孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ・エルドアン大統領  イスラム色全開で長期政権を目指す

2014-11-26 22:24:01 | 中東情勢

(トルコの首都アンカラ郊外に新築された大統領公邸で10月29日、写真撮影をするエルドアン大統領 【11月11日号 Newsweek日本版】

【「私たちの宗教(イスラム教)は、女性の地位を母親と定義している」】
トルコのエルドアン大統領の「女性と男性は平等ではない」との発言が話題になっています。

****女性は男性と平等ではない」、トルコ大統領の発言に非難殺到****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は24日、イスタンブールで開催された女性の権利に関する会議の席上で、女性と男性は平等ではないと主張し、同国のフェミニストたちは母親という概念を拒んでいると発言した。これに対し、あからさまな性差別だとして激しい非難の声が上がっている。

敬虔(けいけん)なイスラム教徒である同大統領は、女性と男性の生物学的な違いは、同じ役割を果たすことができないことを意味していると述べ、女性の「繊細な気質」に肉体労働は向かないとも語った。

このエルドアン大統領の発言は、ツイッター上で大論争を巻き起こした。ある有名な女性ニュースキャスターは、ニュース速報の間に発言を非難する異例の対応をとった。

エルドアン大統領は会議で、娘のスメイエさんを含む出席者らに向かって「私たちの宗教(イスラム教)は、(社会における)女性の地位を母親と定義している」と述べた。

同大統領はさらに「自然の法則に背くことになるため」、女性と男性を平等に扱うことはできないと続け、「男女の性格や習慣、体格は異なる。赤ん坊にお乳をあげている母親を、男性と平等の立場に置くことはできない」、「共産主義体制のように、男性と同じ仕事を女性にやらせることはできない。女性たちにシャベルを与え、仕事をしろとは言えない。それは女性の繊細な気質に反する」と語った。【11月25日 AFP】
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エルドアン大統領の発言内容については、「女性に必要なのは、平等であるより対等であることだ」【11月25日 時事】とも。

また、“半国営のアナトリア通信によれば、大統領は一方で「政府は常に平等な権利を求める女性たちを支援してきたし、今後も支援する」と強調した。”【11月26日 CNN】とのことです。

もとより、母性を含めた女性と男性の生物学的な違いから、両者を全く同様に扱うことができないのは言うまでもないことですが、「男性と平等の立場に置くことはできない」といった発言は、どういう文脈・状況・意図でなされるかによって、その意味合いは全く異なります。

基本的に男女が同等の権利を有している状況で、母性保護などの観点からその差異をとりあげるのであれば正論でしょう。

しかし、「私たちの宗教(イスラム教)は、(社会における)女性の地位を母親と定義している」という認識からスタートして、「男性と平等の立場に置くことはできない」というのであれば、女性の社会的役割を著しく限定し、女性は男性に庇護されるべき存在で、社会参加においても制約されるものが多々ある・・・・といった、いわゆるイスラム保守的な女性観を彷彿とさせます。

その極端な形としては、かつてのアフガニスタンでのタリバン政権時代のように、女性は男性親族と同伴でなければ外出することも許されないような社会となります。

いくら「政府は常に平等な権利を求める女性たちを支援してきたし、今後も支援する」と言ってはみても、男女平等に関する基本的な認識が、欧米や日本のそれとは異なると思われます。

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・・・・しかし女性団体8団体は25日、大統領の発言が同国の憲法や国際条約に反するとの共同声明を発表。男女平等を求める女性たちによる過去何十年もの努力を侮辱する内容だと非難した。

活動家らは同日、「女性に対する暴力撤廃の国際デー」に合わせたデモ行進を計画している。

世界各国の男女平等の度合いを比較した世界経済フォーラム(WEF)の「ジェンダー・ギャップ報告」で、トルコは昨年、142カ国中120位と、欧州最下位の評価を受けた。”【11月26日 CNN】
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もっとも、日本のネット世界では、エルドアン大統領の発言を現実的と評価し、男女平等の主張を誹謗するような論調が多いようですから、最近の日本の価値観は私が考えているようなものから大きく変わってきているのかも。

エルドアン大統領の最近の発言としては、新大陸発見に関するものも。

****米大陸「イスラム教徒が発見」=コロンブス説を否定―トルコ大統領****
トルコのエルドアン大統領は15日、イスタンブールで中南米のイスラム指導者らを前に演説し、コロンブスが大西洋を渡って米大陸に到達する300年前、イスラム教徒の船乗りがたどり着いていたとの主張を展開した。地元メディアが伝えた。

エルドアン大統領は「イスラム教徒が1178年に米大陸を発見した。コロンブスはキューバのモスク(イスラム礼拝所)の存在に言及した」などと語り、コロンブスが到達した1492年より前からイスラム教徒と中南米の交流があったとの説を主張した。

この説は、米国のイスラム系団体の歴史家が1996年に論文で、コロンブスの航海日誌に「キューバ東部のヒバラ付近を航海中、山の上にあるモスクを見た」との言及があると指摘したことに基づくとみられる。

ただ、これについては、山の頂上部分の形状を「モスク」に例えて表現したとの見方が有力という。

もっとも、大統領は「イスラム教徒の発見」を固く信じている様子。キューバ政府の許可が得られれば、トルコ政府が山頂部分に新たなモスクを建設する用意があると語った。【11月16日 時事】 
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アラビア商人がヨーロッパにおける大航海時代以前から世界の海を往来していたことは事実ですから、ひょっとして新大陸にも足をのばしたかも。

ただ、“新たなモスクを建設する用意がある”という執着ぶりはいささか異様な感もあります。
キューバのカストロ議長の困惑した顔が目に浮かびます。

新たな豪華公邸で長期政権を狙う
エルドアン大統領は10月29日のトルコ共和国宣言記念日に合わせて、首都アンカラ郊外に新築された大統領公邸を初披露しましたが、その豪華さに批判も出ています。

****大統領公邸、実は700億円=新専用機にも210億円―トルコ****
トルコからの報道によると、シムシェキ財務相は4日の国会答弁で、首都アンカラ郊外に完成したエルドアン大統領の公邸について、建設に要した費用が総額13億7000万トルコ・リラ(約700億円)だと述べた。当初、費用は約378億円と報じられていたが、実際はその倍近いことが判明した。

財務相はまた、新しい大統領専用機(エアバスA330―200型)の購入に210億円かかることも明らかにした。

部屋数1000室のエルドアン氏の新公邸は「ギネス級」の豪華さと評され、野党などは「ぜいたく過ぎる」と批判を強めている。来年には二つの大統領施設の改築も控えており、さらなる支出が見込まれるという。【11月5日 時事】 
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もともとこの建物はダウトオール首相が使う予定だったものを、エルドアン大統領が「横取り」したもので、その贅沢さは“独裁者の象徴”とも【11月11日号 Newsweek日本版】

エルドアン大統領の強い個性やイスラム主義的傾向は今に始まった話ではありませんが、国内においては、世俗主義の守護者としてかつてのトルコ社会の実権を握っていた軍部を完全に抑え込み、公的な場でのスカーフ着用を容認させるなどイスラム主義的な傾向を強めています。

対外的には、ガザ支援船を攻撃したイスラエルを激しく批判した頃からその独自性が顕著となり、ムスリム同胞団への支持から、エジプト・モルシ政権を倒したシシ政権やシリアのアサド政権との対決姿勢をあらわにしています。

シリア・イラクで勢力を広げる「イスラム国」対策で、アメリカにとってはトルコはカギとなる重要な国ですが、アメリカもエルドアン大統領への対応では苦慮しているようです。

****米 トルコに協力要請も不調か****
シリアなどで勢力を拡大するイスラム過激派組織「イスラム国」に対処するため、アメリカのバイデン副大統領が、トルコのエルドアン大統領と、軍事面の協力などについて協議を行いましたが、シリアのアサド政権の打倒がより重要だとするトルコとの根本的な立場の違いは埋まらなかったものとみられます。(中略)

シリアなどで勢力を拡大するイスラム過激派組織「イスラム国」への軍事作戦を巡り、アメリカはNATO=北大西洋条約機構の一員でもあるトルコの協力を求めていますが、トルコ側はシリアのアサド政権の打倒がより重要だなどとして消極的な姿勢を示しています。

また、バイデン副大統領が先月、イスラム国を巡るトルコ政府の対応を批判する発言をし、トルコ側が強く反発したことから今回の訪問はぎくしゃくした関係の修復が目的と受け止められていました。

会談後の記者会見で、バイデン副大統領は「シリアに関しては、イスラム国を打ち負かすだけでなく、アサド政権からの移行を確かなものにすることを話し合った」と述べ、トルコ側に配慮を示しました。

しかし、会談での具体的な合意について言及はなく、双方の根本的な立場の違いは埋まらなかったものとみられ、イスラム国への軍事作戦を続けるアメリカにとっては、トルコの協力を引き出すことが引き続き大きな課題となりそうです。【11月23日 NHK】
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首相から鞍替えしたエルドアン大統領は、憲法を改正して大統領権限を強化し、長期政権を狙っているとのことです。

その強引さから国内でも敵が多いエルドアン大統領ですが、イスラムを重視する国民からの支持は強く、政敵との関係でも修復の動きが見られるとの情報もあるようです。(11月25日 佐々木 良昭氏「中東TODAY」 http://blog.canpan.info/jig/archive/5284より)

エルドアン大統領の意気軒昂ぶりはしばらく続きそうです。
しかし、トルコのEU加盟の可能性は遥か遠くに消えたようです。

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2 コメント

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Unknown (J)
2014-11-26 23:28:11
2015年になろうというこの時代に未だにこんなこと言う奴いるんですね・・・(日本も人ごとじゃないですが)

いってみれば海と山はどちらも違いがあるけどどちらもそれぞれ良さがあるというのと同じようなもので男女の違いってのもそういうもんだと思うんですけどね
どっちが上、下とかいうもんじゃないと思います
そもそもこういう発言する人は女性も同じ人間だって考えがないんでしょうか

まあ、こういう発言する人は差別心からだけでなく既得権益を守りたいっていうのもあるんでしょうね


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Unknown (ふらり)
2014-11-26 23:10:39
男性と女性が違うというのは当然ですが、なぜ違いがある=平等でないとなるのかが意味不明ですね
平等であるということと男女が同じであるということはイコールではなく、男性と女性は違いもあるが、どちらも必要な性でありどちらも尊重されるべきだと思うので。
でもそもそもなぜ性別で優劣をつけたがるのか謎です
なぜ男性の中に男性というだけでそこまで上から目線になれるのかも謎です
男性だから何?と思うので・・・
それこそ女性が女性の方が上だ、男性の方が下だと主張したらどうなるんでしょう

でもそもそも身体の構造以外となると性別以前に人間として共通点も多いんですけどね・・・
特に女性に対しては偏見もまだ多く、誤解されているところも多いような
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