孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシア  旧ソ連「裏庭」で相次ぐ政治混乱 影響力に陰りも

2020-10-10 23:28:03 | ロシア

(【10月10日 SPUTNIK】キルギスにある(ロシア系)通信社スプートニクの編集部に若い男たちの集団が押しかけ、スタッフを脅した。若者グループは、キルギスの新首相に選出されたサディル・ジャパロフ氏を支持する集会にスプートニクの記者を30分以内に派遣して取材するよう求め、言うことを聞かなければ暴力や破壊行為を行うと脅迫した。)

 

【ロシア「裏庭」への影響力に陰り 強まる中国の存在感】

このところ混乱が続く政治情勢と言えば、アゼルバイジャンとアルメニアの係争地ナゴルノカラバフをめぐる軍事衝突、ベラルーシのルカシェンコ大統領に対する野党勢力の抵抗、キルギスにおける議会選挙後の混乱・・・と旧ソ連でロシアの影響力が強い国での混乱が目立ちます。

 

一方で、従来ロシアの勢力圏とされていた中央アジアなどで中国の影響力が急速に強まっています。

 

****プーチン氏の目算狂う、「裏庭」への影響力に陰り*****

影響力の低下は中国などに付け入る隙を与えている

 

旧ソ連諸国が相次ぎ危機に見舞われていることで、経済・軍事関係の強化を狙うロシアの目算が狂い始めた。ロシアの「裏庭」における影響力低下は、中国やトルコなど近隣の競合国に付け入る隙(すき)を与えている。

 

ウラジーミル・プーチン大統領はかねて、西はベラルーシ、東はキルギスまで、東欧や中央アジア全体で各国との関係強化を目指してきた。ロシアは中央アジアや南コーカサスに依然として軍事基地を置くほか、商業および文化的なつながりも強い。

 

だが、ロシアを取り巻く混迷――アルメニアとアゼルバイジャンの紛争を含む――に加え、外交および経済上の微妙な変化が地域におけるロシアの支配力を弱めている。中国が経済力に物を言わせて影響力を強め、欧州が民主主義の理想を浸透させる一方で、ロシアは強権政治にしがみついたままだ。

 

資源国キルギスでは、先週末に実施された議会選挙の結果を巡り、不正が行われたとする野党が親ロシア派の指導部から政権奪還を狙うなど、政情不安に陥っているところだ。

 

欧州とロシアの国境沿いでは、プーチン氏が後ろ盾となっているベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が、同様に不正選挙疑惑を巡る市民の抗議デモを数週間にわたり収束できないでいる。

 

特筆すべきは、ナゴルノカラバフを巡るアルメニアとの紛争を巡り、トルコがアゼルバイジャンへの支持を表明し、同国軍を勢いづかせていることだ。敵対するアルメニアとアゼルバイジャンの和平維持を目標に掲げるロシアにとって、トルコの介入はさらなる頭痛の種となっている。

 

アゼルバイジャンは、ソ連崩壊時に失った係争地を取り戻すまで引き下がらないと主張。アルメニアに軍事基地を置き、協定により相互防衛の義務があるロシアにしてみれば、アルメニア支援の圧力が高まっている状況だ。

 

こうした一連の動向はロシアにとって、居心地の悪い展開だ。

 

ロシアはこれまで、プーチン氏が他国の政情不安につけ込むことで、外交政策の成功を収めてきた。2014年にはウクライナ東部の治安悪化に便乗して、クリミア半島の併合に動いた。最近では、中東の紛争を利用してシリアとリビアの双方で足場を拡大。米大統領選への介入も試み、国際舞台で米国の手ごわい競合国として復活を果たした。

 

しかしながら、ロシアは旧ソ連諸国への影響力を維持することがますます困難になっている。地理的な規模だけでなく、旧ソ連諸国全体に治安部隊などのプレゼンスを維持するコストが膨大なためだ。

 

ロシアは来年、負担の大きいアルメニア、キルギス、タジキスタンの軍事基地の維持費から、国内の社会福祉プログラムへと国家予算を振り向ける方針だ。

 

背景には、国民の生活水準の悪化に歯止めをかけるとともに、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)による影響を和らげる狙いがある。

 

ホーソーン・アドバイザーズの政治リスク責任者、マクシミリアン・ヘス氏は「ロシアには、すべての国に関与する資金も軍事力もない」と話す。

 

これは特に中央アジアで顕著だ。中国の習近平国家主席は巨額の融資引き受けやエネルギー投資の拡大に加え、トルクメニスタン、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタンとの安全保障協議も開始するなど、中央アジア諸国との外交関係を着々と強化している。

 

「プーチンと習がカメラの前ではどんなに握手して笑顔を振りまこうと、彼らは競争相手だ」。キルギスのムラト・ベイシェノフ元第1副国防相は今年、こう述べている。(中略)

 

キルギスも予測不可能な波乱要因だ。ロシアは従来、党派を問わず、キルギスの政界全般で良好な関係を構築してきており、反中感情が根強い同国ではロシアの方が信頼できるパートナーだと考えられてきた。

 

プーチン氏は7日、国営テレビに対し、キルギスのソオロンバイ・ジェエンベコフ大統領が、先週末の選挙を巡る抗議デモの暴徒化を受けて、大統領府から退避する事態に陥ったことに警戒せざるを得ないと述べ、危機感をあらわにした。

 

ロシアは中国との国境沿い付近のキルギス領内に大規模な空軍基地を維持しており、地域最大のライバルである中国の目の前で軍事力を誇示できる貴重な資産となっている。

 

ロシアは旧ソ連諸国に対する自国の影響力を国際社会がどのように見ているかに依然として敏感だ。前出のヘス氏は、ロシアが旧ソ連国への支配力を失いつつあると感じれば、武力で対応してくる公算が大きいと話す。 

「ロシアは影響力を失ったとの見方が浮上すれば、(ロシアによる)強硬な反応を目にすることになる」【10月9日 WSJ】

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【ナゴルノ・カラバフ紛争はロシア仲介で停戦 トルコは恒久的な解決策ではないとの強硬姿勢】

上記記事が取り上げているロシア「裏庭」における混乱のうち、アルメニアとアゼルバイジャンの紛争について、ロシアの仲介で「一応」停戦が成立したの報道のとおり。

 

****アゼルバイジャンとアルメニアが停戦合意、ロシア仲介****

 アゼルバイジャン国内に位置するナゴルノ・カラバフ自治州周辺で続く同国軍とアルメニア軍の衝突でロシア外務省は10日、アゼルバイジャンとアルメニアが停戦で合意したとの声明を発表した。

 

人道目的のためとする停戦は現地時間の10日正午から始まり、捕虜や拘束者、遺体の交換を実施するとした。

 

戦闘停止の合意はモスクワでの外交協議を経て実現しており、ロシアが仲介者の役割を果たした格好ともなっている。合意内容の範囲はアゼルバイジャンとアルメニアとそれぞれ個別に合意した上で決まったとした。

 

ナゴルノ・カラバフ自治州に絡む紛争は1994年に停戦合意が一応成立していた。先月27日に再燃した戦闘拡大の原因は明瞭ではないが、双方はいずれも相手が戦端を切ったと非難している。(中略)

 

ナゴルノ・カラバフ自治州にはアルメニア系住民が多く住み、実効支配する状態が続く。自治州の軍はアルメニアの支援も受ける。ロシアとアルメニアは安全保障関連の取り決めを結んでいる。

 

一方、アゼルバイジャンは国際社会が同国領と認知するナゴルノ・カラバフ自治州での主権確立を長く主張してきた。【10月10日 CNN】

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ナゴルノ・カラバフ自治州を実効支配するアルメニア側に「騒動」を起こす誘因はないので、戦端を切ったのは失地回復を目指すアゼルバイジャンでしょう。

 

アゼルバイジャンをそのような強気にさせたのは、民族的・文化的にも近く、また、アルメニアとは「虐殺」の歴史問題を抱える犬猿の仲のトルコの強力な支援が存在している・・・と言われています。

 

トルコにとっては、アゼルバイジャンは重要な原油・天然ガス供給源であり盟友です。

 

“ナゴルノカラバフやその周辺での戦闘による死者は400人を超えている。”【10月9日 ロイター】とも。

 

「またか」という感もあった両国の衝突が、ここまで拡大・長期化したのもトルコのアゼルバイジャン支援によるもので、トルコは今回の停戦合意についても「恒久的な解決策に代わるものではない」との強硬な姿勢を見せています。

 

*****停戦は恒久解決にならず=トルコ、アルメニアに撤退要求****

トルコ外務省は10日、声明を出し、係争地ナゴルノカラバフをめぐるアゼルバイジャンとアルメニアの停戦について「捕虜や遺体の交換のためで、恒久的な解決策に代わるものではない」と指摘した。

 

その上で、ナゴルノカラバフを実効支配するアルメニアに対する「最後の機会だ」と述べ、直ちに係争地から撤退するよう要求した。

 

トルコは「同一民族の兄弟国」と見なすアゼルバイジャンの後ろ盾。声明では「トルコはアゼルバイジャンが受け入れられる解決策のみ支持する」とも強調した。【10月10日 時事】 

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ロシアは、アルメニアとは軍事同盟を結ぶ関係ですが、アゼルバイジャンも重要な武器輸出国であり、トルコともシリアやリビアでの影響力を考えると決定的な対立はしたくない・・・と、微妙な立ち位置にあります。

 

【混乱で政治空白が生じているキルギス】

キルギスのことの発端は、4日に行われた議会選挙で、大統領に近い政党が議席の89%を占めるとの結果が発表されたことへの野党勢力の抗議。

 

****キルギスで数千人抗議 野党支持者「議会選で不正」 収監の前大統領連れ出しか****

中央アジアのキルギスで5日、前日に投開票された議会選(1院制、定数120)の不正を訴える野党支持者らが数千人規模の抗議活動を行い、治安部隊と衝突した。タス通信などが報道。保健省の発表では少なくとも約130人が負傷したほか、一部は政府の庁舎などに侵入し、収監されていたアタムバエフ前大統領らを連れ出したと伝えられている。

 

タス通信などによると、4日の議会選には16の政党が参加。得票率7%を超えた政党に議席が割り振られるが、中央選挙管理委員会の暫定結果では、7%を超えたのは4党だけで、このうち2党は親政権派、1党は中道派で、野党は1党にとどまる見込み。

 

議席を得られない野党勢力は選挙の不正を訴え、首都ビシケクなどで抗議活動を始め、排除を試みる治安部隊と衝突した。ジェエンベコフ大統領は事態の沈静化に向け、選挙に参加した野党も含む全政党に協議を呼びかけている。

 

キルギスはソ連崩壊後に独立した中央アジア5カ国のうち「最も民主的」と呼ばれ、2005年と10年には野党主導の抗議活動の結果、当時のアカエフ、バキエフ両大統領がそれぞれ亡命した。元首相のジェエンベコフ氏は17年の大統領選で初当選。19年8月には対立していたアタムバエフ氏を汚職容疑で拘束していた。【10月6日 毎日】

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キルギスは、強権支配国家が多い中央アジア5カ国のうち「最も民主的」ではありますが、比較的自由な政治活動が許されているだけに南北の地域的対立、キルギス系とウイグル系の民族対立の要素も絡まって政治混乱が起きやすい国でもあります。

 

“キルギスで野党勢力が権力掌握と宣言、選管は議会選の無効決定と報道”【10月6日 ロイター】

“キルギス首相辞任、後任に野党指導者 改憲や大統領辞任要求、混乱も”【10月7日 毎日】

 

野党勢力も一枚岩ではなく

“キルギスで別の野党勢力が権力掌握を宣言、混迷深まる”【10月7日 ロイター】

 

大統領は新内閣が承認されれば辞任すると表明。

“統治能力失いキルギス大統領辞意 抗議デモが暴徒化、権力空白続く”【10月9日 共同】

“首都に非常事態宣言=混乱続くキルギス”【10月9日 時事】

 

違法な集会を組織したなどとして有罪判決を受け収監されていたジャパロフ氏が、収監施設に突入した野党勢力によって解放され、最高裁は「新たな状況」に基づき、ジャパロフ氏の有罪判決を取り消し、大統領から新首相に任命されるという混乱ぶり。

 

しかも一部野党はジャパロフ氏の首相選出を認めないという姿勢で、混乱が長期化する可能性も。

 

現在は混乱の真っただ中ですが、これまでの政権は親ロシア的だったので、今後の野党勢力の動向次第ではロシアの影響力が弱まる可能性もあります。

 

【ベラルーシでは、ルカシェンコ支持に賭けたロシア】

ベラルーシでは、ルカシェンコ大統領への抗議行動が続いています。

 

****ベラルーシ首都で政治犯釈放求め数万人がデモ、警察が放水銃使用****

ベラルーシの首都ミンスク中心部で4日、政治犯の釈放を政府に求めて数万人がデモを行ない、警察が放水銃で規制する事態となった。

8月9日の大統領選以来、同国では抗議デモが続いている。ルカシェンコ大統領は、この選挙で地すべり的勝利を得たと宣言している。

野党系ニュースチャンネル「ネクスタ」は、メッセージアプリ「テレグラム」に、デモには10万人以上が参加したと投稿した。当局の推定は通常、より低い数字となる。(中略)

大統領に対する抗議活動が拡大する中、これまでに1万3000人以上が逮捕されている。一部はその後釈放されたが、野党の中心人物らは投獄または国外追放されている。

インタファクス通信やソーシャルメディアの投稿動画によると、4日には警察がデモ隊を解散させるため武装車両から放水銃を使用し、多数の参加者を拘束した。【10月5日 ロイター】

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ロシアは、欧米が抗議行動を支援(英・カナダ・EUが政権への制裁発動)するのに対抗するように、これまではプーチン大統領との関係は必ずしも良好とは言い難かったクセの強い“欧州最後の独裁者”ルカシェンコ大統領を支援することで腹をくくったようです。

 

****ベラルーシ野党指導者チハノフスカヤ氏、ロシアが指名手配****

ロシア内務省は7日、ベラルーシの野党指導者スベトラーナ・チハノフスカヤ氏を指名手配したと発表した。同氏は「刑事責任」を問われているという。

 

8月のベラルーシ大統領選でアレクサンドル・ルカシェンコ大統領を破ったと主張しているチハノフスカヤ氏は現在、欧州連合加盟国の隣国リトアニアに滞在している。

 

ロシアのメディア各社は警察筋の情報として、「ロシア・ベラルーシ連合国家」の枠組みに基づき、チハノフスカヤ氏の名前がロシア当局の指名手配リストに自動的に追加されたと報じた。

 

ロシア通信によると、同氏は権力掌握などベラルーシの国家安全保障を損なう呼び掛けを公然と行ったとして、ベラルーシ国内で刑事責任を問われているという。

 

だが、ベラルーシ政府からは現在のところ、同氏を指名手配したとの発表はない。 【10月8日 AFP】

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ベラルーシが明確にしていないのに、ロシアが「ロシア・ベラルーシ連合国家」の枠組みに基づき自動的に指名手配という奇妙な状況。

 

「ロシア・ベラルーシ連合国家」という関係もいろいろ注釈が必要ですが、今回はパス。別機会で。

 

いずれにしても、万一ルカシェンコ政権が転覆し、親欧米的な政権ができるようなことになれば、ウクライナとは違ってもともと対ロシア感情は悪くなかっただけに、アルメニア・アゼルバイジャン、キルギス以上にロシアにとっては痛手となるでしょう。

 

【 ナワリヌイ氏毒殺未遂事件や新型コロナの問題も】

こうした問題に加え、ロシア自身の野党指導者ナワリヌイ氏の毒殺未遂への関与疑惑も、EUによる制裁につながる流れになっています。

 

****独仏、ロシアにEU制裁発動の構え ナワリヌイ氏毒殺未遂で****

ドイツとフランスは7日、ロシアの野党勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏の毒殺未遂への「関与と責任」があるとしてロシアを批判し、欧州連合による同国への制裁発動を目指す意向を表明した。ロシアは直ちに反発し、独仏の主張は「脅迫」であり、容認できないと非難した。

 

独仏外務省は共同声明で、ナワリヌイ氏の事件についてはこれまでロシアに繰り返し解明を求めていたが、「ロシアからはまだ信頼できる説明がない」と指摘。「こうした状況を踏まえ、われわれはナワリヌイ氏の毒物被害にはロシアの関与と責任があるという以外の妥当な説明はできないと考える」と述べた。

 

ドイツはこれまで、ロシア政府に事件の調査を求めてきた一方で、ウラジーミル・プーチン政権を直接非難するには至っていなかった。

 

化学兵器禁止機関はこれに先立つ6日、ナワリヌイ氏が旧ソ連の開発したノビチョク系の神経剤を摂取したとの結論を発表し、ドイツ、フランス、そしてスウェーデンによる調査結果を裏付けていた。

 

独仏両国は声明で、事件に関与した個人とノビチョク開発に関与した組織を対象に、EUによる制裁の発動を求めると表明した。 【10月8日 AFP】AFPBB News

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ロシア・プーチン大統領にとって頭痛の種は、上記のような外交上の問題に加え、国内的に新型コロナの感染が収まらないこと。

 

****ロシア、コロナ感染過去最多に 航空大手は探知犬を訓練****

ロシアで9日に報告された新型コロナウイルスの新規感染者は1万2126人で、5月に記録されたこれまでの最多人数を数百人上回り、流行が始まって以来最高を記録した。

 

ロシアの感染者数は、米国、インド、ブラジルに続き世界で4番目に多い。ロシア政府は、人々が感染対策を軽視し続ければ、厳しい規制の再導入もあり得ると警告していた。(後略)【10月10日 AFP】

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コロナ探知犬の話は面白いですが、また別機会に。

 

国外・国内ともに悩みがつきないプーチン大統領です。

 

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