孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  総選挙に勝利した前進党・ピタ党首は首相になれるのか? その前途は多難

2023-07-03 22:58:37 | 東南アジア

(連立政権を目指す覚書に調印し握手する「前進党」など8党の党首ら(2023年5月)【5月30日 NHK】
前列、左から4人目が前進党・ピタ党首)

【前進党・ピタ党首にタイ政治「新たな始まり」の可能性も】
周知のように、5月14日に行われたタイ総選挙では、王制改革や徴兵制廃止を掲げる前進党(ピタ党首)が選挙直前に若者らを中心に急速に支持を伸ばし、それまで勝利が確信されていたタクシン元首相系の貢献党を抑えて下院(500議席)の第1党の座を獲得しました。

なお、親軍勢力の与党は予想どおり大きな議席を獲得することはできませんでした。

この結果、今月13日に予定されている首相指名選は前進党・ピタ党首を軸に調整が行われてきました。

しかし、第1党の前進党(152議席)と第2党の貢献党(141議席)、更にはその他野党勢力を合わせても、軍の意向に沿うことが予想されている上院(250議席)を含めた議員総数(750議席)の過半数に足りていません。

****タイ 野党8党が連立覚書締結 政権奪取狙う****
タイの下院総選挙で第1党となった野党「前進党」が政権交代を見据え、他の野党との連立について正式に覚書を交わしました。

前進党は22日、選挙で第2党となったタイ貢献党を含む野党8党での連立について、正式に覚書を締結したと発表しました。

覚書では、経済格差の是正や強制的な徴兵制の原則廃止など、23の項目で各党が合意しています。

ただ、選挙戦で前進党が訴えていた王室への侮辱行為を罰する「不敬罪」の改正については合意項目には盛り込まれませんでした。

前進党ピタ党首:「(不敬罪改正について)国会に持ち込まれれば議論が進むだろう」

前進党は不敬罪の改正を国会で議論するとしていますが、連立を模索する各党での立場も異なるため実現の可能性は低く、支持者の一部からは失望の声が上がっています。

また、今回の野党の連立により下院では過半数を超える見込みですが、首相の選出には上院議員による投票も含まれることから、政権交代が実現するかどうかは依然、不透明な状況です。【5月22日 テレ朝news】
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(不安要素はいったん脇に置いて)最初に「可能性」の話をすれば、もし前進党のピタ党首が首相に指名されることになれば、これまでタブーとされてきた王制改革や軍部の抵抗が予想される徴兵制廃止なども国会での議論が行われ、タイ政治の大きな変革の可能性になります。

*****タイ総選挙で躍進 ピタ党首ってどんな人?「新たな始まり」とは?****
「タイの人々が未来に向かうことを求めた結果だ」
(中略)タイ「前進党」ピタ・リムジャラーンラット党首政治家になる前、実業家としてたびたび日本を訪れ、日本語も少し話せるというピタ氏。NHKとのインタビューでも冒頭、日本語で自己紹介をしてその場を和ませるなど、柔らかな物腰、笑顔が印象的です。

(中略)現地では地元メディアが連日、ピタ氏がどこで何をしたか、何を言ったのかなど、一挙手一投足を伝える「ピタフィーバー」と呼ばれる現象まで起きています。

1980年生まれの42歳という若さで、大方の予想を覆して第一党に躍進した「前進党」を率いるピタ氏はいま、「民主化のシンボル」として注目を集めています。

ハーバード大卒で実業家に そして政界へ
ピタ氏はタイの大学を卒業した後、アメリカのハーバード大学とマサチューセッツ工科大学で修士号を取得。
父親の急死にともない25歳の時に、父親が立ち上げた米油などを手がける会社の経営を引き継ぎました。その後事業を成長させ、若手実業家として注目を集めます。

前回、2019年の総選挙で、軍政からの脱却などを掲げ新党ながら第3党に躍進した「新未来党」の候補として初当選し下院議員に。

翌年、プラユット政権下で「新未来党」が解党され、党幹部の政治活動が禁止されると、ピタ氏が中心となって新未来党に所属していた議員とともに、後継となる「前進党」を立ち上げて党首に就任しました。

今回の総選挙で下院500議席のうち151議席を獲得し、「前進党」を第一党に躍進させたピタ氏に、首相就任に向けた戦略や王制改革、徴兵制の廃止といった公約をどう実現するのか、話を聞きました。

※以下、ピタ氏の話。
「前進党」躍進の理由は何か?
今回の選挙結果は、タイの人々が「過去に戻るのではなく、未来に向かうことを望む」と声を上げた結果です。
支持者と握手するピタ氏(2023年5月)(クーデター以降の)9年間、タイでは経済、政治がさまざまな理由で混乱してきました。このことが変化をもたらす要因になったのです。

政府と国民、議会と国民との間にほとんどつながりがありませんでした。コロナ禍での政策は、公衆衛生の面で迅速で十分な対応ができなかったことを明確に示しました。

そして労働改革、教育改革、環境改革を含む多くの先進的な法案を提出しても、軍の影響力の強い議会を通りませんでした。

さらに、平等をもたらすはずの「法の支配」が機能していないのです。(中略)

不敬罪については、議会の場で議論し改正する必要があります。
法律を提出するのには議員20人が必要ですが、前進党は150人あまりの議員がいて、自分たちだけで提出することができるのです。

私たちはこれまで王室と国民の関係、特に新しい世代との関係をどうよりよいものにするかについて真摯しんしに考えてきました。

21世紀の現代において、王室の地位や権威を、ほかの立憲君主制の国々と比較してどのように位置づけるかです。
タイの王宮(バンコク)これまでほぼ間違いなくできなかった議論を、このように話すことができるようになっています。すでに進歩しているとはいえます。

徴兵制の見直しについてはどうか?
徴兵制の見直しを含む軍改革により、より新しい課題に予算を振り向けたいです。パンデミックや気候変動の影響、高齢化など、私たちは新たな脅威に直面しています。

タイが防衛力をもつことは非常に重要だと思います。ただ、大規模な兵力をもてば、国の安全保障を向上させられるというわけではありません。国防を国内経済に転換するということです。(中略)

このインタビューのあと、連立相手の「タイ貢献党」との対立が報じられ、「連立の枠組みが崩れるのでは」との臆測も流れるなど、今、民主派政権の樹立には暗雲が立ちこめつつあるのも事実です。

多くの国民の支持を受けて第一党に躍進した「前進党」、その党首のピタ氏がタイを率いるリーダーとなり「新たな始まりの時」を迎えられるのか。タイ政治の今後を大きく左右するものとなりそうです。【5月30日 NHK】
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外交的には、現在のタイ・プラユット政権は軍部出身ということでミャンマー・軍事政権にも宥和的ですが、前進党主導の政権になれば、ミャンマーに対し厳しい姿勢に変化することも予想されます。

【難航する上下両院での「過半数確保」 軍の意向を受ける選管からのピタ党首に対する選挙違反疑惑も足かせ】
いずれにせよ、まず最初のハードルは上下両院750議席の過半数をどうやって獲得するのか(過半数まで野党8党を合計しても64議席足りません)・・・軍によって選任された上院をどこまで切り崩すことができるのかという問題。

当然ながら、ピタ党首は自信を示していますが・・・

****MFPピタ党首、上院からの首相指名に自信 投票は来月中旬****
昨日の2023年6月27日、タイのMFP(Moving Forward Party)党のピタ党首は、同党から下院議員に選出された150名の議員とともにタイメディアの取材に答え、来月中旬に予定されているタイの次期首相指名でタイの上院(定員250)からも十分な得票が得られ、首相指名がされる見込みについて自信を表明しました。
タイの全国ニュースを伝えるTPN National Newsが伝えています。

タイのMFP党のピタ党首は、現在は8政党での連立となっており、この後は来月中旬に予定されているタイの次期首相指名で第30代のタイ首相に選出されることに自信を語りました。

このピタ党首のコメントは、タイの上院議員の一部が、上院250人のうち5人しかピタ党首には投票しないだろうとコメントした事が伝えられた後に、発されたものです。

現在、MFP党(前進党)などを中心とする野党の連立は8政党、タイ下院(定員500)のうち312人となっています。
タイの首相指名は、タイ上院250名と下院500名の合計750名で投票されるため、この過半数の376名の投票を得なければいけませんが、これにはまだ64票の議員票が足りません。(後略)【6月28日 PJA NEWS)】
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ピタ党首への支持が広がらない背景には、(軍の意向を反映する)選挙管理員会がピタ党首の選挙違反疑惑を問題視していることもあります。

躍進した野党勢力や対立する政党を、挙管理委員会や裁判所を使って法律・規則違反の難くせ・言いがかりをつけて追い落とすのは、タイ保守勢力の常套手段であり、また今回も・・・という事態が懸念されています。

****タイ総選挙から1カ月…「新政権樹立」は不透明 広がらない連立支持、第1党ピター党首の選挙違反疑惑も****
5月14日に投開票されたタイ下院総選挙から1カ月が過ぎた。第1党となった革新系の前進党は新政権樹立に向けて連立協議や政策の擦り合わせを進めるが、親軍派が多い上院議員への支持は広がらず、ピター党首の首相就任に必要な議席を確保するメドは立っていない。ピター氏のメディア企業の株式保有を巡る選挙違反疑惑もくすぶり、不透明感が強まっている。(中略)

◆ピター氏の疑惑は「投票回避の口実になる」
また、選管はピター氏の選挙違反疑惑も調査中だ。

ピター氏は総選挙時、活動休止中の放送局「iTV」の株式4万2000株を保有していた。

下院議員選挙法の第42条は、メディア企業の株式を持つ候補者の立候補を禁止。第151条は、選挙に立候補する資格がないことを知りながら出馬した場合、10年以下の禁錮と20万バーツ(約82万円)以下の罰金が科せられ、選挙権を20年間剝奪すると規定している。

ピター氏は総選挙後に親族に株式を譲渡している。

首相指名選は下院議員500人のほか、軍政下で任命された上院議員250人が投票する。前進党は少なくとも40人の上院議員の支持を得られると説明しているが、過半数の376議席には届いていない。

専門家は「(選管の調査は)上院議員がピターへの投票を回避するための口実になる」と指摘し、支持を呼びかける上で障害になるとの見方を示した。【6月17日 東京】
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中央選挙管理委員会は現段階では最終判断を保留しています。

****ピタ党首のメディア株保有問題 選管「証拠・証言が不足している」****
総選挙で最多議席を獲得した前進党のピタ党首が法に反してメディア株を保有したまま総選挙に立候補したとされる問題で、中央選挙管理委員会はこのほど、最終的な判断を下すにはまだ証拠、証言が不足しているとの見解を明らかにした。

問題のメディア株はピタ党首の亡父が所有していたものだが、同党首は父の死去に伴い遺言執行人になったに過ぎず、株は相続していないと主張している。 また、メディア株とはテレビ局の運営などを行っていたiTV社の株のことだが、同社は休眠状態とされ、「iTV株はメディア株とは見なせない」といった指摘も出ている。【6月21日 バンコク週報】
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今この段階で「違反」としてピタ党首を排除すれば国際的にも批判を浴びますので、敢えてそういう方法はとらず、「いつでも違反にすることができるぞ!」とピタ党首に圧力をかけ続け、同氏・前進党の今後の行動に制約を課す狙い・・・でしょうか。選管からは「下衆の勘繰りだ」と怒られそうですが。

【不安定なタイ貢献党との協調関係】
第2党である貢献党との関係も、今後の不安材料のひとつ。

最初の首相指名選でピタ党首が過半数を取れない場合、多数派工作をいろいろ行って、2回目の首相指名選挙に挑むことになりますが、貢献党は2回目では自党のペートンタン氏(タクシン元首相の次女)を首相候補とすることを提案する可能性があります。

その場合、野党8党の連立協議は破綻し、タクシン系の貢献党と親軍政党の連立が模索される可能性もあります。

タクシン系の貢献党と親軍政党の連立・・・・以前では考えられない旧敵同士の組み合わせですが、王制改革などの議論からすれば、両者ともに既存政治の枠内にある存在で、枠外から突如台頭した前進党よりも体質的には近いものがある・・・かも。

日本メディアによれば前進党と貢献党は下院議長の選出でも協議を続けていますが、結着していません。(タイ地元メディアでは、6月中旬に“下院の正議長1人を前進党、副議長2人をタイ貢献党から出すことで意見が一致した”という報道がありましたが・・・)

貢献党は「首相を前進党から出すなら、下院議長は第2党の貢献党から」と主張していますが、前進党としても、今後の議会運営(王制改革・不敬罪廃止などの審議)を現実のものにするためには下院議長ポストが欲しい・・・という話のようです。

仮に政権を取得出来ても、貢献党とうまくやっていけるのか、軍部の抵抗があるのでは(極端な場合、クーデター)という不安がつきまといますし、激しく軍の意向に背くと選管が「選挙違反問題」を持ちだしてピタ氏を排除するということも・・・。

なんだかんだで、多くの波乱含みですが、先ずは7月13日の首相指名選挙がどうなるのか、それを受けて、前進党・ピタ党首、貢献党、親軍勢力がどう動くのか・・・注目されます。

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