この作業中の人は、もしかしたら森香織さんご本人だろうか。秋田公立美術大学・工芸美術学科・助教、専門は染色。
車を置いた所から棚田の舞台までは、結構ある。中間地点にトイレがあって、湧き水の水道が常時流れている。音楽が聞こえて、何やら舞台で踊っている人がいた。
金粉を塗る前の3人で、踊りながら細かい打合せをしているのだった。
この日、うちを出る時、雨だったが上小阿仁は雲が明るかった。次第に青空が見えてきて、いいコンディションになりそうだった。それでサングラスを取りに車まで1回戻った。八木沢は、所々湧き水が道路まで流れてきて、その場所だけ涼しい風が吹いていた。1往復は疲れるが、冷たい水道があるトイレまでたどり着けば、首にかけたタオルを濡らすことができる。ついでに顔も洗った。これで生き返った。
そこでかねてから気になっていたことを、札を下げた女性のスタッフさんに聞いた。あの水道の水は飲めるんですか。すると、あの蛇口よりもうちょっと行くと沢水が流れている所がありますよ。自己責任で飲んで下さい。と言われた。納得できない部分が2か所あった。あの水道は見るからに、沢水を塩ビ管で引いているだけだから、末端で飲もうが、流れで飲もうが新鮮さに変わりはない。それに「自己責任」とは。すると全部ここでの行動は、「自己責任」なんだな。ヒルに噛まれようが、アブに刺されようが、自己責任なわけだ。確かに、それは楽な言い訳だ。若いもんにそう言われちゃあ、しょうがない。
そして舞台まで戻って、近くに待機している、耳の遠いおじちゃんに聞いてみた。途中の湧き水、飲めるスよね。湧き水か沢水かは問題でない。で、飲めるとも、という答えを頂いた。「そこらの水道より、うめえよ」とおっしゃる。きっと、ミネラルウォーターより、と言いたかったんだろう、と考えた。
500円払って、ゴザに座った。ゴザには何やら動く虫がわさわさいる。
それを撮ろうとしたら、人が横切って、これしかいなくなった。バッタのようだ。座ってからも、勝手に遊びにやってくる。寝っ転がったら、ゴザは熱を吸収して暑かった。でも青空はいつもに増して綺麗だった。
舞踏が始まって、踊る人と観客を一緒に撮ろうとして、舞台を回り込んだら、あせったスタッフが静かに駆け寄ってくる。舞台の横と後ろは、侵入禁止だった。ちょっと、こっぱずかしかったが、このくらい朝飯前でやってしまうオレなので、どうということはない。目の前の舞踏も良かったが、なにより自然の中の設定が、暑いけど気持ちが良かった。山の日暮れは早く、4時前に終わったが、お日様は隠れてしまっていた。