映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

キャビン

2013年03月20日 | 洋画(13年)
 『キャビン』を新宿のシネマカリテで見ました。

(1)たまにはいつもと違った傾向のものを見ようと、評判のホラー映画を見てきました。
 シチュエーションは、元気溢れる大学生(男3人と女2人)が山奥の別荘にやってくるというお馴染みのもの(注1)。
 大学生達が別荘の中を探検すると、地下室への扉が見つかります。
 その扉を開けて降りて行くと、地下室には実に様々な古い物が置かれています。
 女子学生のディナが、1903年に書かれたノートを見つけ、男子学生マーティが読むなと止めたにもかかわらず、書かれていたラテン語の文章を読み上げてしまいます。



 すると、山小屋の周囲の地中から何者かが這い出して彼らに襲いかかり、大学生は一人一人と殺害されていきます。
 とここまでは、誠にありきたりの流れですが、実は、こうした様子をつぶさに監視カメラでのぞき見ている組織があるのです。
 ここからは、ここまでの普通すぎるストーリーがトンデモナイものに変身して、先が読めなくなります。
 この監視している組織はいったい何なのでしょうか、何のためにそんなことをしているのでしょうか、そして大学生たちの運命は果たしてどうなるのでしょうか、……?

 最初のうちは定番中の定番のホラー映画と見せかけておきながら、途中からそれをひっくり返すべく制作者側が様々の卓抜なアイデアを繰り出し、全体として実に面白い映画に仕上がっているなと思いました。

 出演者の中では、監視組織の一人シッターソンを演じるリチャード・ジェンキンスが、『扉をたたく人』や『モールス』でお馴染みです。

(2)〔この映画は、何の情報も持たずに(特に予告編も見ずに)見た方が遥に面白いですから、本作をご覧になっていない方は、以下は一切読まないで(つまらない内容ながら)、まずは映画館に足を運んでください〕

 映画の冒頭では、管制官のシッターソンらが登場し、自動販売機でコーヒーを飲んだり、「ストックホルムは失敗、日本は失敗ゼロ、次はアメリカだ」などとわけのわからないことを話しながら、電動カーで管制室に入って行きます。

 それから、問題の大学生らが山小屋に行くための準備をしている場面に移るわけですが、最初から気の抜けたコーラを飲まされるような感じがしてしまいます。
 というのも、シッターソンが着用している半袖のワイシャツはなんだかよれよれの感じがし、もう一人の男性の管制官ハドリーも実に冴えない感じですし、女性技術者リンとか新入りのトルーマンなども含めて、全体の雰囲気がどうも中小企業然としているからですが。
 さらに、これはホラー映画のはずなのに、どうしてこんな管制室が登場乗するのだろうと、何だろうこの映画は、という気に観客はなっていきます。

 そして、準備ができた大学生達が乗る車が出発すると、近くの建物から見張っていた仲間が、管制室にいるシッターソンらに、「出発した」と連絡するところ、あれだけ監視カメラをあちこちに仕掛けることができるのであれば、大学生の家くらいさらに監視カメラを設置することなどたやすいはずではないかと、(見終わってからですが)思ったりしてしまいます(経費節減の折から、人力に頼らざるを得ないのでしょう)。

 そして、管制室にいて監視カメラの映像で大学生達の行動を覗き見ている管制官シッターソンらは、全世界規模で同じようなことをやっていると思われますが、どんな組織なのか皆目見当もつきません。
 管制室での話や映像からは、アメリカだけでなく、他にストックホルムとか東京にも支部らしきものが設けられているようです(注2)。
 でも、そんな大規模な組織にしては、ラストに思いがけない俳優が登場して、プロジェクトの全貌を説明するところからすれば(注3)、本部はシッターソンが働くところに設けられているようにも見えるものの、それにしてはどうもチャチイなという感じがしてしまいます。

 このアメリカの管制室の能力が高くなさそうなのは、完璧に作られているはずのシナリオが、大学生らが思いがけない行動をとると、次々に狂ってきてしまい、簡単に制御不能となってしまうところからも分かります(注4)。
 なかでも、他の4人の大学生が死に処女・ディナの一人だけが助かるのであればプロジェクトは成功だというので、管制室で職員一同が祝杯をあげるのですが、その段階で、4人のうちの一人がまだ死んだと確認されていないことが、注意していれば分かったはずなのです(注5)。
 その点をないがしろにしたがために、大破局に陥ってしまうのですから、ケアレスミスは注意しなくてはなりません!

(3)渡まち子氏は、「定番ホラーかと思いきや驚きの仕掛けがある異色スリラー「キャビン」。ありがちな導入部からありえないラストまで退屈させない」として65点を付けています。
 前田有一氏も、「「キャビン」は、どこからみても異形な映画。変化球のみで構成されたトンデモ作だが、だからこそ「普通」に飽きてる人には最高の刺激となる。その魅力は、あらゆるホラー映画を見てきた人でも、絶対に先読みできないハチャメチャな展開。しかしナンセンス系ではなく破綻なく世界観をまとめている「定石外し系」の傑作である」として90点をつけています。




(注1)最近見た映画では、DVDですが、ノルウェー映画『処刑山 デッド・スノウ』が同じようなシチュエーションです(こちらは、男4人と女4人)。

(注2)ストックホルムに北欧支部が設けられているとすれば、そこにストックされている怪物の中には、上記「注1」で触れた映画に登場する妖怪や、『トロール・ハンター』に登場するトロールといったものがきっと入っていることでしょう!

(注3)この女性は、単なるアメリカ支部長にすぎないのかもしれませんが。
なお、この女性に扮する女優は、『宇宙人ポール』にも出演しました。

(注4)たとえば、大学生達が車で逃げる際に通過するトンネルを爆破して封鎖しようとしましたが、なかなかうまく爆破できません。

(注5)死者が出るたびに、壁に取り付けられているハンドルをハドリーが押し下げると、死者の血が汲み取られる仕組みが差動します。ただ、マーティについては、その場面が映し出されていなかったように思います。ということは、……。




★★★★☆




象のロケット:キャビン