透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

北杜夫再読

2012-03-17 | A 読書日記

『黄いろい船』
『どくとるマンボウ青春記』

『どくとるマンボウ途中下車』 
『どくとるマンボウ追想記』
『どくとるマンボウ昆虫記』
『どくとるマンボウ航海記』
『夜と霧の隅で』
『白きたおやかな峰』 
『楡家の人びと』
『幽霊』
『木精』

以上の作品の再読を終えた。以下の作品やその他の読みたい作品はまたの機会にしよう。

『輝ける碧き空の下で』
『さびしい王様』
『どくとるマンボウ医局記』

 北杜夫の代表作といえば、『どくとるマンボウ青春記』『どくとるマンボウ航海記』『楡家の人びと』ということになるだろうか。芥川賞を受賞した『夜と霧の隅で』はドイツのある精神病院が舞台ということもあって、それ程なじみが無いのでは。私は好きな作品として『幽霊』と『木精』を挙げる。

北杜夫は『幽霊』を昭和25年、23歳の時に書き始めている。同作品は昭和27年にひとます完成、「文芸首都」(北杜夫ファンには馴染みの雑誌)に、その年から翌年にかけて掲載された。『木精』は『幽霊』の続編だが、『幽霊』の発表の実に21年後に出版されている。3部作、あるいは4部作として構想されていたようだが完成をみなかった。全て読みたかった・・・。


『幽霊』について、北杜夫は評論家の奥野健男との対談で、**「幽霊」は記憶のよみがえりというテーマでしょう。それで、プルーストにも「失われた時を求めて」という小説があって、それがやっぱり記憶のよみがえりを主題にしていることを聞いたもんですから、うっかり模倣に陥ったらいかんと思いまして、小説を書き終わるまで読まないでいたんです。**と語っている(『北杜夫の文学世界』奥野健男/中央公論社 昭和53年2月発行)。

**人はなぜ追憶を語るのだろうか。
どの民族にも神話があるように、どの個人にも心の神話があるものだ。その神話は次第にうすれ、やがて時間の深みのなかに姿を失うように見える。―だが、あのおぼろげな昔に人の心にしのびこみ、そっと爪跡を残していった事柄を、人は知らず知らず、くる年もくる年も反芻しつづけているものらしい。**

『幽霊』のこの魅力的な書き出しに、小説のモチーフが端的に表現されている。そう、『幽霊』は心の奥底に沈澱している遠い記憶を求める、「心の旅」がテーマの作品だ。幼年期から旧制高校時代までを扱っている。抒情的というのか、やわらかな文体で書かれた小説だ。

『木精』は20代の半ばから30過ぎまでの時代を扱い、若い人妻、倫子との恋を描いている。不倫といえば確かにそうだが、初恋のように初々しい。全くのフィクションではないことを北杜夫も認めているが、まあこれも「心の神話」という位置づけだろう。

既に何回も読んだ両作品だが、またいつか読みたい。


 


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