5分休んで12:55発。この日最後の悪場とも言える源次郎のバンドにかかる。長次郎谷右俣最上部の凹状のバンドをトラバ-スする。落ちれば長次郎雪渓を一の沢までの直行便で、見通しの悪い時には歩きたくない所だが今は晴れており、何なく通過。問題はむしろその後である。
そもそも北方稜線にはペンキの目印などなく、ルートを見つけながら進まなくてはならない。踏み跡はあっても残雪の状態で歩く場所が変わっているのでこれと言って決まったルートはないに等しい。バンドを越えてからの道はほとんど不明で、ただ、長次郎の頭からずり落ちてきた残雪の切れ目の間を、ガラガラと岩屑を落としながらしゃにむに進んだが、長次郎谷左俣源頭部にさしかかる当りで道に詰まる。少し下り過ぎたのではないかと不安になり登り返したが稜線は右手遥か上である。
13時:30,稜線まで登るか、急な崖を下るかという岐路で小休止。下を覗き込むと、先ほど詰まった場所と崖の下が回廊状につながっているように思え、小形が空身で偵察に行く。経験のある小形の記憶が頼りなのだ。思ったとおり回廊状になっている岩場を回って小形が崖を登ってきた。
13:43発。以後は問題なく、同57主稜線に出る。涼風が心地よい。いよいよ本峰への最後の登りとなる。左下の源次郎尾根に懸垂下降を待つ登山者が長蛇の列をなすのを見る。
14:10分,中本の『見えたぞ~』の声。何が見えたのか,多分頂上のことだろう。5分遅れてその場所に立つと、ガスの向こうに頂上らしき岩峰を垣間見る。同28登頂。
頂上には我々の他に外国人女性と邦人男性のパーティーがいただけで、時間が遅いからか天候のせいか、8月上旬の剣岳山頂とは思えない淋しさである。この2人が私達を見て無造作に北方稜線の方に下って行こうとしたのを慌てて止める。こう言う手合いが結構いるらしい。
14:48発。展望もよくないし寒い。何よりも早月小屋までの3時間の行程が残っているのでのんびりしてはいられない。けれど北方稜線縦走の緊張感から解放されたという安堵感から気持ちに緩みが出てしまってどうにも締まらない。
14:55室堂への分岐点を通過,室堂方面は晴れ。ここからはうるさいほどの鎖場の連続となる。15:15,最後の鎖場を過ぎる辺りで早月小屋を遠望する。まだ先は長そうだ。
15:30,小休止。同40発。小形,中本が先行し、藤井と2人遅れて行く。『今日はどこででもークしてやる』等と冗談を言いながらやけっぱち気味に歩く。16:12,小ピークの手前で小休止。ハクサンイチゲやトリカブトに混じってマツムシソウやアキノキリンソウ等、すでに秋の気配を感じさせる花を見る。5分後発。
小ピークを登ると先行の2人が待ってくれていたのでまた休む。2610mのピークかどうかで意見が別れる。もっと下りているはずだと思いたいがまだその地点らしい。白花のトリカブト,エゾシオガマ,ベニバナイチゴ等,花も低山種に変わる。
16:35発。5人の中高年グループを追い越す。17:14~37休憩し、18:11,早月小屋のテン場に着く。5:45の出発以来12時間半におよぶ長丁場でさすがに疲れた。
テン場にテントはなく、我々は小屋に近い一等地を選んで幕営。少し遅れてもう1パーティーがテントを張っただけで静かな野営となる。小屋の前の広場から日本海に沈む夕日を見送る。富山市街と富山湾がよく見える。食事はビーフンと乾燥野菜入りスープ。17:30に終わり、同45テントに入る。離れたテントから賑やかな星空をたたえる歓声が上がるのを聞きながらいつしか眠りに落ちていた。