緒に暮らす妹家族の弁当も、三食の調理にも張り切っている。買い物には自転車を引いて行く。危険だからと言っても「乗らないで押して行くだけだから」と聞かない。身長は140センチぐらいに縮まった。その上腰がすこし曲がっている。家の裏の丘の上の父と実母の墓に少し前までは毎日墓参りに登っていた。今は晴れた日しか行けないと悲しがっている。

 日本の女性は確かに肉体的には他人種に劣るかも知れない。身長も低く、やれO脚だのX脚だの、胸がない、尻が扁平だの、目が釣りあがっているの、一重だのと評される。それでも長寿世界一である。あれだけ粗食で重労働に耐え戦争を体験してである。男尊女卑の文化の中でどっこい生き抜いてきた。私は自分の母親をみにくいとは思わない。胸を張って誇れる母である。

 今朝、散歩に出かけようと玄関を出た。マンションの前の市道と川の境に、古いコンクリートの柵がある。びっしりはえた草を老婆が抜いていた。近づき「ご苦労様です」と声をかけた。小さい、本当に小さい老婆だった。ほっかぶりしているような日焼け防止の帽子、割烹着にモンペ姿。歳は90歳ぐらいだろうか。立ち上がり丁寧に挨拶してくれる。まっすぐに立つこともできない。長年の労働で腰がすっかり曲がってしまっている。聞けば隣の一軒家に住む方である。初めて会った。耳もしっかりしていて私との会話に困ってもいない。「お天気がいいので草取りさせてもらっています」 まっすぐ立ったとしても身長は130センチくらいだろうか。 私は世界で日本人の悪くちをたくさん聞いた。

 私の母も海外の日本人観のサンプルの条件を満たすひとりだ。でも働き者で健康で今でも家族を支えている。キレイ好きだ。まじめで税金や毎月、使い古しの封筒に分けて入れ、期日までにきちんと支払っている。世界のどこの国にこんな律儀で従順な国民がいるだろうか。私の母も自分の家の周りだけでなく、気がつけばどこでも掃除したり、草取りしたりしている。手間ひまかけて調理して家族の健康管理の総元締めをしてくれている。日本人男性まで長寿世界一だ。これはこうした働き者で健康な多くの日本女性のおかげに違いない。何を言われようがこれほど凄い女性は世界広しといえどもいないだろう。

 草取りしていたおばあさんに「写真を撮ってもいいですか?」と尋ねた。彼女は「こんな格好では恥ずかしい。今度おめかしした時撮ってください」と言う。「後ろから草取りしているところだけ撮らせてください」と私。「絶対に顔を撮らないでください」と日よけ帽をさらに深く引きおろしながら言った。私は、歳をとっても女性のこういう気持ちには艶があっていいなと思う。

 お礼を言ってその場を離れた。用事を済ませて家に戻る道すがら、あのおばあさんの家と私たちのマンションの間の約30メートルの道の両側がすっかり草を取り、掃き清められていた。彼女の家の前に大きなビニールのゴミ袋が3つ並んでいた。いろいろな国に暮らしたが、私は凄い人たちが住む、美しい国に今住んでいる。感謝な気持ちで家に戻った。母の日はもうすぐだ。 
写真:草取り中の隣の家のおばあさん

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