(中国が領有権を主張する南沙・西沙諸島 “flickr”より By patpbui http://www.flickr.com/photos/23681731@N07/4774095391/ )
【「こんなに優しい国民とは思わなかった」】
東日本大震災による大きな被害に対し、世界各国から日本への義援金や救援、はげましが寄せられており、あらためて世界との絆を認識させています。特に、中国や韓国といった隣国からの、普段のとげとげしい関係とは異なる激励には心が和むものがあります。
“震災直後から、上海総領事館には義援金の申し出や激励の手紙、花などが続々寄せられた。日本政府として過去中国でこうした支援を受け取った例はなかったが、16日から受け付けを始めたところ、25日までに535件、1億2500万円を超す義援金が集まった。”【3月27日 産経】
こうした中国の反応について、“無論、外交的な配慮も大きい。北京の外交筋によると、中国当局には、尖閣諸島沖での漁船衝突事件後の強硬的な対抗措置が国際社会における中国のイメージまで低下させ、「やりすぎだった」との反省の声があるという。中国はいち早く救助隊を被災地入りさせた。「全力で日本を支援している」と訴えることで、日中双方の国民感情を改善させたい思惑がある。北方領土問題で対日関係がこじれたロシアも同様の狙いから最大級の救助隊を送り込んだ。”【同上】との指摘もあります。
【比政府の南シナ海問題での抗議に、比人死刑執行で対応か】
ただ、中国が尖閣諸島や南シナ海での強硬な姿勢を「やりすぎだった」と反省しているのかどうかについては、疑問もあります。
結果的に日本や東南アジア諸国の反発・不安を強めて、そうした国々のアメリカ依存を強める形になっていることについては、「うまくなかった」との思いもあるかもしれませんが、基本的に自国の勢力圏を拡大していこうという強い姿勢にはあまり変化はないようにも見えます。
南シナ海の南沙諸島では、中国はフィリピンとも領有権を巡って問題を抱えています。
****フィリピンとベトナム、中国に抗議 南シナ海の活動巡り****
フィリピンとベトナムは、中国との間で領有権の主張が対立している南シナ海で、自国船が中国艦船に妨害されたなどとして、それぞれ4日までに中国に抗議した。
フィリピン政府によると、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島リード礁で2日、石油資源探査中の比エネルギー省船舶が中国軍艦2隻に妨害され、衝突されそうになった。比外務省によると、中国との間でこのような事件が起きたのは初めて。比政府は4日、現場は自国の排他的経済水域内だとしてマニラの中国大使館に抗議した。だが、中国大使館は「南沙諸島が中国領土であることには議論の余地はない」とコメントした。
またベトナム政府は、同諸島で先月24日に行われた中国海軍の演習について、「ベトナムの主権を侵害した」と中国側に2日に抗議した。【3月5日 朝日】
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一方、中国は30日、麻薬密輸罪で死刑が確定していたフィリピン人3人の死刑を執行しました。同死刑囚3人をめぐっては、フィリピン側は繰り返し減刑を求めていました。
****中国、麻薬密輸罪でフィリピン人3人の死刑を執行*****
中国当局は30日、麻薬密輸罪で死刑が確定していたフィリピン人3人の死刑を執行した。同死刑囚3人をめぐっては、フィリピン側は繰り返し減刑を求めていた。
3人は2008年に中国にヘロイン数キログラムを密輸したとして逮捕されていた。エリザベス・バタイン受刑者(38)は深センで、サリー・オルディナリオ・ビラヌエバ受刑者(32)とラモン・クレド受刑者(42)は福建省の厦門で、それぞれ死刑が執行された。フィリピン当局によると、3人にはこの日朝、死刑が執行されることが伝えられていた。(中略)
中国は、死刑の適用は国家機密に当たるとの理由で詳細を公表していないが、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは28日、2010年に中国で処刑されたのは数千人に上ると見ており、他国での死刑執行をすべて合わせた数を超えると指摘していた。【3月30日 ロイター】
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この死刑執行は一旦は延期されていましたが、ここにきての執行は先述の南沙諸島に関するフィリピン政府の抗議が影響しているのではないかとの見方があります。
****フィリピン人3人の死刑執行=態度一転、背景に南沙問題か―中国*****
中国で麻薬密輸罪に問われ死刑判決を受けたものの、いったん執行が延期されたフィリピン人3人の死刑が30日、執行された。フィリピンのビナイ副大統領が地元テレビに明らかにした。
比人死刑囚をめぐっては、ビナイ副大統領らが2月に訪中して減刑を要請し、中国側は異例とも言える執行延期を決めた。比政府が昨年12月、中国の民主活動家、劉暁波氏のノーベル平和賞授賞式を欠席するなど対中関係に配慮したことが背景にあるといわれた。
しかし、比政府は今月初め、中国と領有権を争う南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島での資源探査を妨害されたとして中国に抗議。これに反発した中国が態度を一転させたとの見方も出ている【3月30日 時事】
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中国において麻薬密輸罪でフィリピン人に死刑が執行されたのは今回が初めてケースです。
当然ながら、中国当局は政治的な背景は否定しています。
中国外務省は、麻薬密輸は重大な犯罪であり、正義が果たされたと説明。姜瑜報道官は29日の定例記者会見で「これは独立した刑事事件。2国間関係に影響することは望まない」と述べています。
今回処刑の背景に指摘のような南シナ海問題があるのであれば、強面の中国外交は依然として変わっていない・・・という感があります。
【韓国も竹島問題では相変わらず】
韓国からも震災被害には暖かい義損金などが多く寄せられていますが、一方で、竹島問題をめぐる対立は相変わらずのようです。
****「誤った歴史観」 韓国外相、日本の教科書に抗議****
韓国の金星煥(キム・ソンファン)・外交通商相は30日夕、同省に武藤正敏・駐韓日本大使を呼び、日本の中学校教科書に日韓が領有権をめぐり対立する竹島(韓国名・独島〈トクト〉)の記述が増えたことに抗議。同省は「いまだに誤った歴史観を合理化し、美化する内容を含んでいる」として、教科書の根本的な是正を求める報道官声明を発表した。
韓国政府は同日、関係省庁が参加する「独島領土管理対策団」会議を開き、竹島に設けたヘリポートの補強工事や竹島に関する教育展示会の実施などを確認した。
韓国政府当局者は今回の対応について、「韓国では日本の震災被災者を支援する空気が強かっただけに、韓国人が教科書問題で受けた背信感は強く、そうした感情に配慮した」と語った。
ただ、竹島が国際紛争地化するのを避けるため、より厳しい対応は避ける考え。韓国外交通商省報道官は30日の記者会見で、権哲賢(クォン・チョルヒョン)・駐日韓国大使の一時帰国は検討していないことを明らかにした。震災支援も継続する。
一方、武藤大使は金外交通商相に日本の立場を説明。会談後、記者団に韓国からの震災支援について「韓国への感謝の気持ちは今後も変わらない」と韓国語で語った。【3月30日 朝日】
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震災被害援助と外交問題は別物というところですが、逆に、震災被害援助をきっかけにした関係改善をはかるという“震災外交”というものもあります。
本来なら、日本もこの機にそうした“震災外交”を展開してもいいのですが、あまりに大きすぎる震災被害、めどの立たない原発事故対応を抱えて、それどころではないというところでしょうか。
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