大分トリニータは、03年にチーム史上初めて1部リーグにはい上がったばかりの弱小チームであって、毎年降格争いに絡んではかろうじて1部に踏みとどまってきた。このチームが、シャムスカ監督就任の05年秋以降、11位と過去最高を記録する。06年はさらに上がって8位。07年は試行錯誤があったのか、ちょっと落ちて14位だが、これでも過去例年のような2部への降格ゲームなどはまぬがれている。そして今年現在はリーグ4位と、チーム史上初めて優勝圏内に割って入り、サッカーファンを驚かせている。
また、先日のナビスコカップ・トーナメント戦ではブラジルにいた時のように、トリニータにチーム史上初の優勝をもたらしている。トーナメント戦に強いのは、1発勝負上手ということであって、彼我の力関係の分析に優れ、小よく大を制する細い細い道を見つけ出す名手ということだろう。
特異なチームである。得点は18チーム中14位だが、失点23が異常に少ない(2番目に少ないのが横浜マリノスの28失点だ)。1ゲーム平均0.8失点であって、1点取っただけで勝ったゲームが実に10、ゲーム総数のちょうど3分の1に当たる。点を取る選手は金がかかるし、人件費を抑えた少数精鋭主義だし、若い選手も多いから、チーム事情、方針を反映してこういう戦い方になっているのであろう。1部に初めて上がってきた地方の貧乏チーム、そこから与えられた条件に合わせた、堅守速攻。やりくり上手な名監督という特長が浮かび上がってくる。こういう監督が「読売巨人軍」のようなチームに行ったら、良い成績が上げられるのかななどと想像してみるのも面白い。
以下は何回かこのブログに書いたことであるが、もう一度確認しておきたい。
闘いの主人公は選手たちではあるにしても、集団球技の勝敗は監督に左右されるところが最も大きいと思う。それは、このシャムスカや中日ドラゴンズの落合、アメリカ・バスケット伝説の名監督フィル・ジャクソンなどを見ても分かることだ。そして、今年のJリーグには、注目すべき同年齢の若手監督が3人、期せずして台頭してきた。このシャムスカの他、名古屋のストイコビッチ、そして清水の長谷川健太、みな1965年生まれである。万年中位の名古屋を現在2位に上げてみせたストイコビッチ。ナビスコカップ決勝をシャムスカと戦った長谷川。この3人、経歴が凄く異なるから面白い。
シャムスカと違って他の2人は、その国の代表的な選手であった。ストイコビッチは言わずと知れた世界的な名選手。それが監督初体験の1年目にもう今の成績を上げてしまった。彼を旧ユーゴ代表のエースとして起用した当時の監督イビチャ・オシムが言うには、「ストイコビッチは現役のころから監督の資質を持っていた」。長谷川健太は清水一筋の名FWから、監督としては「死にたいほど」の試行錯誤を経た末に、今年ついに「自分の戦い方」を見つけ出したように見える。
僕はこの3人に何よりも望みたい。日本最大の弱点、点取り技術を高めて欲しい。現在のところは「堅守速攻、少得点勝利」路線のシャムスカだが、点取り技術も教えられるのだろうか。いずれにしてもこの3人の誰かは、遠からず日本代表の監督になるような気がする。
(おわり)