孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  次期大統領選挙論点として再燃した人工中絶問題

2019-05-21 23:32:16 | アメリカ

(【520日 BBC】 米ピュー研究所の2018年世論調査 これで見ると、中絶は「すべての場合において合法であるべき」と答えた人は25%、「ほとんどの場合において合法であるべき」と答えた人は34%と、賛成派が計59%を占めており、反対派とは大きな差があるようにも思えますが。)

 

【国論を二分するどころか、テロ事件にも及ぶアメリカ・人工中絶問題】

アメリカの人工中絶をめぐる問題は、今までにも2,3回とりあげたことがあります。

20151129日ブログ“アメリカ  再び「中絶戦争」の犠牲者 現実には減少傾向の中絶 増えるシングルマザー”など)

 

アメリカにおいては、人工中絶を容認するか否かが、保守・リベラルを分かつ象徴的な問題ともなっており、オバマケアをめぐる対立同様に、国論を激しく二分する極めて政治的な重大問題に位置づけられています。

 

最初に認識しておく必要があるのは、日本人には想像できない対立・議論の “激しさ”で、医療関係者・施設へのテロ行為に及ぶことも珍しくありません。

 

****米コロラド州で男が銃乱射 3人死亡、9人負傷****
米西部コロラド州コロラドスプリングズで27日、男が銃を乱射し、少なくとも3人が死亡、警察官4人を含む9人がけがをした。CNNなどが伝えた。

米メディアによると、27日昼ごろ、コロラドスプリングズの医療施設「家族計画クリニック」で銃撃があったと通報があった。警官隊と容疑者の男との間で銃撃戦になり、目撃者によると5分間で20発ほど銃声が聞こえたという。(中略)

同クリニックは妊娠中絶や性感染予防などのケアをしている。米国では人工妊娠中絶の是非を巡り、大きな議論になっており、中絶に反対する人々は同クリニックなどを批判している。

米メディアによると、1977年から14年まで、人工中絶をする施設を狙った爆破事件は42件、殺人事件は8件、放火事件は182件起きているという。【20151128日 朝日】
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20151129日ブログでは、人工中絶をめぐる議論の高まりもあって、近年は中絶件数は減少傾向で、むしろシングルマザーを選択する女性が増加するという、伝統的“家庭観”を重視する保守派にとっては皮肉な現実もあるという話題も取り上げました。

 

【法案の支持者らには、「ロー対ウェイド判決」を覆す好機と捉える向き】

従来から上記のように激しい論争を呼ぶ問題でしたが、アラバマ州の決定で再び政治問題・大統領選挙の主要論点としてクローズアップされています。

 

****米アラバマ州、中絶ほぼ全面禁止法案を可決 レイプや近親相姦でも****

米アラバマ州議会上院は14日、レイプや近親相姦(そうかん)による妊娠も含め、中絶をほぼ全面的に禁止するという全米で最も厳しい法案を可決した。

 

法律が成立すれば、中絶手術は犯罪とみなされ、手術を行った医師には10年以上99年以下の禁錮刑が言い渡される可能性もある。中絶が例外的に認められるのは、母体の生命が危険にさらされている場合、または胎児が致死的な状態にある場合に限定される。

 

法案可決を受けて米国自由人権協会は、「これはレイプや近親相姦の被害者の身体に関する自己決定をさらに奪って出産を強制することにより、被害者らを罰する法案だ」と断じ、法律の施行阻止を目指して裁判を起こす構えを示した。

 

共和党が主導権を握る同州議会上院で可決された法案は、同じく共和党のケイ・アイビー知事の元へ送られた。知事が署名すれば法廷闘争に持ち込まれ、判断が最高裁に委ねられることも考えられる。

 

法案の支持者らは、最高裁で争うことを歓迎する姿勢を明確に打ち出している。ドナルド・トランプ氏の大統領就任後、最高裁判事は保守派が過半数を占めており、共和党の中には1973年に最高裁が女性の中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」を覆す好機と捉える向きがある。 【515日 AFP】

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“今回成立したアラバマ州法は全米で最も厳しい内容だ。中絶を「妊娠に気づいた後に器具や薬で妊娠を終わらせること」と定義し、母体に危険がある場合を除いて禁止した。妊娠初期段階でも中絶できず、性的暴行や近親相姦(そうかん)で妊娠した場合でも例外を認めない。妊婦は罪に問わないが、中絶手術をした医師は最長99年の禁錮刑となる。”【517日 朝日】

 

人工中絶の問題でいつも出てくるのが“1973年に最高裁が女性の中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド判決」”

 

「われわれは既婚者であろうとなかろうと、産む産まないというような基本的な個人の問題に政府から不当な干渉を受けないという個人の権利を認める。その権利には妊娠を継続するか否かを決定する女性の権利が必然的に含まれる。」といった内容の判決で、人工中絶を容認することで問題に決着をつけた・・・・はずでしたが、その後も論議が絶えないのは前述のとおり。

 

****「最高裁判決をひっくり返す」****

成立から6カ月で施行されるが、最高裁のこれまでの判決と真っ向から対立するため、裁判になれば下級審で差し止めが認められることが確実視されている。

 

ただ、法案を出した女性の州下院議員は「目的は(上級審に控訴して)最高裁判決をひっくり返すこと」と明言する。法案に署名したケイ・アイビー州知事も「最高裁が73年に判決を下した際、私も含め、多くの米国民が同意できなかった」とする声明を出した。

 

米国では保守色の強い南部や中西部で、中絶の規制を強化する動きが出ている。米CNNによると、胎児の心音が確認できるようになるとされる妊娠6週以降の中絶を禁じる法律が、ジョージア、ケンタッキー、ミシシッピ、オハイオの4州で今年成立。6週では妊娠に気づかない女性も多く、一部の州では「違憲」として提訴されている。

 

 トランプ氏任命、保守派判事優勢

中絶規制強化の背景には、トランプ大統領が保守派の判事2人を任命し、最高裁の構成が保守派優勢になっていることがある。保守派の間では、現在の最高裁が中絶問題を取り上げれば過去の判例を覆し、中絶を禁じる判決を下すという期待が広がっている。

 

こうした動きに中絶擁護派は猛反発している。アラバマ州法成立に対しても、20年大統領選の民主党の候補者指名争いの候補者からは「全国の女性に対する直接的な攻撃。戦わなければならない」(カマラ・ハリス上院議員)と非難が相次いでおり、大統領選の大きな争点になるのは必至だ。【517日 朝日】

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「戦わなければならない」・・・・・というのはわかりますが、現在の最高裁判事の構成を見ると、勝ち目があるのでしょうか?

最高裁判事の判断は、一般に言われているような保守・リベラルの色分けほど単純でもない・・・・のでしょうか?

 

トランプ大統領が保守派判事を任命した時点で予想されていた展開でもあり、「アメリカ大統領の最大の仕事は、考えの近い最高裁判事の任命である」と言われる所以です。

 

政治問題に関して憲法判断にあまり踏み込まない日本の司法と異なり、アメリカでは政治的に決着しない国論を二分する問題が最高裁判断で決着します。

 

当然、中絶容認派は強い抗議を示しています。

 

****中絶禁止の州法に抗議、全米で一斉デモ 50以上の団体が参加****

米国内の各地で人工妊娠中絶を禁止する州法の成立が相次いでいることに対し、21日に全米50州のほぼすべてで一斉に抗議デモが実施される。

 

米市民自由連合(ACLU)や妊娠中絶権擁護全国連盟(NARAL)など50以上の団体が主催して、現地時間の正午から集会を開く。

 

主催者らは、全米で中絶の「極端な禁止」が相次ぎ、生殖の自由が奪われていると主張。トランプ政権が女性の選択権に反する運動を展開していると非難し、特に非白人層、低所得の層の女性に大きな影響が及ぶとの懸念を示す。

 

アラバマ州では先週、非常に厳格な中絶禁止法が成立した。強姦や近親相姦で妊娠した場合を含むほぼすべての中絶手術を禁止し、執刀医には最大で禁錮99年と、強姦犯や殺人犯に匹敵する刑を科す内容。

 

ただし、これは中絶を女性の権利として認めた1973年の最高裁判決に違反すると訴える反対派との間で法廷闘争が予想され、施行されるとしても数年先になる見通しだ。

 

ミシシッピやオハイオ、最近ではジョージア州でも、胎児の心音が確認できるようになってからの中絶を禁止する「心音法」が成立した。同様の法案はミズーリ、ルイジアナなど複数の州でも審議されている。

 

一方で米国最大の反中絶団体「生まれる権利を守る全米委員会(NRLC)」は7月に全国大会を予定し、支持者らに参加を呼び掛けている。【521日 CNN】

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【トランプ大統領 中絶反対派として保守団結を呼びかける 3つの例外を明示して極端な禁止論とは一線】

激しい保守・リベラルの論争を呼ぶこの問題ですが、トランプ大統領は“いつになく”静かでした。

 

静かでしたが、ここにきてようやく“自らの政権における国内の裁判所の保守化を成果として強調した上で、2020年米大統領選に向けて、人工中絶に反対する保守層の団結を呼びかけた”とのことです。

 

ただ、アラバマ州のような例外を認めない中絶禁止には賛成しないとの立場も。

 

****トランプ氏、妊娠中絶禁止法の論争に沈黙破る****

アメリカでドナルド・トランプ大統領の支持者の多い南部など複数の州が、妊娠の人工中絶を全面禁止したり厳しく制限したりする州法を成立させる中、トランプ氏は自分は中絶反対派だが例外はあるとツイートし、一部の州法の内容は支持しない姿勢を示した。かつては中絶容認の立場だったトランプ氏は、近年になり反対派に転じている。

 

南部アラバマ州などが、妊娠の原因が強姦や近親相姦でも人工中絶を認めない州法を成立させている状況で、トランプ氏は18日に初めてツイッターでこの問題について言及し、「自分は強固にプロ・ライフ(訳注:生命支持、アメリカでは『中絶反対』の意味)だが、例外は3つある。強姦、近親相姦、母親の生命を守るためだ。ロナルド・レーガンと同じ立場だ。」と書いた。

 

大統領はその上で、「過去2年間で、素晴らしい新しい連邦判事105人(もっと増える)と2人の最高の新しい最高裁判事、メキシコシティの条例、生命権についてまったく新しい前向きな態度のおかげで、大いに前進した。

 

極左は妊娠後期の中絶(もっとひどいことも)を推進して自滅しつつある。みんな団結して、2020年には生命のために勝たなくてはならない。

 

馬鹿な真似をして、ひとつにまとまるのをやめてしまったら、生命のためにせっかくがんばって獲得してきたことが、たちまち消えてなくなる!」とツイート。

 

自らの政権における国内の裁判所の保守化を成果として強調した上で、2020年米大統領選に向けて、人工中絶に反対する保守層の団結を呼びかけた。

 

中絶反対派は、アラバマ州などの中絶禁止州法がたとえ下級審で違憲と判断されても、連邦最高裁まで争う構えだ。連邦最高裁が人工中絶を女性の権利として認めた1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆すことを、最終的な目的としている。(中略)

 

米世論と妊娠中絶

妊娠の人工中絶はアメリカで長年にわたり、常に激しい議論や運動の対象になってきた。特に、保守派の福音主義キリスト教徒が中心となり、人工中絶の全面的禁止や制限の厳格化を求めてきた。

 

米ピュー研究所の2018年世論調査によると、アメリカの成人回答者のうち、中絶は「すべての場合において合法であるべき」と答えた人は25%、「ほとんどの場合において合法であるべき」と答えた人は34%と、賛成派は計59%。「すべての場合において違法であるべき」と答えた人は22%、「ほとんどの場合において違法であるべき」と答えた人は15%と、反対派は計37%だった。

 

トランプ氏自身は、この問題について立場を変え続けており、1999年には「自分はとてもプロ・チョイス(訳注:選択権支持、アメリカでは『中絶支持』を意味する)だ。

 

自分は中絶の概念そのものが大嫌いだ。大嫌いだ。それが意味するすべてのことが大嫌いだ。この問題を人が議論しているのを聞くと、ぞっとする。ただしそうは言っても……自分は選択する権利を信じているだけだ」と、中絶容認の姿勢だった。

 

それが20163月には、自分の立場は「例外ありでプロ・ライフ(中絶反対)だ」と発言していた。

 

トランプ氏が「2020年(大統領選)で命のために勝つ」には、与党・共和党の一致団結が必要だとツイートした一方、野党・民主党からも、この中絶問題が次の大統領選の主要課題になるという意見が出ている。

 

民主党から出馬を表明しているエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州選出)は、アラバマ州の禁止法成立を「非常に危険で無類に残酷だ。提案者たちは、ロー対ウェード判例を覆そうとしている」と批判。

 

さらに、「私は(中絶が違法だった時代の)アメリカで暮らしたことがあり、その上であえて申し上げます。私たちは絶対に後戻りしないと。今も、二度と。私たちはこの動きに対抗して戦い、そして勝ちます」と呼びかけた。

 

アメリカで人工中絶手術は受けられるのか

1973年に連邦最高裁が中絶手術を合法と認めて以来、国内の中絶クリニックの数は減り続けた。2017年には州内に中絶手術が受けられる施設が1カ所しかない州は、6州に上るとされた。

 

昨年から今年にかけて、アラバマ州のほか、ジョージア、アイオワ、ケンタッキー、ミシシッピー、オハイオ各州の知事が、胎児の心拍が検知できるようになった時点で人工中絶を禁止するという州法に署名した(アイオワの州法は州最高裁が違法判断)。

 

ルイジアナとミズーリの州議会は同様の州法を可決し、知事の署名を待っている状態。ほかに、9州の州議会が同様の法案を検討している(そのうちペンシルベニア州では委員会で否決)。

 

生殖の権利について活動する市民団体、グットマッハー研究所によると、中絶を禁止する州法はいずれもまだ施行されていないが、各地の支持者は連邦最高裁まで争う構えだという。

 

その一方でこれら以外の州では、女性が中絶する権利を守ろうと対抗策を導入する動きが進んでいる。ニューヨーク州は今年1月、場合によっては妊娠24週以降も中絶する権利を守る州法を成立させた。【520日 BBC】

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トランプ大統領がかつては中絶を容認していた・・・というのは、以前から指摘されている点です。

まあ、人の考えは変わるものですから、「プロ・チョイス」から「プロ・ライフ」に転じること自体は問題ではないでしょう。(最近は“ブレない”ことを良しとする風潮がありますが、「君子豹変す」で、状況等によって判断を変えること自体は非難されることではないと考えます)

 

それはいいとして、よくわからないのは、アラバマ州判断のような極端な禁止派との距離感です。

「例外は3つある。強姦、近親相姦、母親の生命を守るためだ」ということで、考えの違いを明確に打ち出したということでしょうか。

 

“馬鹿な真似をして”というのは、アラバマ州のような極端な禁止法案のことでしょうか。

 

****トランプ大統領が行き過ぎと示唆-アラバマ州の人工中絶禁止法****

トランプ米大統領は18日遅く、 アラバマ州で成立したほぼ全ての人工妊娠中絶を禁止する法律は行き過ぎだと示唆するコメントをツイッターに投稿した。

  

大統領は一連のツイートで、中絶反対を「強く支持するが、3つの例外がある。性的暴行、近親相姦(そうかん)、母親の命を守る場合だ」と記した。【520日 bloomberg

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やっぱり、トランプ大統領はアラバマ州のような極端な禁止法案は支持していないという理解のようです。

 

【世論動向に変化?】

201511月ブログで紹介した世論動向は以下のようなものでした。

 

“米ギャラップ社が昨年(2013年)5月に行った世論調査では、(中絶反対の)プロ・ライフ支持者とプロ・チョイス支持者の割合は48%対45%と拮抗。米紙ニューヨーク・タイムズは「中絶が中間選挙での活発な争点になろうとしている」と指摘している。【201439日 産経】”

 

一方、前出BBCが紹介している米ピュー研究所の2018年世論調査では、人工中絶賛成派は計59%、反対派は37%とかなり差が開いています。

 

ここ数年で、世論動向に変化があったということでしょうか?

かりに米ピュー研究所の2018年世論調査が現状を示しているとすれば、今回のアラバマ州のような決定が次期大統領選挙にどのように影響するのか?

 

トランプ大統領がしばし沈黙していたのも、自身の判断の揺れ以外に、そうしたことを配慮したものであり、「例外は3つある」ことを明示したのも、やはり近年の世論動向を踏まえたうえでの判断でしょうか。

 

【私見をひとつだけ】

最後にひとつだけ言えば、アラバマ州のような胎児の人権を一途に尊重する人々が、世界各地で爆弾の雨を降らせたり、国内での銃誤射で子供を含む多くの人命が奪われたり、壁の向こうで難民・移民が生命の危険にさらされることなどに、一向に関心を払わないというところが、私には理解できないところです。


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