(【5月19日 朝日】)
【中国批判・警戒論に一線を画するドイツ】
新型コロナウイルスへの初動問題をめぐってアメリカ国内では中国への賠償請求賠償の動きがあるのは周知のところですが、ドイツでも同じような主張をドイツ最大のタブロイド紙「ビルト」が掲げています。
****中国がドイツに「報復」、経済的攻防がコロナで激化****
4月15日、欧州でコロナ禍が吹き荒れる中、ドイツ最大のタブロイド紙「ビルト」が社説「私たちへの中国の負債」を掲載して激しく中国を批判した。コロナウイルスが世界中に拡大したのは「中国が全世界を欺いた」からであり、ドイツが受けた経済的損失の約1650億ドル(約18兆1500億円)を、中国は支払うべきだとも要求した。
翌日、中国は「劣悪な要求だ」と反論したが、同紙は一歩も引かず、習近平主席を名指しして、「あなたの友好とは・・・微笑で偽装した帝国主義であり、トロイの木馬なのだ」と、激烈な批判を展開し、激しい舌戦はなおも続いている。
“経済的パートナー”ドイツからの厳しい言葉
メルケル首相も4月20日、「中国がウイルスの発生源について、より透明性を持てば、各国がよりくわしく学ぶことができる」と、控えめながら中国政府に「透明性」を求めた。
習近平主席にとって、メルケル首相の言葉は予想外のものだったろう。というのも、ほんのひと月前の3月22日、習近平主席はドイツに電報を送り、コロナウイルスの感染が拡大中のドイツに慰問の意を表し、「ドイツと共に努力することで両国の全方位的なパートナー関係を深め、中国とヨーロッパの関係発展を促進していきたい」と強調したばかりだったからだ。(中略)
蜜月関係にあるドイツの優良企業が中国企業のM&Aの標的に
(中略)
ドイツで急速に高まった対中警戒感
(中略)
危機感を覚えたドイツ政府はついに「拒否権」を発動した。
(中略)
ドイツへの直接投資を阻止された中国は、なりふり構わず「報復外交」を展開し、留まるところを知らない。両国の経済的攻防はこれからも続いていくのは必定だろう。
コロナ禍を契機に、今、ドイツを含めたEU諸国が一致協力して、中国の脅威に対抗しようと動き出したことこそ、未来への明るい希望である。【5月16日 譚 璐美氏 JBpress】
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ドイツ最大の大衆向け・保守系タブロイド紙の主張ですから、一定にドイツ国民の本音・心情を表している面があるのかもしれませんが、ドイツ全体としてはこうした主張を退ける流れにあります。
****米国には新型コロナで中国に賠償請求する法的根拠はない―独連邦議会報告****
2020年5月20日、仏国際放送局RFIの中国語版サイトは、新型コロナウイルスへの初動問題をめぐって米国内で起きている中国への賠償請求賠償の動きについて、ドイツ連邦議会が「法的根拠なし」との報告を発表したと報じた。
記事は、ドイツの複数のメディアの報道として、ドイツ連邦議会科学サービス事業部が米国による対中賠償の実行可能性について20ページにわたる評価報告をまとめたことを紹介。その中では、「米政府が新型ウイルス危機による経済への影響を理由として中国に賠償を求めるのは実現不可能だ。米政府の要求には法的根拠も理由も不足している」との認識が示されているという。
同事業部の報告書は、「現状では、誰がウイルス感染に責任を負うべきかはっきりしていない。米国が国連安全保障理事会を通して中国に制裁を加えようと考えても、中国が否決権を持っているため不可能だ。
また、一方的に中国に制裁を加えようとすれば、相応の報いを受けることになる。法的手段での制裁も困難だ。なぜなら、米国内の裁判所では他国の主権行為を審理できないことになっているからだ。国際法廷に訴えても、職権不足により裁くことはできない」と指摘しているという。
記事によると、報告の提出を依頼したディーター・デーム連邦議員は「ドイツ政府には、米政府の乱暴な政策に対して断固抵抗する責任がある」と述べたという。
記事は、ドイツ政府が4月末にトランプ米大統領からの対中賠償請求の要求を「政府として、中国への賠償請求問題は存在しないと認識している」と拒否したことを併せて伝えている。【5月20日 レコードチャイナ】
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また、“ドイツを含めたEU諸国が一致協力して、中国の脅威に対抗しようと動き出した”云々についても、確かにそういう声(中国警戒論)も上がってはいますが、下記記事最後にあるように、ドイツはそういう主張とは一線を画してもいます。
****EUで「中国に警戒」の声高まる―中国紙*****
2020年5月18日、環球時報は、欧州連合(EU)の関係者から中国を警戒すべきとの声が出る一方で、ドイツメディアはEUと中国の緊密な協力が必要だとの見解を示したと報じた。
記事は、独紙ヴェルト・アム・ゾンタークの17日付報道として、欧州議会最大会派・欧州人民党のマンフレート・ウェーバー党首が「向こう12カ月間、新型コロナウイルスの影響を受けた欧州企業の中国の投資家による買収を禁止すべきだ」と発言したことを紹介した。
そして、ウェーバー氏が「われわれは、国から多く補助をもらっている中国企業が、新型ウイルスで株価が下落したり経営難に陥ったりしている欧州企業を買収しようとしている。われわれは自らを守らなければならない」と語ったほか、中国について「将来、欧州にとって最大の経済的、社会的、政治的ライバルになる」としたうえで、欧州は中国を世界の大国と見なしリスペクトすべきだとの考えを示す一方で「まずは警戒を保たなければならない」と述べたことを伝えた。
また、EU外務・安全保障政策上級代表のジョセップ・ボレル氏も先日ドイツなどの欧州メディアに寄稿し、中国を「別のガバナンスモデルを推進するシステム上のライバル」と定義したうえで、新型ウイルス発生源の調査を進めるとともに、中国が「その地位にふさわしい態度」を示し、責任をもって感染対策に臨み、ワクチン開発や世界経済再興に参加するよう要求したとしている。
一方で、ドイツのニューステレビ局が17日に「中国はすでに20年前の中国とは違う、世界第2の経済大国であり、欧州は考え方を改めなければならない。一つ間違いないのは、中国とEUが緊密に協力すべきことだ。これは双方ひいては世界全体にメリットがある」と評したことを紹介した。【5月19日 レコードチャイナ】
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【中国よりアメリカに対して高まる不信感】
コロナ禍のなかでドイツ世論で明らかになってきているのは、中国警戒論よりは(ドイツ・メルケル首相も中国に対し透明性を要求はしていますが)、アメリカ・トランプ政権への不信感の方のようです。
****ドイツ人の対米感情、新型コロナ契機に悪化=世論調査****
調査会社、カンター・パブリックがケルバー基金の委託で実施した世論調査で、ドイツ国民の対米感情が、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに悪化していることが分かった。
調査は1000人のドイツ人を対照に実施。その結果、回答者の73%が新型コロナをきっかけに対米感情が悪化したと回答。一方、中国に対する感情が悪化したとの回答は36%だった。
中国に対する感情が改善したとの回答は4人に1人の割合。ただ、中国は危機対応でより透明性を持つことが可能だったとの見方を支持した回答者は71%に上った。
米国との関係を強化したいと考えていた回答者の割合は37%で、昨年9月の前回調査時の50%から大きく低下した。
中国との関係強化を望んだ回答者は36%で、前回の24%から上昇した。
ケルバー基金の国際問題専門家、ノラ・ミューラー氏は「米国に対するドイツ人の懐疑的な見方が高まっている。これは懸念される傾向であり、米独双方の指導者にとって考えさせられる課題だろう」と述べた。【5月19日 ロイター】
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「米国との関係を強化したい」が37%、「中国との関係強化を望んだ」が36%・・・・ほぼ拮抗しています。
かねてよりトランプ大統領とメルケル首相の“そりが合わない”こと、トランプ大統領がドイツのNATO防衛費への負担が少ないことを厳しく批判していることなどは周知のところですが、コロナ禍に対するトランプ大統領の理性を欠いたような言動はドイツ世論のアメリカに対する視線を厳しいものにしているようです。
【「ノルドストリーム2」 アメリカの制裁等で困難に直面 アメリカのガス押し売りも】
コロナ禍を離れて、エネルギー政策・対ロシア政策でもドイツとアメリカの立場は異なります。
ドイツは、何かとトラブルも多いウクライナ経由ではなく、直接ロシアから天然ガスを輸送するパイプラインの建設を進めていますが、「ロシアのエネルギー支配」を批判するトランプ大統領は、完成直前のこのパイプライン「ノルドストリーム2」建設を阻止しようとしています。
ただ、アメリカ・トランプ政権の主張は、「ロシアのエネルギー支配」云々もさることながら、要するに「アメリカの天然ガスを買え」との思惑も透けて見えます。
****ガス輸出、ロシア暗雲 独へのパイプライン工事停止****
ロシアからドイツへ天然ガスを運ぶ海底パイプライン事業「ノルドストリーム2」に、暗雲が立ちこめている。完成を目前にしながら、米国の制裁で昨年末から工事がストップ。
さらにドイツの規制当局が欧州連合(EU)の規制を理由に「待った」をかけた。ロシアへの安全保障上の懸念から、欧州各国の対応も割れる。
■米が制裁、独当局も「待った」
(中略)ノルドストリーム2は2018年に敷設工事が始まった。バルト海海底に約1200キロの2本のパイプラインを新たに敷き、すでにある「ノルドストリーム」とあわせて、ロシアからドイツへの天然ガス輸送量を年間1100億立方メートルへ倍増させる計画だ。ガスは欧州各国に供給される。
だが、「ロシアのエネルギー支配」を批判する米国のトランプ大統領は昨年12月末、工事への参加業者を対象とする制裁法案に署名した。
最後に残ったデンマーク領ボーンホルム島の南の工区に同国政府の許可が下り、今年初めの完成にやっとめどが立った矢先だった。工事を担った「オールシーズ」社(本社スイス)は撤退に追い込まれた。
残る区間は84キロ。ガスプロムは、代わりに作業させるため、ユーラシア大陸の反対側にいた自社の(パイプライン敷設作業船)「アカデミック」号を向かわせるしかなかったとみられる。
だが、その到着を待っていたかのように次の難題が計画を襲った。パイプラインの独占的運用を防ぐEUの規制をめぐり、ドイツの規制官庁が15日、適用除外を求めるガスプロム側の申請を却下したのだ。
EUは昨春、パイプラインに関する規制を改正。ドイツも昨秋、国内法に組み入れた。新規パイプラインは所有者とガスを供給する業者を分離し、第三者の利用が認められなければならないとした。ガスプロムのガスを運ぶノルドストリーム2は子会社が所有しており、輸送量は半分に制限される。
独フランクフルター・アルゲマイネ紙は「完成しても採算がとれるまでには15年かかる」と報じた。
ガスプロム側は「工事途中での規制の改正はノルドストリーム2に対する狙いうちだ」と反発する。EU規制の改正時点で半分以上工事が終わり、総事業費95億ユーロ(約1兆1千億円)の投資も50%以上が実行済みだったためだ。早期に提訴に踏み切るとみられる。
■欧州市場巡り各国思惑交錯
欧州では長年、ノルドストリーム2をめぐって「ロシアがエネルギーを政治の道具に使うのを許す」との批判がつきまとってきた。
ロシアの狙いはガスの主要な輸送ルートから政治的に対立するウクライナを外すことにあるとされ、ロシアを脅威とみるポーランドやバルト3国は計画に反対する。工事を許可した通過国でも議論を二分してきた。
一方、事業費の半分は欧州のエネルギー大手5社が負担し、産業界の期待は強い。間に挟まれたドイツのメルケル首相は「事業は民間のビジネスだ」と主張。
米国が制裁を発動した際も、マース外相が「欧州のエネルギー政策は米国ではなく、欧州が決める」と述べ、事業に協力する姿勢を変えていなかった。
ところが、足元の規制官庁が事業の推進に待ったをかける形となったことで、ドイツ政府としてこれまでのように協力し続けられるのか、さらに難しい立場に追い込まれた。
問題を複雑にしているのは、米国が制裁と欧州へのシェールガス輸出拡大を露骨に絡ませていることだ。
米国務省は昨年末の制裁発動時の声明でこう主張した。「米国のLNG(液化天然ガス)を買えば、欧州は80億ドル(約8600億円)節約できる」
米国はバルト海に面するポーランドやバルト3国のLNG受け入れターミナルから東欧各国にガスを供給する構想を持つ。ロシアへの対抗策だ。
ポンペオ米国務長官は2月、ドイツ南部ミュンヘンで開かれた安全保障会議で「ロシアは『純粋な経済活動』と言うが、だまされてはならない」とノルドストリーム2を激しく批判。その一方で、米国の構想に参加する国々に新たに10億ドルを投資すると発表した。
米国の構想の中心となるポーランド政府は「非ロシア系ガス」のハブを目指す姿勢が鮮明だ。ドゥダ大統領は今月4日、政府系エネルギー会社がイタリア大手との間で、ノルウェーからバルト海の同国沿岸までガスパイプラインを建設する契約を結んだと発表した。【5月19日 朝日】
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ロシア・サハリンで日本が進める天然ガス事業が、ロシア側の一方的・政治的な要求・変更で振り回されるという話がありますが、「ノルドストリーム2」に関してはロシアが同じような立場に置かれているようにも見えます。
残り数十kmの段階での制裁や規制は、ロシア側からすれば“理不尽な横やり”と思えるでしょう。(批判する側、規制する側からすれば、警告に従わず勝手に建設を進めたからだ・・・という話でしょうが)
ドイツとしてもこの段階で、「アメリカのガスを買え」と言われても困ります。
ウクライナ経由のトラブルに関しては「ロシアがエネルギーを政治の道具に使う」との見方がありますが、ウクライナが代金を払わないことに伴う経済的トラブルに過ぎないとの指摘も。
ドイツとしても、そういう不安定なウクライナを避けて・・・ということだったのですが。
トランプ政権の安全保障面からの批判に、メルケル首相はパイプライン建設は「経済事業」との立場です。
ましてや、完成目前のパイプライン建設を放棄して自国のガスを買えと要求されても・・・。
ドイツとアメリカの溝を更に深めることになりそうです。
今年初めの段階では、アメリカの制裁発動に対し、プーチン大統領は「年末か来年の第1四半期に稼働できるだろう」と楽観的な見方を示していましたが、ドイツの規制官庁の厳しい対応も加わって・・・どうなるのでしょうか?
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