AMASHINと戦慄

~STARLESS & AMASHIN BLOG~
日々ブログレッシヴに生きる

「和嶋さん、何してるんですか?!」

2017年03月06日 | 本わか図書室
サンマルクカフェで読み始めた、人間椅子のギタリスト和嶋慎治氏の初の自伝本『屈折くん』をドトールコーヒーにて読了。
最新DVD映像付ライブアルバムはいまだ購入してない。いや、もう近年のライブ映像は、『疾風怒濤』以来、アルバム特典含めてけっこういっぱい出てるし、今回は購買意欲が全くそそられなかった。

それよりも!同時発売の和嶋慎治氏の初の著書の方がはるかに興味深かった。

メジャーデビューした時から人間椅子には深く関わってきたつもりだったが、なんせ当時などメディアでの露出も皆無に近く、ネットも普及してなかったし周りに人間椅子ファンもいない。ライブはここ最近までだいたいひとりで観にいっていて、会場くらいでしか人間椅子の近況は本人らの口からでしか得られなかったのだ。

一時期、人間椅子の公式ファンクラブにも入会してたけど、一年も経たぬ内に会費を振り込まなくなっていつの間にか退会処分になったし、家にある人間椅子にまつわる資料と言えば、『遺言状放送』VHS版に付属していたメンバーたちが完全にふざけて作った『大世紀末予言』(妄想と科学出版)という冊子くらいだった。




まぁ作品は購入していたものの、8年間くらい彼らのライブに足を運ばなかった時期もあったし。
だから以前からこういう本をずっと待ち望んでいたのだ。


内容はざっと帯の通り。上の方に写ってる写真は、もちろん高校時代の鈴木研一氏。


巻末には、みうらじゅん、そして2013年にキング・オブ・コントで優勝した青森県出身の漫才師シソンヌじろうらとの対談も掲載されている。
西條秀樹との食事に同席したエピソードは必読。


一応文筆家を目指していたサブカル系ミュージシャンが出す自伝本だから、さぞ楽しい内容だろうと思っていたが、わりと真面目な話が多くて、大槻ケンヂの著書のようなあることないことおもしろおかしく脚色してるタイプとはまた違う。
ま、そこは和嶋氏の人柄がそのまま出たということなんだろう。

陰気で淡いムードの幼少期から、読書と音楽漬けの学生時代話にけっこうページが割かれていて、人間椅子でのバンド活動のことはわりとサラっと流されてたような気がした。
まぁ四半世紀のバンド活動のことを語りつくそうと思ったら膨大なページ数になってしまうからどうしようもないとは思うのだが、マンガ『無限の住人』のイメージアルバムを作者本人から直々依頼された時の話などをもっと詳しく語ってほしかった。

ところで人間椅子には、「胎内巡り」、「涅槃桜」、「阿呆陀羅経」など、仏教的な楽曲が多く見受けられるが、それはなにも和製バンドのイメージに合わせてただいたずらにそういった楽曲が作られたわけではないと言うことが、和嶋氏のこの自伝本を読むとよくわかる。
何を隠そう、和嶋氏は駒澤大学の仏教学部仏教学科出身、そこの「仏教青年会」というサークルにも所属していた。
まぁそのサークルの実態は、ユーロロック研究会の様相を呈していたという話だが、やっぱ仏教の持つスピリチュアルな部分と、ユーロロックの不可思議な音像が、そのサークルに集う者の精神的な嗜好とピタリと当てはまるものがあったのだろう。
しかも和嶋氏は在学中、参禅部の門を叩き禅を組むという精神修行にも打ち込み、かなりの境地にまで達したという。
人間椅子が他の和製ロックバンドとは一線を画しており、歌詞の内容が格調高いのは、まさにこういった和嶋氏の経歴にあるのだ。

そう、人間椅子はダテじゃない!

座禅を組む和嶋氏。本書巻頭に掲載。



私の大好きだった時期の人間椅子の、デビュー~マスヒロ氏在籍時あたりのことは『暗黒編』として語られているが、その時期は安アパートで極貧生活を強いられながら情熱だけでなんとかギリギリバンド活動を維持してたなんてことは、その当時の私は知る由もなく、気が向いたらライブ会場に足を運んでは「相変わらず客少ないなぁ~、まぁだから椅子のライブはアットホームでゆったり見れて楽しいんやけどね」なんてお気楽にライブを見てたのが申し訳ない。

初代ドラマーの上館氏との決別のくだりはなんだか寂しいものを感じた。私はてっきり上館氏自ら身を退いたとばかり思っていたが、まさかのクビ宣告だったとはねぇ。
まぁ同級同郷の2人と彼らより5歳上だった上館氏とは、かなり距離感があるのではないかと端から見てても感じてはいたが、人間椅子もけっこう非情なところがあるんだなぁと。彼はまだ続ける意思はあったんだと思う。
上館氏のドラミングは人間椅子のストーナーな音楽性にめちゃくちゃフィットしてて好きだったんだけどなぁ、『遺言状放送』のライブ映像見ててもほんといいドラマーだったって思う。

和嶋氏が家庭の事情で弘前市に帰郷していた時期のくだりはなかなか興味深かった。
地元のMAG-NETというライブハウスで、仕事を手伝ったり「人間椅子倶楽部」というユル~いテレビ番組をやったり、金は儲からぬが色んなバンドの名曲をカヴァー演奏したりしておもしろいことを気ままに?やってて楽しそうだ。

『人間椅子倶楽部』


後藤マスヒロ氏という凄腕のプログレドラマーを獲得し、そのライブハウスのスタジオで、プロデューサー不在の素人同然のスタッフたちだけで自主制作に近いアルバムを作ったという。
本書には何のアルバムか書かれてなかったが、この青森産アルバムこそ、中期の大傑作『退廃芸術展』であろう(販売元はテイチク)。



バンドブームが過ぎ去りメジャーからドロップアウトされインディーズに落ちて以降も、『踊る一寸法師』、『無限の住人』、そして『退廃芸術展』と、この時期人間椅子は実に実験性に溢れた素晴らしい作品を立て続けに発表している。まさに豊作の時期だったといっていい。
これは少年誌で人気が急落し、虫プロが倒産してしまった暗黒時代と言われた時期(68~72年)に、『きりひと賛歌』、『奇子』、『鳥人体系』などの傑作を立て続けに発表してた手塚治虫の経緯と実に似通ったところがある。


後半はひたすらバンド活動を続けながら様々なアルバイトに勤しむここ最近までの極貧生活の苦労話がほとんどで、そういった生活の中で達観した人生観や、人との繋がり、いや、もっというと、この世の万物との不思議な繋がりみたいなスケールのデカい話にまで発達していき、事あるごとに「私は大声をあげて泣いてしまった」というフレーズでしめくくられるのには、なんかの宗教本、自己啓発本を読んでるかのような感覚に陥ってしまい、聖人様の説法を聞いているようでなかなかしんどいものがあった。

まぁでも、ブレイク寸前まで住んでた安アパートの大家さんとのハートウォーミングな話や、部屋に出没するねずみたちとの愛憎もつれる奮闘記など、和嶋氏の生き様は実にドラマティックに満ち溢れていておもしろい。

で、下の写真は本書の巻頭に掲載されている写真だが、これは単なるプロモ写真ではない。


和嶋氏は2013年のオズフェス出演が決まるまで、実はこの公園の木の下でギターの練習、作曲を行っていたのだという。
それは、なにも大自然に囲まれている方がインスピレーションが沸くとか、カッコつけていたわけではなく、アパートの壁が薄いため部屋でギターを弾くと隣の住民から必ず苦情の反応が返ってきたからなのだ。
ももくろの楽曲のギターを依頼されたときも、この公園でフレーズを考えたという。
あれだけの素晴らしいギターテクと楽曲を作るプロミュージシャンなのに、最近までこんなさすらいの音楽活動を続けていたのだワジーは!(泣)


あと、本書には「和嶋さん、何してるんですか?!」というフレーズが文中に3回出てくる。
そこに和嶋氏のその時その時の心境が見てとれるので、是非本書を購読して確認していただきたい。


しかし、意外と鈴木氏との絡みエピソードが少なかったなぁ。
やっぱプライベートでは昔からある程度距離を置いての付き合いなんだろうな。
だからずっと一緒にやってこれたんだと思う。
今度は鈴木氏の自伝本に期待(出さんやろうけど)。
『鈴木研一 デビュー前ドキュメンタリー』



今日の1曲:『羽根物人生』/ 人間椅子
コメント (4)
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