(【5月20日 WEDGE】 普段見慣れた地図とは全く異なるイメージがあります)
【ある臨界点を超えると止められなくなる「ティッピング・エレメント」】
地球温暖化の進行のなかにあっても、北極圏の温暖化は非常に速いペースで進んでいると考えられています。
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北極圏は世界平均と比べ、少なくとも2倍のペースで温暖化している。
原因のひとつは海氷や雪の融解。海氷は1990年代から減少し始め、海の面積が約260万平方キロも増えた。
太陽光を反射する雪や氷が減少することで、より多くの太陽エネルギーが吸収され、気温が上昇する。これは「雪氷アルベド(反射率)フィードバック」と呼ばれる。【4月25日 NATIONAL GEOGRAPHIC】
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こうした海氷と雪の消失や永久凍土の融解という変化は、ある臨界点を超えると、その変化がさらなる温暖化を引き起こすことで、止めることができない加速度的な悪化を招く「ティッピング・エレメント」と認識されており、海面上昇等により莫大な損失を世界全体にあたえることにもなります。
****北極圏の温暖化による経済損失、最大7500兆円****
海面上昇から嵐の大型化にいたるまで、気候変動は金銭的な損失をもたらす可能性が高いと、以前から科学者は警告してきた。最新の研究によると、その額面はさらに跳ね上がるという。
今回シミュレーションが行われたのは、北極圏の温暖化。海氷が解けたり大地を覆う雪がなくなると、その表面の色は白から暗い色へと変化する。これにより太陽熱の吸収率が高まる。また、広大な永久凍土が融解し、温室効果ガスであるメタンや炭素を放出している。
4月23日付けで学術誌「Nature Communications」に掲載された論文によると、北極圏におけるこうした現象が温暖化をさらに加速させており、たとえパリ協定の国別削減目標を遂行していても、気候変動に起因する総コストは67兆ドル(約7500兆円)増える恐れがあるという。
ただし、気温上昇を1.5度以下に抑えるシナリオでは、コストの増加は25兆ドル(約2800兆円)に抑えられると、論文は試算している。ちなみに2016年の全世界のGDPは、約76兆ドル(約8500兆円)だった。
論文の主執筆者で、英ランカスター大学ペントランドビジネス持続可能性センターに所属するドミトリー・ユマシェフ氏は「北極圏では、非常に大きな変化が起きています。永久凍土の融解や海氷と雪の消失は、気候システムの『ティッピング・エレメント』と認識されています」と話す。「北極圏の温暖化が全世界に及ぼす影響を知りたいと思いました」
こうした気候の「ティッピング・エレメント」は、ある臨界点を超えるとさらなる温暖化を引き起こすような自然システムのこと。
(中略)いったん臨界点に達すると、止めることはほぼ不可能で、いわゆる「ホットハウス・アース」状態に陥る危険がある。ホットハウス・アース状態では、世界の平均気温が現在より4〜5度高くなり、北極圏などでは、気温上昇の平均値が10度に達するという。(後略)【同上】
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【経済的にも軍事的にも注目される北極海 その中心にはやはり中国が】
もちろん、悪影響ばかりではなく、これまで凍った海で利用価値がほとんどなかった北極海が、海氷の融解で利用できるようになるという好都合な話もあります。
あまりにも大きすぎて認識するのも困難なかなり先の危機的状況よりは、とりあえず認識が容易な比較的近い時点での好影響のほうに、各国の関心は惹かれるようです。
航路としての利用価値、膨大な資源といった経済的側面、さらには、これまで凍ているという前提で組み立てられていた安全保障の面でも、今後は海軍を展開することが可能になるということでの軍事的利用価値・・・・今、北極海に沿岸国・関係国の熱い視線が向けられています。
そうした中でも、中心的なプレイヤーとなっているのは、ここでも(沿岸国でもない)中国です。
中国は、世界戦略「一帯一路」を北極圏に拡大し「氷のシルクロード」を建設すると表明しています。
****<中国>初の「北極白書」 権益確保へ強い意欲****
中国政府は26日、北極開発の基本政策をまとめた初の「白書」を発表した。
白書は「中国は北極の重要な利害関係者」と宣言。習近平国家主席が提唱する経済圏構想「一帯一路」を北極圏に拡大し「氷のシルクロード」を建設すると打ち出した。
北極圏は地球温暖化によって解氷が進み、北極海航路が新たなシーレーン(海上交通路)となる可能性が出ている。
中国は北極圏に面していないが、白書は「最も接近する国の一つであり、中国の気候や経済利益に関係する」と主張。「責任を負う大国」として「平和安定と持続可能な発展に貢献する」とした。
習指導部の「大国外交」路線を色濃く反映し、権益確保への強い意欲を示した形だ。
一方で、習指導部は「海洋強国」を掲げて海空軍を増強しており、国際社会からは北極圏進出を警戒する声も上がる。
だが、孔鉉佑外務次官は26日の記者会見で「我々に他の意図があるとの懸念は全く必要ない」と反論。ロシアや北欧諸国との連携に加え、2016年に始まった「北極に関する日中韓ハイレベル対話」を具体例に、国際協調路線を歩んでいる点を強調した。【1月26日 毎日】
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中国は、アメリカ、ロシア、ノルウェー、デンマーク、カナダなどの沿岸国を加盟国とする北極評議会にもオブザーバー国として長年参加し、北極開発のルール作りで影響力を高めようとしています。
「我々に他の意図があるとの懸念は全く必要ない」とのことですが、軍事的展開も急ピッチで進んでおり、中国を警戒するアメリカが神経をとがらせています。
****中国軍、北極への進出積極化 潜水艦展開も=米国防総省****
米国防総省は、中国の軍事動向に関する年次報告書で、中国人民解放軍が北極圏での展開を活発化させていると指摘した。核攻撃への抑止力という位置付けで潜水艦を派遣している、としている。
(中略)中国は、北極圏地域の国でないにもかかわらず、同地域での活動を活発化させ、2013年には北極評議会(AC)のオブザーバー国となった。こうした動きに、北極圏国(米、カナダ、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、ロシア)は、将来的に北極圏に軍を展開させる可能性など、中国の長期的な戦略目的に懸念を抱いている。
ポンペオ米国務長官は、6日にフィンランドで開幕する北極評議会の会合に出席することになっている。
国防総省の報告書によると、デンマークは、中国のグリーンランドへの関心を懸念。中国は、グリーンランドに研究施設や衛星通信施設の建設や、空港の改良工事などを提案しているという。
「民間の分析調査も、中国が核攻撃に対する抑止力として潜水艦を派遣するなど、北極海でのプレゼンスを高めているという見方を裏付けることができる」としている。(後略)【5月4日 ロイター】
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【中ロの北極海進出を強く警戒するアメリカ 一方で温暖化には背を向けたままという矛盾・支離滅裂】
****北極海で権益拡大、中国の「氷上のシルクロード」に米警戒 第3の一帯一路****
米国のポンペオ国務長官は6日、訪問先のフィンランドで北極海をめぐる情勢について演説し、「北極海は新たな戦略空間となっているが、関係各国は共通のルールに基づいて行動するべきだ」との認識を示し、また、「北極海を新たな南シナ海にしてはならない」と中国を強くけん制した。
米国は中国の北極海進出に警戒感を強めており、北極海が新たな米中対立の場とならないよう、軍事、安全保障的な視点から北極海への関与を強めようとしている。(後略)【5月16日 NewSphere】
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アメリカが中国の北極海進出に神経をとがらせるのはわかりますが、一方でトランプ米政権は北極海の変化をもたらしている温暖化については、パリ協定から離脱するなどの対応で背を向けています。
そうしたアメリカ米政権の対応について、下記記事は“皮肉”と評していますが、“矛盾”“支離滅裂”と言うべきでしょう。
****北極海温暖化で過熱する米中露の覇権レース****
かつては分厚い氷で人を寄せ付けなかった北極海が今、温暖化による氷解が進み、海底に眠る豊富な資源の存在に世界の熱い視線が集まってきている。その中でもめだつのが、開発と覇権めぐり火花を散らし始めた米中ロ3大国の存在だ。
「世界は今日、かつてないほど磁石のように北極海に引きつけられつつある。われわれは今後、勢力争いと競争の場となりつつある新時代に備えていく必要がある」
今月6日、フィンランドで開催された「北極評議会」(The Arctic Council)に初めて出席したポンペオ米国務長官の演説は、冒頭から緊張感をにじませる調子で始まった。
「北極評議会」は1996年、北極圏に領土を持つアメリカ、カナダ、ロシア、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、スウェーデン、アイスランドの8カ国が集まって組織され、2年に1度の閣僚会議で共通の問題について意見交換が行われてきた。
しかしその後、地球温暖化の影響で北極海域の海氷溶解が進むにつれ、海底資源の開発、大西洋からシベリア海への新たなシーレーン確保も可能となった結果、その戦略的価値が一躍脚光を浴びるにいたった。
このため、これまで地理的に縁の遠かった中国、日本、韓国、インドなどを含め他の14カ国もオブザーバーとして参加し始めており、閣僚会議も回を重ねるごとに活発な意見交換の場となってきている。
そんな中で、一段と熱気のこもった演説をしたのが、ポンペオ長官だった。
長官は、まず前段で、「北極海の戦略的価値と国際間協力」の意義について以下のような点を指摘した。
アメリカは、1857年に当時のウィリアム・シーワード国務長官が貴重な財産であるアラスカを購入したが、今やその価値はかつてなく高まり、北極海国家として北極海の将来のために立ち上がるべき時が来た。
この海域はシーワード長官当時に考えられていたような不毛で未開な僻地であるどころか、世界全体の未発見原油の13%、天然ガスの30%、未曾有のウラン、レアメタル、金、ダイアモンドなどが何百万平方マイルの海域に広がり、魚類はあふれんばかりに豊富に存在する。
しかも、海氷が着実に減退し始めた結果、新たな交易と通航のチャンスを到来させ、アジア―西部欧州海域間の航海に要する時間は20日も短縮されてきたため、北極海は急速に新たな戦略的重要性を帯び始めている。北極海シーレーンはいわば「21世紀のスエズ、パナマ運河」ともいえる存在だ。
それゆえにメンバー8カ国は、過去数十年間,科学面の協力、文化・環境面の調査・研究という極めて重要な諸テーマに焦点を絞り取り組んできたように、今後は「パワーと競争」の場となった北極海の新しい未来に向けて正しく対応していくべきだ。
さらに長官は後段で一転して、ロシアそしてオブザーバーである中国を繰り返し名指しで批判、具体的に以下のような行動パターンについて疑念を表明した:
ロシアは先月、北海をアジア―北部欧州間にまたがる中国の「一帯一路」とリンクさせる計画を発表、同時に中国は北極海に複数のシーレーン開発計画に着手している
中国は中国マネー、中国企業、中国人労働者を使い、同海域のインフラ開発に乗り出し、ある部分では中国の恒久的安全保障プレゼンス確保を企図している
米国防総省は最近、中国が今後、北極海に持つ商業用研究施設を核攻撃抑止力としての原子力潜水艦配備基地に転用する可能性について警告を発している
中国は、南シナ海、アフリカなど世界の他地域において侵略的、軍事的行動をとってきたが、われわれは同様に、北極海海域においても、中国のこれからの行動を注視していく必要がある
ロシアは「北極評議会」のフルメンバーだが、北海ルートの公海について“領海”を主張、他国船舶や砕氷船の通過の際には事前通過許可とロシア人パイロットの乗船を義務付け、これに応じない場合は軍事力行使の脅しをかけるなど、国際法上の違法行為を続けており、憂慮すべき問題だ
ロシアは2014年に北極軍事基地を建設以来、同海域における軍事プレゼンスを着々と強化、これまでに16カ所に深海港を開港したほか、475カ所に新たに軍事基地・拠点を建設した
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もちろんアメリカが、北極圏における中国やロシアの野望について言及したのは、今回が初めてではない。(中略)
ただ、今回のように激しい調子で両国の活動を同列に置いて批判したのは初めてだ。
その背景として、トランプ政権発足以来、いずれも対米関係の悪化という共通の状況下にある中露が提携を深め、北極海における関係強化の動きが念頭にあることは間違いない。
ポンペオ長官が「北極評議会」演説で、中国の「一帯一路」構想と北極海シーレーン計画へのロシア参加決定に具体的に言及したことは、その表れであり、アメリカ側の焦りを反映したものといえよう。
ポンペオ長官は、このように北極海における中露の新たな動きをけん制した上で、今後のアメリカの対応として、(1)同海域におけるアメリカの外交および安全保障上のプレゼンスを一段と強化していく(2)とくにロシアの不穏当な活動に対抗して軍事演習を実施していく(3)軍事プレゼンス強化の一環として砕氷船艦隊の再建および沿岸警備隊関連予算の拡充に着手する(4)米軍内に北極海担当の上級ポストを新設する―などの具体策を明らかにした。
これに対し、同席したラブロフ露外相は「北極海が直面する諸問題の解決にはより深化した国家間協力が求められる。そのような時に、軍事的対応で処理しようとする試みは前例がなく、また軍事対立をあおるいかなる口実も存在しない」と反論、ポンペオ長官の挑戦的態度にくぎを刺した。
また、中国も外務省報道官がただちに同長官発言に言及「北極海における平和的国際協力の全体的基調は以前と何ら変わっておらず、アメリカの主張は事実を歪曲し、善悪を混同したものであり、下心と隠れた動機に根ざした発言だ」と酷評した。
トランプ政権にとっての最大の皮肉
しかし、中露との対抗上、北極海の「戦略的重要性」を強調し始めたトランプ政権にとっての最大の皮肉は、世界180カ国が批准した地球温暖化規制の国際取り決め「パリ協定」からの離脱と北極海の現状との矛盾だ。
なぜなら、北極海は世界のどの地域よりも温暖化の影響が大きく、氷山や海氷の溶解が急速に進んでいるからだ。
5月8日付『ナショナル・ジオグラフィック』誌電子版も「世界の頂上で展開される新たな冷戦」の見出しで論評を掲げ「地球儀のてっぺんはこれまでの人類史を通じ、厳寒で僻地で危険に満ちた過酷な条件ゆえに、他の地域を変容させてきたような集中的開発からは縁遠い存在だった。しかし今日、北極海は地球のどの地域よりも早いスピードで温暖化が進みつつある。とくに2007年には、記録的な気温上昇の結果として、それまで夏季を含め年間通じ北極地点を覆っていた広大な厚い流氷が最低レベルまで縮小した。それ以後は、かつて商業利用や軍事的野心を抑制してきた分厚い海氷からなる防御バリアが崩壊したことで、新たに出現した“地球上のニューフロンティア”に向けて各国による投資、開発ラッシュに拍車がかかり始めた」と解説している。
つまり、一方では、北極海における中露の活動が活発化してきたのも、温暖化による氷解と密接な関係があるからであり、それゆえにアメリカも遅ればせながら対応を迫られることになったという現実がある。
他方、世界中の大半の国が「地球温暖化」対策に取り組む意欲を示す中でアメリカだけが「パリ協定」から離脱したことは、大きな矛盾以外の何物でもない。
本来なら、北極海における中国やロシアの進出を批判する前に、アメリカとしては最低限「パリ協定」からの離脱方針を見直すべきであり、そうしないかぎり、関係各国の理解と同情も得られないのは自明の理だ。
しかし、トランプ大統領は就任以来打ち出してきた反環境主義からは一歩も後退する姿勢を見せていない。
それどころか、ポンペオ国務長官は今回の「北極協議会」閣僚会議で「地球温暖化」対策の重要性に言及した文言を最終日の共同宣言に盛り込むことに最後まで抵抗、この結果、過去の閣僚会議とは異なり、宣言文のないまま終了するという異例の事態となった。
もしアメリカが今後も「パリ協定」を無視し、その一方で、北極海の氷解が加速するとすれば、同海域をめぐる中露との覇権レースにおいて“敵に塩を送る”状況が続くことになりかねない。【5月20日 WEDGE】
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なお、ロシアの最近の動向については、ロシアメディアは以下のようにも。
****北極海の氷上基地、露で新たに開発進む****
ロシアのシルショフ海洋研究所は17日、北極海での活動向けに氷上基地の開発が同国の研究者らによって新たに進められていると発表した。開発中の基地により、気候の変化や氷の状態を監視したり、航海の安全を確保したりすることが可能になるとしている。
昨年5月にロシアのプーチン大統領によって署名された大統領令では、北極海航路の貨物輸送量を2024年の時点で8千万トンにまで拡大させるとの課題が示されている。これを巡りプーチン大統領は今年4月、2018年に達成された輸送量2千万トンについて、1987年に達成されたソ連時代の記録の既に3倍に上っていると指摘し、現在の目標については、現実主義的であるとともに、十分に考慮された具体的な課題であるとしている。
同研究所の代表者らがスプートニクに対し明らかにしたところでは、ロシアには現在、海洋研究のための氷上基地が存在していないものの、同様の基地は欧州連合(EU)や米国、日本、カナダによって使用されているという。
同研究所ではロシアが開発中の基地について、北極海航路における航海の安全確保以外にも、北極圏における生物多様性の維持を促進していくという役割も果たすとしている。【5月18日 SPUTNIK】
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