BE HAPPY!

大山加奈選手、岩隈久志選手、ライコネン選手、浅田真央選手、阪神タイガース他好きなものがいっぱい。幸せ気分を発信したいな

ビューティフル・ウェポン(1)

2007-01-19 01:06:27 | Angel ☆ knight



 ブーメラン型のシャンパンゴールドの台座に、夕暮時の青紫の大気を結晶させたようなリラ・ストーンがはめこまれたティアラを、エルシードは最後に髪に飾った。
ティアラは、彼女の漆黒の髪にも、褐色の肌にも、光沢のあるパールホワイトのドレスにもよく映えた。
ティアラの製作者は石の色と同じ名前を持つリラというデザイナーだ。内臓が次々に腐るという奇病に冒され、生命維持装置付きの病室から一歩も出られない生活の中で、次々と美しいアクセサリーを生み出している。彼女が以前勤めていた店にリラのコーナーができたというので、エルシードは同僚のエンジェルに誘われて店を訪れた。そこで心惹かれたのが、このティアラだった。リラ・ストーンは人造石なので価格は手ごろである。迷わず購入したが、初めて身につけるのが任務の夜だとは。
パーティー会場に入ると、エンジェルが声をかけてきた。
「それ、つけたのね。よく似合ってるわ」
「エンジェルもだな」 エルシードは言った。
エンジェルは、あの時一緒に買った薄紫のオーガンジーのストールを巻いている。ストールには小粒のリラ・ストーンが一面にちりばめられていた。
今夜の任務は、パーティーの主催者であるエスペラント市長の警護である。政策がリベラルなので、これまでにも何度かテロの標的になった。彼が無名の田舎町の首長ならさほど問題ではないのかもしれないが、「世界の首都」と呼ばれるエスペラント・シティでドラスティックな改革を行えば波紋は必至である。今夜のパーティーはマイノリティー救済のためのチャリティーなので、極右の過激派『トライデント』から「中止か、死か、どちらかを選べ」と脅迫状が届いていた。おそらく、市長が壇上でスピーチを行う時を狙ってくるのだろう。
招待客に紛れて会場に入ったエルシードとエンジェルは、さりげなくスピーチの準備が整った演壇に近づいた。

 エルシードは、刑事局では「エル姫」「飛ばし屋エル」と渾名されている。前者は、エルシードが今は滅びた砂漠の王家の血をひいているという噂から、後者は、彼女のドライビングテクニックを評してつけられた。分秒を争う緊急事態が生じても、「飛ばし屋エル」なら必ず間に合うように駆けつけてくれる。彼女のおかげで人命が救われたことは数知れず、エルシードは何度も表彰された。「すべての乗り物は姫のしもべさ」
だが、彼女にはもう一つ特技があった。

 マッハは数キロ離れたビルの屋上から、スピーチを行う市長に狙いをつけた。
この距離からだと、発砲音よりも着弾の方が先になる。マッハという異名は、弾丸が音速を追い越す距離から正確に獲物をしとめられる腕を称えてつけられたものだ。
劣った者共のために税金を無駄遣いする市長に死を。
引き金を引き絞ろうとした瞬間、右腕に衝撃を受けて、マッハは銃を取り落とした。本能的に身を翻し、走り出した瞬間、今度は脚に焼け付くような痛みが走った。
コンクリートの床にはいつくばったマッハの耳に、乾いた銃声が届いた。

 マッハの腕と脚を撃ち抜いても、ダンテはまだ引き金に指をかけたままだった。スコープ越しに、駆けつけた警官隊がマッハを捕らえるのを見届けてから、ようやく彼は銃を下げた。
「噂にたがわず素晴らしい腕ですね」
傍らで双眼鏡を覗いていたナイトが言った。
二人は市長邸の屋根の上にいた。マッハにこちらの姿を見つけられないよう、ぎりぎりまで煙突の陰に身を潜め、マッハが市長に狙いをつけてから、素早く銃を構えて正確に手と足に命中させた。彼我の距離を考えれば、驚くべき技術だった。
「奴があのビルから撃ってくることが予めわかっていたからな。警察の情報網ってのはたいしたもんだ」
ダンテは銃を片付けながら言った。
「今回の依頼は、あんたの差し金か?」
「市長の意向です」
「それにしちゃできすぎじゃないか。依頼料が200万ていうのは」
ダンテはリラの恋人である。多額の治療費を支払うために、警察を辞めて殺し屋になった。200万は、ちょうどリラの一か月分の治療費だった。
「200万プラス実費。実費は全て領収書を出せとよ。お役所らしくて、泣けてきたぜ」
「それでも、受けてくれたんですね」
前回ダンテが受けた仕事の料金は、前金400万、成功報酬800万という契約だった。成功報酬の方は、ナイトがターゲットを逮捕してしまったため手に入らなかったが、前金だけでも今回の倍である。
「警察がバックアップしてくれる上に逃げる算段をしなくてすむ仕事というのは貴重だからな。まあ、多少の水増し請求はさせて貰うか」

担架に縛り付けられて病院に搬送されるマッハの顔は屈辱に歪んでいた。
あの距離から正確にターゲットを狙える人間など、自分以外にいないと思っていた。あの射手は誰だ。知りたい。その思いが、歯にしこんだ毒薬のカプセルを噛み砕くことを思いとどまらせた。
それに、今夜の計画はこれで終わりではない。『トライデント』という組織名はポセイドンの三つ又の槍からとられている。第一陣が失敗しても、二陣、三陣が繰り出される。その名の通り、『トライデント』の作戦は三本仕立てなのだ。
マッハの顔に歪んだ笑みが浮かんだ。


 「『トライデント』は、どうやら二番手、三番手の刺客を用意しているようです。次はどこから、どんな方法で市長を狙ってくるのでしょう。そして、刑事特捜班は市長暗殺を阻止できるのでしょうか。つ・づ・く」