透明タペストリー

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「源氏物語 女たちの世界」

2024-07-12 | A あれこれ

 『ことばのしおり』(信濃毎日新聞社)の著者・堀井正子さんは信越放送のラジオ番組「武田徹のつれづれ散歩道」にレギュラー出演している。堀井さんは日本文学研究家で近代文学に詳しい方。漱石、鴎外、藤村、啄木らの作品や人となり、作品の時代背景などについて番組で縦横に語っておられる。柔らかくて優しい声がとても素敵で、どんな方だろうといつも思いながら聴いている。(一部加筆) 2006年11月18日、拙ブログにこのように書いた。


堀井さんの講演会がJR広丘駅近くの「えんてらす」で開催されることを知ったのはひと月くらい前だっただろうか。その時、直ちに電話で聴講の申し込みをした。2006年来の願いが叶う。

その講演、「源氏物語 女たちの世界」~信州の源氏絵をひもとく~ が昨日(11日)の午前中に行われた。堀井さんは「源氏物語」をどのように解説されるのだろう・・・。

「源氏物語」54帖それぞれの場面、例えば有名な「雨夜の品定め」や六条御息所と葵の上の牛車の場所取りバトルなどが描かれた源氏絵(というのだそう)が松代の長国寺や県立歴史館など、長野県内各地に屏風や掛け軸などの状態で収蔵されているそうで、堀井さんの講演は、源氏物語に登場する女性たちについて、それらの源氏絵によって可視化された場面を解説していくというものだった。

スクリーンにはじめに写しだされたのは清少納言の「香炉峯の雪 *1」撥簾の図の掛け軸と琵琶湖の近くにある石山寺で紫式部が「源氏物語」を書きはじめる場面を描いた掛け軸。

紫式部の掛け軸の拡大画像に変えて「これ、まひろです」と堀井さん。聴講者の大半は年配の女性。大河ドラマを見ているのだろう、堀井さんの言葉に驚きというか、感嘆というか、そんな声があちこちから。講演のイントロとして上手いと思った。紫式部が中宮彰子(しょうし、ドラマではあきこ)に個人授業している場面も紹介された。

堀井さんはラジオで聴いていた通りの語り口で、スクリーンに写し出される源氏絵の説明をし、物語について分かりやすく解説していく。9時半にから11時半までの2時間で全54帖を語るのには時間が足りない。1帖をおよそ2分で説明するのは到底無理。堀井さんは時間が足りないことは承知しておられたが、ざっくりと物語の概要を話して終りにはしたくなかったようだ。時間内で話せるところまで、詳しく解説しようとされていた。

残念ながら解説は物語の最後まで到達しなかったが、画像は最後まですべて写し出された。特に印象に残ったのは光源氏が薫を抱いている場面。正妻・女三の宮との間に生まれた薫の実の父親は柏木。光源氏はうれしそうではなく、複雑な表情しています、と堀井さん。なるほど、確かに。光源氏はこの時、父親の桐壺帝のことを考えていたのかもしれない。後妻・藤壺との間に生まれ、後の冷泉帝となる男の子の父親が自分ではなく、息子の光源氏だということを知っていたのだろうか、と。

このことについて、堀井さんは、どちらかに決めて説くことはしなかった。桐壺帝は冷泉帝となる子どもが息子と藤壺との間に生まれた子どもであることを知っていたと私は思う。光源氏は桐壺帝と同じ経験をすることになるが、対応が違う。ふたりの対応の違いによって、紫式部は貴族社会の変化、衰退を暗示しようとしていたのではないか、と思うようになったので。

講演が終わり、進行係の方から、感想や質問があれば、どうぞと声がかかったので、私は挙手をして、堀井さんに好きなヒロインを尋ねた。若い頃は明石の君、この頃は紫の上が好きという答えだった。その理由も説明されたが、省略。

続けて、浮舟はどうでしょう、と尋ねた。答えの最後は「浮舟は尼として生きていけるのかな?「夢浮橋」ですからね・・・」という意味内容のコメントだった。あ、夢浮橋ってそういうことなのか、なるほどと納得。

「浮舟が好きなんですね」と堀井さん
「ハイ」と私 

「源氏絵」の絵解きを最後まで詳しく聴きたかったなぁ。*2


*1 白楽天の詩の香炉峰ノ雪ハ簾ヲ撥ゲテ看ル を踏まえて口で答えることなく、行動で示したという清少納言の機智。杉本苑子の『散華 紫式部の生涯 下』を読み始めたが、ちょうどこのことが出て来ていた。

*2 本の出版が予定されているそうだ。


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