孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国のウイグル族弾圧を擁護するミャンマーのスー・チー政権

2019-07-15 23:25:29 | ミャンマー

(モンスーン期の豪雨に襲われたバングラデシュのロヒンギャキャンプ【712日 CNN】)

 

【中国をする擁護する国々のそれぞれの事情】

中国・新疆ウイグル自治区に暮らすウイグル族などイスラム系少数民族を中国当局が100万人規模で「職業訓練」という名目で収容施設に拘束し、宗教・文化的“浄化”を行っているのではないかとの重大な疑念に関しては、国連人権理事会を舞台に、中国を批判する日本・英仏などと、中国を擁護するロシアなどが公開書簡という形でやり合うという異例の展開になっています。

 

批判する側は、日本のほかオーストラリア、カナダ、英国、フランス、スイスなど22カ国の大使が署名していますが、議案や公式声明ではなく公開書簡の形をとったは各国政府が中国からの政治的、経済的反発を恐れたためとのことです。

 

書簡は、新疆と中国全土で宗教の自由や信仰の自由を含めた人権と基本的自由を尊重するよう中国に要求し、国際的な専門家による新疆地区への視察を中国が認めるよう要請しています。【711日 ロイターより】

 

一方の中国支持グループは・・・。

 

****ロシアなど37か国が国連に書簡、ウイグル問題で中国擁護****

中国・新疆ウイグル自治区におけるウイグル人や他の少数民族への処遇をめぐり、日本や欧米諸国などが今週、国連人権理事会に中国を非難する書簡を提出した。これを受けて今度は、37か国の国連大使らが12日、中国の対応を擁護する書簡を公開した。

 

同自治区では、主にウイグル人ら100万人が収容施設に拘束されていると伝えられており、欧州連合各国や、オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランドの大使らは今週、中国の処遇を非難する文書に署名していた。

 

これに対し、ロシアやサウジアラビア、ナイジェリア、アルジェリア、北朝鮮など、37か国のグループは12日、中国政府に代わって共同書簡を公開。ミャンマーやフィリピン、ジンバブエなども署名した。

 

この書簡には、「われわれは、人権の分野における中国の顕著な成果をたたえる」「テロリズムや分離主義、宗教の過激主義が、新疆の全ての民族に多大なダメージをもたらしていることにわれわれは留意している」と記されている。

 

国連人権理事会では通常、各国が非公開の席で交渉し、公式決議を作成しようとするため、公開書簡の形で応酬する事態は珍しい。 【713日 AFP】

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このやり取りでまず気づくのは、中国批判グループに中国との対立を深めているアメリカの名前がないこと。

アメリカは1年前に中国やロシアといった「人権侵害国」が理事国になれるような仕組みは受け入れがたいこと、イスラエルに対する恒常的な偏見があること――などを理由に、人権理事会を離脱しています。

 

イスラエル云々はともかく、確かにアメリカが主張するように人権理事会の構成・運営には問題がありますが、トランプ流の反国際協調路線では、国際社会への影響力が弱まる結果にもなります。

 

面白いと言うか、興味深いのは中国擁護グループの顔ぶれ。それぞれの事情が垣間見えます。

 

まず、中国擁護の旗振り役にロシアが立っていることは、アメリカに対抗する形での最近の中ロ接近を示すものともなっています。

 

サウジアラビアはやはり国際社会から、カショギ氏殺害事件など、重大な人権侵害があると批判されていますので、中国と共同戦線をはって国際批判に対抗しようということでしょうか。

 

フィリピン・ドゥテルテ政権も、麻薬問題での「超法規的殺人」を批判されていますので、サウジと同様なところでしょう。また、ドゥテルテ大統領と中国の親密な関係も周知のところです。

 

ナイジェリア、アルジェリア、ジンバブエの事情はよく知りませんが、中国が長年アフリカとの関係を重視してきたこと、および中国による近年の莫大な経済投資の成果でしょうか。

 

そして、ミャンマー。

 

ミャンマーもやはり二つの事情を抱えていると思われます。

ひとつは、イスラム系少数民族ロヒンギャへの民族浄化的弾圧を中国同様に国際社会から批判されており、そうした国際批判への反発があるのでしょう。

 

もうひとつは、やはり中国との関係を重視したいという思惑でしょう。

 

脛に傷を持つ国々、中国の投資を期待する国々が、欧州主導の“人権擁護”世論に抗しているという構図です。

 

なお、人権理事会を離脱しているアメリカ・トランプ政権は、対中国批判と言う点では日本・西欧と同じ側にあるのでしょうが、もし対中国という要素がなければ、単に“人権擁護”といういう視点からの批判に関して言えば、サウジアラビアやドゥテルテ政権と同じ側に立つのかも。

 

このあたりが、世界が抱える深刻な問題点です。

 

【終わりなきロヒンギャの悲劇】

話をミャンマーに戻します。

ロヒンギャの帰還問題が一向に進展しないのは、これまでも取り上げてきたように、基本的には、帰還してもミャンーにおいて安心して生活できる状況にないことが理由です。

 

隣国バングラデシュのキャンプでの生活が長期化するにつれ、かねてより懸念されていた雨期の問題が表面化しています。

 

****ロヒンギャ難民キャンプがモンスーン被害、10人死亡 住居約5000戸が破壊される****

100万人近くのイスラム系少数民族ロヒンギャが収容されているバングラデシュ南東部の難民キャンプがモンスーンの被害に遭い、少なくとも10人が死亡、多くの住居が破壊された。当局が14日、明らかにした。

 

バングラデシュ気象局によると、ミャンマー軍の弾圧から逃れたロヒンギャ難民が生活しているバングラデシュ南東部のコックスバザールでは、今月2日からの雨量が585ミリに達した。

 

国際移住機関の報道官は、難民キャンプで発生した土砂崩れにより、7月前半の2週間だけで、防水シートと竹でできた小屋4889戸が破壊されたと説明。このキャンプでは、丘の斜面に難民たちの小屋が多く建てられているという。

 

国連によると、この難民キャンプでは4月以降、200回以上の土砂崩れが報告されており、少なくとも10人が死亡し、5万人近くが被害を受けた。また、先週だけでも未成年のロヒンギャ難民2人が死亡し、約6000人が豪雨によって住居を失った。

 

さらに、750か所以上の学習センターが被害を受け、5か所が激しく損壊したことで、子ども約6万人の教育が中断したという。

 

難民らは雨で物流や日常生活に影響が出ていると話す。その一人はAFPに対し、泥水の中を歩いて食料配給センターに行くのは大変だと訴え、「豪雨と突風で生活は悲惨な状態になった」と嘆いた。

 

また難民らは、飲料水の不足や、トイレが水浸しになったことで病気の流行が助長され、健康上の危機が迫っていると訴えた。 【715日 AFP

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この事態に“バングラデシュの外務相高官は、「国連と連携した不測の事態に対する備えは万全」だったと強調し、ハシナ首相は常にロヒンギャに特別の配慮をしていると言い添えた。”【712日 CNN】とのことです。

 

このままでは雨期になれば大きな被害が出るだろうということは、以前から指摘されていた問題です。

モンスーンの季節は始まったばかりで、10月まで続きます。

 

なお、難民受け入れの負担を何とか減らしたいバングラデシュ政府が強行しようとしているのが、キャンプから北西に約120キロ離れた国内の無人島バシャンチャールに、10万人のロヒンギャを移送する計画です。

 

ベンガル湾に浮かぶこの小さな島は、1020年ほど前に浅瀬に泥が堆積してできた「泥の島」で、バングラデシュ政府による突貫工事で防波堤と10万人分の居住施設が完成間近だそうです。

 

ただ、もともと泥の堆積による「泥の島」で、人間の居住には適さないとして以前計画が棚上げ状態にもなった場所です。

 

建設中の防波堤がどれほどのものかは知りませんが、“バシャンチャールは島というよりは中州のように海抜が低く、海が荒れたらひとたまりもなく水没しそうだ。”【627日 Newsweek「終わりなきロヒンギャの悲劇」】とも。

 

また、“住民によれば、この辺りの島々は外界から隔絶しているため医療・教育施設が乏しく、荒天時には文字どおり孤島になるという。そんな場所に難民を閉じ込めれば、バングラデシュ社会と共生することもミャンマーに帰ることも難しくなるだろう。”【同上】


ようするに地元住民と難民の軋轢を回避するための隔離政策でしょうか。

 

内政不干渉で加盟国間の批判を避けようとするのが基本姿勢のASEANは、ロヒンギャ帰還問題には及び腰ですが、今年の外相会議ではロヒンギャ難民の帰還スケジュールについてミャンマー・バングラデシュ両国が協議し、明確にするよう求め、ASEANとしての積極的関与姿勢を示したとのこと。

 

また首脳会議では、イスラム国のマレーシアのマハティール首相とインドネシアのジョコ大統領は首脳会議で、ロヒンギャ難民の帰還は「安全が保証されなければならない」と強く要求したとのことです。

 

ただ、実態としては多くの変化は期待できない状況でもあるようです。

 

****ロヒンギャ流出から来月2年 ASEAN、ロヒンギャ問題「役割強化」で一致も遠い解決****

ミャンマーからイスラム教徒少数民族ロヒンギャが隣国バングラデシュに大量に流出し、来月で2年となる。帰還への見通しが立たない中、先月23日に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議ではASEANが解決に向けて行動することが再確認された。

 

ただ、来年に選挙を控えるミャンマーは帰還に消極的なこともあり、早期の解決は困難な状況だ。(中略)

 

ミャンマーは来年に総選挙を控え、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相率いる与党国民民主連盟(NLD)は多数派仏教徒の支持を取り付けたい局面だ。ロヒンギャの帰還を急げば、一部仏教徒の支持離れは免れない。(中略)

 

ASEAN諸国には自国に難民が押し寄せることについて懸念があるが、加盟国ミャンマーへの配慮から、ミャンマーとバングラデシュに自助努力を促す姿勢に変化はなさそうだ。

 

内政不干渉が原則のASEANが議長声明で関与強化を明言したことを評価する声もあるが、どれだけ実効性を伴った「役割」を果たせるかは不透明だ。【71日 産経】

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【中国の圧力と住民反発の板挟み】

ミャンマーがウイグル族収容所問題で中国擁護にまわっているもうひとつの要素、中国との関係については、ミャンマー政府としては中国からの投資に期待するところが大きいようですが、住民レベルでは中国の経済進出への不満も大きくなっているようです。

 

特に注目されているのは、工事再開を求める中国と、建設に反対する住民との間でミャンマー政府が板挟み状態にもなっているミッソンダム建設で、この問題は52日ブログ“ミャンマー  ミッソンダム建設再開で住民と中国の板挟み状態のスー・チー政権 劣悪な電力事情”でも取り上げました。

 

その後、ミャンマー政府の明確な対応が示されたという話は聞きませんので、依然として板挟み状態が続いているのではないかと思われます。

 

「一帯一路」の要としてのミャンマー進出に力を入れる中国と地元住民の反感という問題は、ミッソンダム建設だけではありません。

 

****ミャンマーの中国人強制退去****

ミャンマー北部カチン州のワインモー郡当局は5月から6月にかけて、同郡にある無許可の違法バナナ農園などで不法滞在して労働に従事していた中国人23人などを検挙、罰金を科すとともに中国に強制送還する措置をとったことが明らかになった。

 

米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が613日に伝えたもので、ミャンマーなどで急増している中国人による不法労働の実態が浮き彫りになった。(中略)

 

(強制退去処分となった)この10人は近くの中国資本のバナナ農園で労働者として働いていたが、農園そのものも許可受けていない無許可違法農園であることがわかり、郡の関係当局が実態調査を始めた。

 

別のバナナ農園で働いていた中国人9人は他人所有の土地などに侵入して不許可で樹木を伐採したり、勝手に開発したりするなどしていたためミャンマーの森林法違反で摘発され、やはり同額の罰金を支払わされた。(中略)

 

■ 12年前から違法バナナ農園による乱開発

カチン州でこうした不法滞在の中国人が相次いで摘発、強制送還処分を受ける背景には同州の州都ミッチーナ近くを流れるイラワジ川沿いに点在する空き地や休耕地に続々とバナナ農園ができているという背景があると地元NGOは指摘する。

 

カチン州のNGO組織「土地と環境保護のネットワーク」によると中国資本のバナナ農園は近隣のミャンマーやタイでは原則禁止されている。

 

このため約12年前からミッチーナ郡やバモー郡、ワインモー郡など中国と国境を接するカチン州に続々とバナナ農園が進出、現在では合計の広さは約10エーカーにも達しているという。

 

バナナ農園の多くが中国資本で、地元住民とともに中国人労働者が農園労働者として働いているものの、その大多数が労働許可を取得していない不法滞在の中国人という。さらに郡当局によると、中国資本のバナナ農園はそのほとんどが無許可経営で周辺住民との間でいろいろな問題を起こしていると指摘する。

 

ミャンマー農民が所有する空き地や休耕地や農地に無許可で侵入しては勝手にバナナの樹を植えて農園にしてしまうという無茶な手法や森林や林をこれも無許可で伐採して開発する手口は農民とのトラブルだけでなく森林の動植物の生態系を乱し、深刻な環境破壊を引き起こしていると地元NGOは指摘する。

 

■ 対策にようやく本腰の地元当局

こうした事態に地元関係郡当局者たちは、カチン州政府に対して早急な対策を講じるよう要求している。

 

自然環境や周辺住民、農民の生活への打撃や地元労働市場への影響などの実態調査をするための州政府による対策委員会を立ち上げて、中国人労働者と同時に中国資本の違法バナナ農園に対する監督指導、そして法に基づく処分などを検討するよう提言しているという。

 

東南アジアではミャンマーだけでなく、ラオスやカンボジアなどで中国資本による開発とそれに伴う中国人労働者の流入が地元企業や周辺住民との間で軋轢を起こすケースが近年目立っている。(中略)

 

こうした反面、当事国の政府は中国の習近平国家主席が進める「一帯一路」政策による多額の経済援助、資本投下の前に表立って異を唱えることが難しいという現実があり、苦しい立場に追い込まれているのが実態といえる。【623日 大塚智彦氏 Japan In-depth

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【それにしても、ウイグル族収容問題でも中国を擁護するというのは・・・・】

話を冒頭のウイグル族収容所問題に関する公開書簡に戻すと、ミャンマー・スーチー政権がロヒンギャ問題に関して、軍部との関係やロヒンギャを嫌悪する国内世論に配慮して、欧米の求めるようなロヒンギャ支援策を取れない・・・というのは、一定に事情はわかります。(賛同はしませんが)

 

ただ、そうした問題との兼ね合い、あるいは中国との関係といったことがあるにしても、直接の国内問題ではない中国ウイグル族の問題に関しても、人権擁護の立場を見せない、むしろ弾圧側を擁護するというのはいささか残念

なことです。

 

スー・チー氏が軍事政権時代に自宅軟禁処分を長年受けていたことに国際世論が強く反発したことで今のスー・チー氏があること、また、スー・チー氏が強権支配への明確な反対を示す象徴的存在だったことを考えると・・・。

 

民主化運動の象徴と、政権運営を託された現実政治家では立場が全く異なるといえば、もちろんそうですが。


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1 コメント

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Unknown (かな)
2019-10-06 16:13:51
日本も人権を擁護してるようには見えないですね
入管の外国人の扱い
友好国であるトルコのクルド人弾圧は見て見ぬふり

心情的に嫌いな中国だからウイグルに口を出してるだけでしょう
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