ショックだった。オレが女を先に見送るなんて。
59才。病気療養中のところ、とある。ガンだろう。がん患者の8割は、「栄養失調」で死んでいる。週刊ポストの見出しだ。これが一層悲しくさせる。
午前の早いうちなら、顔を拝めるだろう。そう考えた。旦那さんの前で、何て言う? 昔の同僚です。それだけで、遺体に声を掛けるのか。
男って、引きずる生き物なんです。女は、次の男が出来たら、気分はすぐ切り替わる。
新聞を見てから、3時間ほど、落ち込んでいた。妻に言った。最初の赴任地の同僚で、家が同じ方向なので、車で送ってきた事がある。洗濯物を彼女のアパートに持ち込んで、洗濯機を借りた。妻にはそれ以上のことは、言わなかった。一時、付き合っていた、と言った。 妻は葬式に行けば、と言ってくれる。半分冗談かも知れない。
昼になった。そばを食いに、「天王温泉くらら」まで行った。ラジオの中継で、人が集まっていた。水中写真家の中村征夫氏がゲストだった。男鹿名物「あなご」を試食して、これは知ってるアナゴと全然違う、と言う。地元なのに、さては初めてですね。昼食は豪華に天ざるにした。山菜の天ぷらも、うまかった。帰りは食材が鈴なりの街道を戻る。食材とは、アカシアの花のことだ。
今降ってきたこの雨も、ただの偶然だろう。