孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  進むテイン・セイン大統領の改革 スー・チーさんとも協調 これからが正念場

2012-01-30 21:59:01 | ミャンマー

(茶店の壁に貼られたスー・チーさんのポスター 彼女のポスターや彼女に関する本が街角のスタンドで売られています。数か月前には想像できなかった光景です。 “flickr”より By J_P_D http://www.flickr.com/photos/j_p_d/6614750181/

スー・チーさんの地方遊説、当局規制なし
ミャンマー民主化運動指導者のスー・チーさんは、自身も4月1日投票の議会補欠選挙に立候補、また、彼女が率いる「国民民主連盟」(NLD)は補選の行われる全国48の選挙区すべてに候補者を擁立していますが、29日には選挙戦に向けた地方遊説を開始しています。当局による規制は一切なかった模様です。

****ミャンマー:スーチーさん地方遊説 議会補選に向け****
ミャンマー民主化勢力「国民民主連盟」(NLD)を率いるアウンサンスーチーさんは29日、南部の都市ダウェーを訪問。4月1日投票の議会補欠選挙へ向けた地方遊説を開始した。地元市民は熱狂的にスーチーさんを出迎え、地方でもスーチーさんの人気が高いことを見せつけた。

NLDはダウェーなど補選が実施される全国48の選挙区すべてに候補者を擁立する。スーチーさんが最初の遊説地としてダウェーを訪れたのは、外国企業主導の巨大経済開発が計画され、その功罪が国民の関心を集めるダウェーで第一声を上げ、全国に存在をアピールする狙いもある。

スーチーさんは数千人の支持者を前に「私たちが選挙に出てもすぐに国が変わるとは思わないが、(民主化へ向けた)活動をさらに広げていくために、選挙に参加すべきだと決断した。国民誰もが平等な1票を持っている。どうか私たちに投票してください」と訴えた。また、議会定数の25%を自動的に軍推薦議員に割り振る現行憲法について「国民の利益にならない部分は改正する必要がある」と述べ、当選後に憲法改正に取り組む姿勢を明確にした。

米欧は対ミャンマー制裁解除の条件として、今回の補選の「自由・公正な実施」を求めている。テインセイン政権は選挙の自由な実施を強調しており、この日も当局による規制は一切なかった。【1月30日 毎日】
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スー・チーさんの国民的人気は衰えていないようです。
ミャンマー政府の恩赦で今月釈放された民主化運動グループ「88年学生世代」のメンバーも、21日、最大都市ヤンゴンで記者会見し、スー・チーさんの4月1日実施の国会補選への立候補を支持し、支援していく方針を示しています。
なお、メンバーからは、スー・チーさんの国会参加について「危険な選択」と指摘する声も上がり、政府主導で進む急速な民主化への不信感もあるようです。【1月22日 毎日より】

大統領:少数民族との完全和平実現に楽観的な見通し
スー・チーさんは選挙区内の貧困層の多い地区の少数民族住民の家に住民登録しての出馬です。
多分に、貧困層や少数民族へのアピールを意識してのことでしょう。

****スー・チーさん、カレン族宅に住民登録=補選出馬で―ミャンマー****
ミャンマーの民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが4月の補欠選に出馬するため、選挙区のヤンゴン南部コムー地区郊外に住む少数民族カレン族の姉妹宅に住民登録を移していたことが29日、分かった。スー・チーさんはこの姉妹と面識はないが、補選の前日はこの家に宿泊し、投票に向かう予定だ。

スー・チーさんはヤンゴン中心部に自宅があるが、立候補するには選挙区内に住所を登録する必要がある。国民民主連盟(NLD)関係者によると、今月下旬に党本部で住所移転に関する会議を開催。地図を広げて検討していたところ、スー・チーさんが貧困層が多いコムー地区の外れにあるワティンカ村を指定した。
後日、党関係者が同村を訪れて、村民に相談。姉妹は60歳前後の独身女性2人暮らしで、スー・チーさん受け入れを強く希望したことなどから決定した。スー・チーさんも了承した。【1月30日 時事】 
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1947年の発足以来60年以上、独立などを求めて政府軍と内戦を続けてきたミャンマー東部カイン(カレン)州を拠点とする少数民族カレン族の反政府組織「カレン民族同盟」(KNU)は今月12日、政府との間で初めて停戦合意に署名しています。
また、国境も近い中国雲南省の瑞麗市では、戦闘状態が続くカチン族の武装勢力「カチン独立軍」(KIA)と政府との停戦交渉も行われています。
少数民族との和解は、政治犯釈放と並んで、欧米諸国がミャンマー民主化の真偽を見極める基準としているものですが、テイン・セイン大統領の進める少数民族との対話路線も成果を見せてきています。

****ミャンマー:大統領、6武装組織と和平合意****
ミャンマーのテインセイン大統領は26日、連邦議会(国会)に書簡を送り、「これまでに六つの少数民族武装組織と和平で原則合意した」と明らかにした。大統領は「残る5組織とも交渉を続けている」とし、少数民族との完全和平実現に楽観的な見通しを示した。

米国や欧州連合(EU)は、少数民族との和平実現を対ミャンマー経済制裁解除の条件に挙げている。昨年後半から少数民族勢力との交渉を始めた大統領は、声明で国際社会に和平への積極姿勢を強調する狙いがあるとみられる。
大統領は和平合意した6組織と未合意の5組織の具体名は挙げなかった。

ミャンマーではこれまでに、少数民族武装組織としては最大規模の「ワ州連合軍」や、政府と停戦を結んだことがなかった東部カイン(カレン)州を拠点とする「カレン民族同盟」、北東部シャン州を拠点とする「南部シャン州軍」などが相次いで政府と停戦合意した。一方で北部カチン州を拠点とする「カチン独立機構」(KIO)などとは依然戦闘状態が続いている。

政府の少数民族との交渉団最高幹部は26日、毎日新聞に対し、停戦合意に至っていない「シャン州進歩党」との交渉が28日、「新モン州党」との交渉が31日に開かれると明らかにした。【1月27日 毎日】
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スー・チーさん:「テイン・セインがトップに立ったからこそ改革が進んでいる」】
情報公開も進展しており、国会審議の様子もメディアに公開されています。
****国会第3会合が開会=国外メディアにも議論公開―ミャンマー****
ミャンマーの首都ネピドーで26日、国会の第3回通常会合が開会し、国外メディアにも公開された。同国では民主化に向けた改革が急速に進んでおり、国会でも出席議員から積極的な発言が相次いだ。(中略)

取材に応じた野党新国民民主党のテイン・ニュン議員は「国会での活動で特に制約を受けることはない。野党議員も平等に扱われていると思う」と話した。同議員は国会に5案件を提案し、このうち汚職問題などに関する2案件が議題として採用されたという。【1月26日 時事】
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連日のように民主化に向けた進展が報じられるミャンマー情勢ですが、なかでも政府の柔軟姿勢をリードするテイン・セイン大統領と民主化運動指導者スー・チーさんの“二人三脚”とも“蜜月”とも言えるような関係が目を引きます。

大統領はインタビューで、“スー・チーが選挙で善戦したら閣僚に起用するか”との問いに、“選挙の結果次第だ。当選したら彼女は議員になる。現在の閣僚は全員が議会の承認に基づいて任命されている。彼女が議会の任命や承認を得たら、閣僚として受け入れることになる”と、スー・チーさんの閣僚起用も拒まない発言をしています。

一方、スー・チーさんは、やはりインタビューで、テイン・セイン大統領を評価・信頼する、以下のような応答をしています。

-大統領とインタビューしたとき、あなたの入閣を考えているかと聞いたら、彼はそれは議会次第だと答えた。
 そのとおり。もしわれわれ国民民主連盟(NLD)の候補者が連邦議会の補欠選挙ですべて勝利して48議席確保したとしても、600議席以上ある上下院の中ではわずかにすぎない。あらゆることを一度に実現することはできない。議会の中で徐々にわれわれの活動を広げていく。

-今回の改革はタン・シュエ(前国家平和発展評議会議長)が描いた青写真に沿って実行されているのか。
 違う。新政府が誕生し、テイン・セインがトップに立ったからこそ改革が進んでいる。彼は変化と改革の必要性を理解し、最善を尽くしている。政府内の改革派はほかにもいるが、彼なしに実現できたとは思わない。

-大統領と軍の関係は。
 彼は軍から尊敬されている。大統領は現政権の中でもまれな、汚職に手を染めていない人物の1人。彼だけでなく彼の家族も同様で、これはとても珍しいことだ。【2月1日号 Newsweek日本版】

さすがに閣僚云々については、自ら率いる国民民主連盟(NLD)の幹部らに対し、「政府からの就任要請がないので」と直接の返答を避けながらも、閣僚は在任期間中政党活動ができないとする憲法の規定を念頭に「(閣僚になるために)NLDを去るつもりはない」と述べ、入閣の意思がないことを明らかにしています。【1月28日 時事より】 

マコネル米共和党上院院内総務:「改革は本物だ」】
もちろん、こうしたテイン・セイン政権の柔軟姿勢にもかかわらず、依然ミャンマーの軍部支配体制という基本的枠組みは全く変わっていない・・・との批判もあります。
もっともな指摘ではありますが、これだけの変革が短期間に実現されるとは、民政移管前は誰も予想していなかったのも事実です。
国際社会としては、この改革路線が後戻りすることがないように、支援していくのが現実的対応かと思われます。

アメリカの経済制裁解除は米議会との関係もあって、急速には難しい状況です。
「少数民族との和平進展などを見守る必要がある」と述べ、早急な制裁解除や緩和に慎重姿勢を示していた米共和党のミッチ・マコネル上院院内総務は、ミャンマー訪問での政府幹部との会談後、「改革は本物だ」「初めて(ミャンマーの)将来について本当に楽観的になれた」と述べ、改革が進めば米国の経済制裁を見直すべきだとの考えを示しています。
なお、オバマ政権は今月13日の政治犯釈放を受け、大使交換に着手することを発表しており、両国関係の正常化に前向きな姿勢をみせています。【1月17日 読売より】

EUもテイン・セイン政権の改革を支援して、制裁緩和を検討しています。
****ミャンマー制裁、一部緩和=民主化を評価―EU****
欧州連合(EU)は23日の外相理事会で、ミャンマーが民主化に向けた改革を進めていることを評価し、同国のテイン・セイン大統領や閣僚、国会議員らに対する渡航禁止措置を停止することを決めた。引き続き、一層の制裁緩和を検討するとしている。

外相理は声明で、ミャンマー政府による政治犯の釈放や、少数民族カレン族の反政府武装組織との停戦合意などを評価。民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが立候補する4月の国会補欠選挙が自由・公正に実施されれば、同月末までに制裁の大幅緩和に踏み込む可能性もあるとの方針を示した。【1月23日 時事】
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【「問題は不一致にどう対処するかだ」】
今後については、スー・チーさんも登場する補選後の議会において、軍部に一定議席を割り当てた現行憲法の改正問題など、政府側と野党側の主張が対立する問題での議論がどのように行われるかが注目されるところです。
執拗に現行枠組みの変更を求める野党側、要求に応じない政権側・・・膠着した議論のなかで、体制内の既得権益層の反応、結果を出せない野党側の対応がどうなるか・・・・。

****ミャンマー 進む民主化・開放路線*****
政権・野党 これからが正念場
・・・・内外の予想を上回るテンポで民主化を進める同大統領だが、保守派は軍部にも政権内にもいるとされる。いわば民主化勢力と保守派との間で段階的前進を模索している。軍政でナンバー4だった同大統領は後継候補1位でもなかった。
改革派のキン・ニュン元首相が逮捕・失脚したのは絶頂期の04年だ。大統領職は一歩間違えば倒すか倒されるかである。「反対勢力」が具体的に何を指すかは分からないが、用心深さに改革派大統領のもう一つの顔が見えるようだった。
            
これからのミャンマーの命運を握るのは大統領と野党、とくにスー・チーさんとの関係でもある。
昨年8月、大統領との初会談後にスー・チーさんが「信頼できそう」と評価したとき、それまで「名ばかりの民政」と懐疑的だった欧米は初めて同政権を相手として考え始めた。
経済制裁もスー・チーさんが「イエス」と言わない限り、欧米は解除しないだろうとは大方の予測だ。スー・チーさんの責任もまた重い。
(中略)
これからのミャンマーの命運を握るのは大統領と野党、とくにスー・チーさんとの関係でもある。
・・・・両者にとって大きな試金石が間もなく来る。4月1日の連邦議会補欠選挙だ。スー・チーさんは当選確実だが、NLDが全議席(48議席)を獲得しても、現行憲法下では議会の軍・与党優位は揺るがない。

結局は体制に取り込まれるだけとの批判は、NLD内にもあるらしい。スー・チーさんが政治家として力量を問われるのはまさにそこからだ。一方、テイン・セイン大統領も民主化を求める内外の期待と成果との落差に直面したときに、どう乗り越えるか指導者としてやはり正念場である。
「これまで両者は意見の不一致は置き、一致するものから一緒にやってきた。問題は不一致にどう対処するかだ」(外交筋)
 軍を担保する憲法の改正問題一つとっても隔たりは大きい。しかし早晩、同問題は避けられまい。・・・・【1月30日 産経】
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1 コメント

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いいブログですね。 (かたせごろう)
2012-02-03 08:34:23
今朝はじめて拝読しました。
もっと早く見つけるべきだったと思っています。
わたしもブログで、ミャンマー自由化を書きだしました。
シリーズ「幸福な国民」旧題:ブータンの幸福。
昨日は「自由で幸福なミャンマー国民」
一見皮肉にみえますが、今回の大改革はどうも本モノでしょうね。
北朝鮮もいくらか書いています。
ご笑覧くだされば幸甚です。片瀬五郎
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