■ 『日も月も』川端康成/角川文庫を読み終えた。36年も経つと随分変色していて、使った後のコーヒーフィルターのような色になっている。
**真裸の漁夫たちが、大鮫をかついで、画面の右から左へ、二列にならんでゆく。漁夫たちはみな前を向いているのに、一人の漁夫だけが横目をして、こちらを向いている。ぱっちりと涼しい目で、少女のように美しい顔だが、若者であろう。その一つの顔だけは色白で、細かく描き上げてある。その顔にくらべると、ほかの漁夫たちの顔は未完成のようだ。**(71頁)
この小説にはある絵画について、このような記述がある。
ある絵画とは、そう、青木繁の「海の幸」。小説のヒロイン・松子がある男性とブリヂストン美術館でこの絵を観る場面が出てくる。川端康成は絵画にも関心を持っていたようだ。そうでないとここまで詳細には書かないだろう。
ある男性とは松子のかつての恋人の弟で、ふたりで京都に旅行するところで小説は終わる。
読後感についてはいつか書く機会があるかもしれない。
メモ)
小説にでてくる絵画:夏目漱石(過去ログ)の「草枕」にミレー(ミレイ)のオフィーリア(ハムレットのヒロイン)がでてくる。このミレーは19世紀のイギリスの画家で先日書いた「晩鐘」のミレーとは別人。