「ゲン」英訳者の講演中止東京の中学校長「近ごろの事情」(2013.10.5 毎日新聞夕刊)
広島での被爆体験を描いた故・中沢啓治さんの漫画「はだしのゲン」の英訳出版に尽力した米国人翻訳家、アラン・グリースンさん(62)=東京都杉並区=による生徒への講演を4日に予定していた同区立井荻中学校(赤荻千恵子校長)が、前日に急きょ中止したことが分かった。講演は別の講師に差し替えて行われた。グリスーンさんは「『近ごろの事情』などと曖昧な説明を受けたが、圧力や自己検閲があったのか」と話している。
講演は「いのちの教育」と題し、「いのちについての考えを深め、自他のいのちを尊重する心を養う」のが目的だった。
グリスーンさんは1977年から、複数の中沢さんの漫画作品の翻訳と米英での出版に尽力。2009年には、金沢市の主婦らによるグループが米国でゲン10巻を完訳出版した際も監修した。原爆関連では、広島県立広島第一高等女学校の生存者による文集「平和への祈り」英語版の翻訳・編集も担当した。
赤荻校長はグリースさんに電話やメールで、「はだしのゲンの英訳を通して伝えたかったこと▽心に残った言葉▽言葉選びで工夫した点――などを要望。グリスーンさんは全校生徒約350人に約40分話す予定だった。グリスーンさんによると、講演依頼は約2カ月前にあり、準備を進めていたが、3日夕方に赤荻校長から電話で「中止する」と告げられたという。
グリスーンさんは「事務所近くの中学校の依頼だったので、光栄に思い引き受けた。松江市教委の閉架問題の影響なども聞いたが、校長は『社会の流れ』『近ごろの事情』『内部の決定』としか説明しない」と憤る。
取材に対し、赤荻校長は「都教委や区教委には相談していない。自分の判断」とした上で、「『はだしのゲン』は読んだことがない。生徒も勉強していないので興味が持てないと考えた。『はだしのゲン』に特化しないでほしいと伝えたら、断られた」と話した。
4日は元小学校校長による「ことばの教育」に差し替え、「いのちに関する詩」を取り上げた。
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どう見ても赤荻校長の説明は納得できませんね。講演を依頼した時に電話やメールでグリスーンさんに言ったことと、講演中止を決めた理由についての記者に対する説明は全く繋がりません。都教委や区教委からの指導(介入)があったのかどうかは今の段階ではわかりませんが、校長の言う「近ごろの事情」としては、安倍内閣になってから教育に対する政冶の支配が強まっているということがあります。教育長の権限を強め、教育委員会を諮問機関化しようとする動きや、沖縄・武富町教育委員会が八重山採択地区協議会が選んだ保守色の強い育鵬社の中学校公民教科書の採択過程に異議があるとして東京書籍の教科書を生徒に配布したことに対し、文部科学省が育鵬社の教科書を使うよう地方自治法に基づく是正要求を出すことを決めたり、東京都教委が学校の式典で教職員が君が代をちゃんと歌っているかどうか口元をしっかり監視しろという指示を出したということがあります。
松江市教委がはだしのゲンを学校図書室に開架しないことを一旦決めたのは自己規制ですが、講演中止も自己規制したと見るべきでしょう。教育の場で自己規制が広がることは「いつか来た道」に戻ることです。教育の反動化に今声を上げなければ!というのが「近ごろの事情」です。
大西 五郎
広島での被爆体験を描いた故・中沢啓治さんの漫画「はだしのゲン」の英訳出版に尽力した米国人翻訳家、アラン・グリースンさん(62)=東京都杉並区=による生徒への講演を4日に予定していた同区立井荻中学校(赤荻千恵子校長)が、前日に急きょ中止したことが分かった。講演は別の講師に差し替えて行われた。グリスーンさんは「『近ごろの事情』などと曖昧な説明を受けたが、圧力や自己検閲があったのか」と話している。
講演は「いのちの教育」と題し、「いのちについての考えを深め、自他のいのちを尊重する心を養う」のが目的だった。
グリスーンさんは1977年から、複数の中沢さんの漫画作品の翻訳と米英での出版に尽力。2009年には、金沢市の主婦らによるグループが米国でゲン10巻を完訳出版した際も監修した。原爆関連では、広島県立広島第一高等女学校の生存者による文集「平和への祈り」英語版の翻訳・編集も担当した。
赤荻校長はグリースさんに電話やメールで、「はだしのゲンの英訳を通して伝えたかったこと▽心に残った言葉▽言葉選びで工夫した点――などを要望。グリスーンさんは全校生徒約350人に約40分話す予定だった。グリスーンさんによると、講演依頼は約2カ月前にあり、準備を進めていたが、3日夕方に赤荻校長から電話で「中止する」と告げられたという。
グリスーンさんは「事務所近くの中学校の依頼だったので、光栄に思い引き受けた。松江市教委の閉架問題の影響なども聞いたが、校長は『社会の流れ』『近ごろの事情』『内部の決定』としか説明しない」と憤る。
取材に対し、赤荻校長は「都教委や区教委には相談していない。自分の判断」とした上で、「『はだしのゲン』は読んだことがない。生徒も勉強していないので興味が持てないと考えた。『はだしのゲン』に特化しないでほしいと伝えたら、断られた」と話した。
4日は元小学校校長による「ことばの教育」に差し替え、「いのちに関する詩」を取り上げた。
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どう見ても赤荻校長の説明は納得できませんね。講演を依頼した時に電話やメールでグリスーンさんに言ったことと、講演中止を決めた理由についての記者に対する説明は全く繋がりません。都教委や区教委からの指導(介入)があったのかどうかは今の段階ではわかりませんが、校長の言う「近ごろの事情」としては、安倍内閣になってから教育に対する政冶の支配が強まっているということがあります。教育長の権限を強め、教育委員会を諮問機関化しようとする動きや、沖縄・武富町教育委員会が八重山採択地区協議会が選んだ保守色の強い育鵬社の中学校公民教科書の採択過程に異議があるとして東京書籍の教科書を生徒に配布したことに対し、文部科学省が育鵬社の教科書を使うよう地方自治法に基づく是正要求を出すことを決めたり、東京都教委が学校の式典で教職員が君が代をちゃんと歌っているかどうか口元をしっかり監視しろという指示を出したということがあります。
松江市教委がはだしのゲンを学校図書室に開架しないことを一旦決めたのは自己規制ですが、講演中止も自己規制したと見るべきでしょう。教育の場で自己規制が広がることは「いつか来た道」に戻ることです。教育の反動化に今声を上げなければ!というのが「近ごろの事情」です。
大西 五郎