透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

書斎という名の小宇宙

2011-01-10 | A 読書日記

 「書斎という名の小宇宙」などという気どったタイトルにしてしまった。「欲望という名の電車」をもじったが、なんだかな~。


作家・逢坂剛さんの書斎

先日、書店で平積みされていた新刊文庫の中からこの本を手にした。

イラストレーターで、ルポライターでもある内澤旬子さんが「本」のある仕事場31箇所を訪ねる。細密な俯瞰図を描く。作家や学者、評論家、翻訳家、イラストレーターなど書斎の主に本に対する考え方、書籍観(などという言葉があるかどうか・・・)を訊く。

**本の収集癖とか、並べてうれしいとか、それは全然ないです。結局、私にとって本はモノではない。文字で書かれた内容というものは、本来、かたちがないものだから、これは仮の姿という感じで・・・・・・**(76頁)と語るのは同時通訳者で作家の米原万理さん。本は並べてうれしいし、本はモノだと考えている私とは全く正反対のコメント。

米原さんにとって、本と電子書籍は情報媒体として等価、ということか。内澤さんは、**かたちにとらわれず、機能的に情報を管理している。**と米原さんの書斎を観察している。

**建築家には雑読家が多いと思いますよ。自分にいろいろ理屈をつけたくなるときがあるんです。(中略)なんでこうなんだろうと。それにはどうしても本を読まないとダメなんですね。建築関係の本を読むよりも、全然違うタイプの本を読んでいるときの方が、一気に何かがわかってきたりします。**(152頁) 

これは建築家・石山修武さんのコメント。同感。「世田谷村」と名付けられた自宅の古い平屋が取り壊されたことが書かれている。知らなかった・・・。

俯瞰図を見て、映画評論家・品田雄吉さんの書斎がいいな、と思った。「書斎という名の小宇宙」、「可視化された31の脳内を覗く」・・・。



作家・野坂昭如」さんの書斎

以前読んだ類書。同じ書斎が取り上げられていれば、比較できたのに・・・。


メモ)
『センセイの書斎 イラストルポ「本」のある仕事場』 内澤旬子/河出文庫
『河童が覗いた「仕事場」』 妹尾河童/文春文庫


127 必要のみが要求する形

2011-01-10 | A 火の見櫓っておもしろい


127



 『「鉄学」概論 車窓から眺める日本近現代史』 新潮文庫 の第二章「沿線が生んだ思想」で著者の原 武史さんは永井荷風、高見 順、坂口安吾ら、都市近郊の鉄道を利用していた作家を紹介し、彼らが車内の様子や車窓の風景に見ていた世情、歴史、文化などを論じている。

坂口安吾については太平洋戦争中に書いたエッセイ「日本文化私観」を取り上げている。取手に住んでいたことのある坂口安吾は常磐線を使って東京に出る時、車窓からいつも「東京拘置所(小菅刑務所)」を見ていたそうだが、原さんは**不思議に心を惹かれる眺めである。(中略)その美しさで僕の心を惹いているのだ。**というくだりを「日本文化私観」から引用している(71頁)。

坂口安吾は利根川の風景よりも、手賀沼よりも刑務所然とした建築物に美を感じ、惹かれるというのだ。それはなぜか、原さんは**「美」というものを一切考えずにつくられているからだ、というのが坂口安吾の答えである。**と指摘した上で、**「必要なもののみが、必要な場所に置かれ」、その結果、「必要のみが要求する独自の形が出来上がっている。」**という坂口安吾の感想を先のエッセイから紹介している。

「必要のみが要求する形」は美しい。

坂口安吾のこの指摘、見解は火の見櫓にも当て嵌まるかもしれない。屋根に多少装飾的なものが付いていることもあるが、基本的に火の見櫓には必要なもの以外何も無いから・・・。



メモ) 『堕落論・日本文化私観』坂口安吾/岩波文庫