goo blog サービス終了のお知らせ 

透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「卒業論文マニュアル」を読む

2025-04-11 | g 読書日記


『卒業論文マニュアル 日本近現代文学編』斎藤理生・松本和也・水川敬章・山田夏樹  編(ひつじ書房2022年 図書館本)

 ぼくは工学部を出たけれど、文学部は工学部から一番離れたところにある学部だろう。その文学部ではどんな卒業論文(卒論)を書くのだろう・・・。このような興味から、この本を借りて読んだ。

書名の通り、本書は近現代文学を対象とした卒論に特化して、候補作品選びからテーマの設定、論文の書き方について、段階ごとに具体例を示しながら記述されている。

実証的に、つまり証拠を示しながら論理的に記述する。工学部であれ、 文学部であれ、これは論文執筆の基本であろう。本書でも卒論について、何がどのようにクリアできれば達成といえるのか、その目安として、次の3点示されている。

**①先行研究の調査・位置づけを踏まえた、有効なテーマ設定ができたか。
  ②テーマに即した適切な方法を用いて、明快に論旨を示すことができたか。
  ③参考文献・注を整え、論理的・説得的な表現で論述することができたか。**(14頁)文中の下線は引用した私による。

巻末に執筆者の卒論が掲載されている。新井真理亜さんの卒論「安部公房『砂の女』試論」は読んでみたい。ただ、試論とは字義通りだと、試みの論考ということだが、これには真っ向勝負でなく逃げ腰というか、言い訳的なニュアンスをぼくは感じてしまうが・・・。

しばらく前に読んだ『金閣を焼かなければならぬ 林 養賢と三島由紀夫』内海 健(河出文庫2024年)は、精神科医の著者が専門の精神病理学的知見によって、金閣寺に火を放った学僧・林 養賢と、金閣寺焼失を題材にした小説『金閣寺』を著した三島由紀夫の精神分析をした論考だが、大学4年生がこんな論文を書くことができたら、すごいだろうな、と『卒業論文マニュアル』を読み終えて思った。


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「ルポ 軍事優先社会」を読む

2025-04-09 | g 読書日記


『ルポ  軍事優先社会 ― 暮らしの中の「戦争準備」 』吉田敏浩(岩波新書2025年)を読んだ。本書は3月22日付毎日新聞の「今週の本棚」で取り上げられ、**近年の日本政府の政策は、新しい戦争を引き寄せようとしているのではないか。そんな漠然とした不安を持つ人は、本書を読めば不安が確信に変わるだろう。** このような書き出しで紹介されていた。

本書を読み終えての感想を簡潔に言うなら、「戦争のできる国から戦争をする国へ」この国がなった、ということ。

実態を知らなかったから、「え、そうなのか」と思った記述、「やはり、そういうことなんだな」と思った記述のところに付箋を貼りながら読み進んだ。結果、付箋が何枚にもなった。その中の何箇所かを以下に載せる。**(引用記号としている)を付けてないものは私がまとめた。

アメリカからの軍事費増額(対GDP比2パーセント)要求に応えれば、年間の軍事費は約11兆円となり、アメリカ、中国に次ぐ世界第3位の軍事費大国になる。(はじめに)

全国の多くの自治体が住民基本台帳から自衛官募集の適齢者の個人情報を自衛隊に提供している。本人の同意なしに。(58頁)

「安保三文書」って何、知らなかった・・・。この中身は「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」。この中には「防衛産業支援法」なる法律もある。具体的な内容として、**武器輸出先の国から性能や仕様の変更・調整を求められた企業に対して、政府が助成金を交付する。**(84頁)そんなことまでしているのか・・・、知らなかった。優先的に支援すべきものは、どう考えても防衛産業、輸出武器製造企業じゃない、と思うが。

**米日軍事一体化の本質は、米軍への自衛隊の従属的一体化なのである。「安保三文書」による大軍拡、軍事費膨張の国策がもたらす軍事優先は、本質的にはアメリカ優先、米軍優先なのである。日本にとって主体性なき、主権なき軍拡、「軍事大国化」といえる。**(138頁)戦後、日本はアメリカの属国になり、80年経った今もその状態が続いているということなんだな。

**日米「指揮統制」連携の強化で、自衛隊が事実上米軍の指揮下に入れば、アメリカの戦略に日本は引きずられ、戦禍のリスクは一層高まる。**(198頁)

就任後、初来日したヘグセス米国防長官は日米防衛相会談の後の記者会見で、台湾有事を念頭に「日本は西太平洋で最前線に立つ」と表明している。自衛隊が米軍の指揮下に入ることになるのだから、こういうことに拒否できるわけがなく、最前線に立たさせられるのだろう。やはり、明らかに「戦争のできる国から戦争をする国へ」だな。

**「安保三文書」による軍事優先の国策は、新たな〝総動員体制〟を築こうとしている。その端的な表れが、自衛隊と米軍による沖縄、九州をはじめ日本各地の空港・港湾など、公共インフラの軍事利用の促進である。全国に軍事拠点を増やす企てだ。**(202頁)


2025年3月29日付信濃毎日新聞に上掲した見出しの記事が掲載された。随時掲載される沖縄タイムスの経済部長兼論説委員・福元大輔氏の記事だが、この中で長野県営松本空港に「緊急着陸」したオスプレイのことに触れている。

緊急着陸とかいっているけれど、本当は違うのではないか。有事に備えた空港チェック、データ取り等が目的だったのでは。ぼくはこのニュースを知って、そう思った。いや、上掲書によると、オスプレイは事故率が高く『欠陥機」とまで呼ばれているとのことだから(166頁)、本当に緊急着陸だったのかもしれない。それでもただでは飛び立たたず、諸データを集めたのかもしれない。

4月5日付同紙の読者投稿欄に「軍用機着陸 県は強く抗議を」という見出しの投稿が載っていた。**先日、松本空港に米軍のオスプレイが緊急着陸したというニュースが流れました。(中略)この日は偶然だったのか、高知空港にも米軍戦闘機が緊急着陸しました。なんだか、これらの動きは皆、何かの軍事作戦の一環ではないかと疑いたくなります。(後略)**

ぼくと同じように思った人が少なからずいた、ということだろう。で、投稿者はその中の一人。空港に出かけていって、かっこいいなんて、オスプレイを撮っているようでは困るぜ。


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「砂の器 映画の魔性」を読む

2025-04-05 | g 読書日記


『砂の器  映画の魔性 監督 野村芳太郎と松本清張映画』樋口尚文(筑摩書房2025年)を読んだ。この本のことは新聞広告で知ったように思う。2,750円(税込)。今は本が高いが、迷うことなく買い求めた。


映画の原作、松本清張の『砂の器』は中学生の時に読んだ。ぼくに本のおもしろさを教えてくれた長編推理小説。

松本清張は『砂の器』にいくつものトリックというかアイディアを惜しげも無くつぎ込んでいる。カメダ(羽後亀田と亀嵩)、ズーズー弁 **「出雲のこんなところに、東北と同じズーズー弁が使われていようとは思われませんでした。」**(166、7頁)、終戦間際の大阪空襲による戸籍焼失とその復活方法・・・。これらの事実を作品に活かしていることろが松本清張のすごいところだし、作品の魅力でもある。


映画「砂の器」は公開された年(1974年)に観た。後年レンタルDVDでも観た。この映画の後半は涙無くしては観られない。この映画の出演者は覚えているし、印象的なシーンもいくつか覚えている。邦画ではベスト1の作品だと思う。

このような事情から、この本は是非読みたい、と思った。

著者の樋口氏は野村芳太郎監督が遺した膨大な映画製作時の資料を基に、『砂の器』の映画化の舞台裏を明らかにした。「そうだったのか、知らなかったなぁ」。大変興味深い内容だ。

出演した島田陽子(加藤 剛が演じた、作曲家でピアニストの主人公・和賀英良の愛人・高木理恵子の役)と和賀の子ども時代(本浦秀夫)を演じた春田和秀氏や、野村芳太郎監督の長男・野村芳樹氏へのインタビューなども掲載されている。
また、映画で効果的に流れるピアノ協奏曲「宿命」の作曲、演奏シーンの撮影などについても、関係者へのインタビューなどによって、その舞台裏が明らかにされている。後半、親子の放浪の旅のシーンに「宿命」が実によくマッチしていて、悲しみを倍化させていた。

原作で難点とされている「第五章 紙吹雪の女」は、映画では美しく印象的なシーンとなっている(とぼくは思う)が、このシーンを野村監督はどのように考えて扱った、ということも明らかにされている。

映画が公開されて50年も経ってから出版された本だが、それは「砂の器」という映画が、多くの人々から今もって忘れられることのない名作であることの証であろう・・・。


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「日本の近代6 戦争・占領・講和」を読む

2025-04-03 | g 読書日記

透明タペストリー2   ⇦ 4月16日に透明タペストリーから移行するブログを閲覧いただけます。


360
『日本の近代6 戦争・占領・講和』五百旗頭 真(中央公論新社2001年)を読んだ。

既に何回も書いたことを繰り返すが、日本の古代史から近現代史まで、広くそして深く学ぶことはもう無理だから(と決めてかかる)、古代史と太平洋戦争に対象を絞って、関連本を読もうと思っている。

太平洋戦争関連本は、戦争の諸資史料を紐解いて、その推移を俯瞰的に記述するものと、個々人の戦争体験を記述するもの(本人により綴られたもの、本人に取材して書かれたもの)に大別されるように思うが、そのどちらも読んでいきたい。

後者で、本人によって綴られたものには、例えば藤原ていの『流れる星は生きている』(過去ログ)がある。この本には感銘を受けた。これは名著。多くの人に読んで欲しいと思う。また、取材に基づいて書かれたものには、例えば辺見じゅんの『収容所から来た遺書』がある。この本にも感銘を受けた。

さて、五百旗頭 真氏の『戦争・占領・講和』。

五百旗頭氏の著書『日米戦争と戦後日本』をIT君に薦められて読み、十を知っていて一を記述していると思わせる深い知識と豊かな表現に魅せられた(過去ログ)。それで、同氏の他の著書も読みたいと思っている。

書名から分かるが、『戦争・占領・講和』は『日米戦争と戦後日本』とテーマが同じで、「日米開戦」から戦後の「五五年体制の成立」までの政治史。前述の前者、太平洋戦争の資史料を根拠として示しながら、詳述している。

日本はなぜ対米戦争に踏み切ったのか、そこに至る政治的な動きはどうであったのか。日本は敗戦をどう受け入れ、その後の政治はどのように推移していったのか、が本書のテーマで、戦況の推移についてはほとんど触れられていない。このことは次に挙げる目次を見れば分かる。

  プロローグ「紀元二六〇〇年」と真珠湾
   「紀元二六〇〇年」
   真珠湾へ
1 日米開戦
   真珠湾への道 ―― 政治的決定
   最終方針へ
   ルーズベルトの「真珠湾」
2 敗戦の方法
   無条件降伏へ ―― 知日派の存在
   六つの選択肢
   「戦争犯罪人」か
   グルーの早期終戦論
   日本占領方針
3 戦後体制へ
   敗戦前夜
   成功の陰に
   東京とワシントン
   戦後日本に向けて
4 歩みだす日本
   吉田の組閣
   中道政権へ
5 保守政治による再生
   政治主体の確立
   民主主義とナショナリズム
  エピローグ 五五年体制の成立
   吉田時代の終焉
   保守合同の成果

本書の最後に五百旗頭氏はまとめとして次のように書いている。

**戦後の経済国家は、成功の中で培った利益還元構造とそこでの既得権者に公式資源を奪われて、全体合理性をまたも喪失している。戦前とは違った衣をまといながらも、歴史は繰り返している。**(414頁)

**他国民と世界の運命に共感をもって自己決定する大政治の脳力を今後の日本は求められよう。なぜなら、真珠湾から五五年体制までの歴史のように、全面的自己破産を通して再生するという型を、もう一度繰り返す自由を、われわれには与えられていないからである。**(414頁)

本書を読んで感じたのは歴史は人がつくるという至極当たり前のことだった。

本書は2001年に発行された。それ以降のこの国の政治的状況はどうであろう。拙ブログには政治的なことは書かないことにしているが、奪われたはずの繰り返しを進めてはいないだろうか・・・。


  

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ブックレビュー 2025.03

2025-03-31 | g ブックレビュー〇


透明タペストリー2   ⇦ 4月16日に透明タペストリーから移行するブログを閲覧いただけます。



 3月の読了本は9冊(2冊は図書館本)だった。

『金閣を焼かなければならぬ 林養賢と三島由紀夫』内海 健(河出文庫2024年)

『生体解剖 九州大学医学部事件』上坂冬子(中公文庫1982年8月10日初版、1983年2月10日4版)

『江戸の火事と火消』山本純美(河出書房新社1993年)

『金閣寺』三島由紀夫(新潮文庫1960年9月15日発行、1970年20刷)

『華岡青洲の妻』有吉佐和子(新潮文庫1970年発行、2025年1月20日78刷)

『女流 林芙美子と有吉佐和子』関川夏央(集英社2006年 図書館本)

『金閣寺の燃やし方』酒井順子(講談社2010年 図書館本)

『名古屋テレビ塔クロニクル』長坂英夫 編集(人間社2018年)

『名古屋テレビ塔クロニクル2』長坂英夫 編集(人間社2025年)


『金閣寺』と『華岡青洲の妻』、印象に残る作品が小説ということに、小説の力を感じる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「日本の近代6 戦争・占領・講和」五百旗頭 真

2025-03-28 | g 読書日記

お知らせ

4月16日にブログを「透明タペストリー2」へ移行します。
2006年に開設し、既に18年経過しました。そのため、保存写真のデータ量が定量に迫っているのです。
このブログを延命するために、写真を掲載しないで、記事だけ書くなど対策を検討します。
それまでは、両ブログに記事を掲載する予定です。
よろしくお願いします。

透明タペストリー2   ⇦ クリックしていただくと 透明タペストリー2 を閲覧いただけます。



320

■ 戦後80年。「新しい戦前」。軍事化加速、軍事費膨張、日米軍事一体化。

今年は太平洋戦争に関する本を読もうと思う。「日本の近代」全16巻の第6巻『戦争・占領・講和』五百旗頭 真(中央公論新社2001年)を読み始めた。

480
4月は積読状態の太平洋戦争関連本を読もうと思う。別のジャンルの本も読みつつ。

戦前から負けることが分かっていた太平洋戦争。なぜ始められ、どのように推移したのか・・・。


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

午後カフェで「女流」を読む

2025-03-23 | g 読書日記


■ 『女流 林芙美子と有吉佐和子』関川夏央(集英社2006年 図書館本)の後編、「有吉佐和子的人生」を午後カフェで読んだ(3月22日)。

ぼくが有吉佐和子のことで覚えているのは、フジテレビの昼の帯番組「笑っていいとも!」に出演した時のこと。通常、友だちの輪で呼ばれたゲストの出演時間は10分か15分くらいだったかと思うが、有吉佐和子は、ほぼ番組の時間めいっぱい出演し続けたこと。この時のタモリの苦笑いも記憶に残っている。

この「番組ジャック」のことが、本書にも取り上げられていた。有吉佐和子から次のゲストに指名された橋本 治は、この一件について、次のように書いているとのこと。**有吉佐和子の「乱心」でも「テレビジャック」でもない、打合せどおり一時間全部を有吉佐和子のトークだけで埋めることになっていたのだ、と橋本 治はのちに書いている。**(214頁) 

このようなエピソードを引くと、本書は俗っぽい内容か、と思われそうだが、そうではなく、優れた人物評伝だ。

本書には次のような橋本 治の有吉評が紹介されている。**小説家として女として、バカにされまいと思って異様に頑張ってきた人であった。**(219頁)
**彼女ほど女が働くことの重要さを、実人生でも作品世界でも強調した人はいなかった(後略)。**(219頁)

関川さんは、「有吉佐和子的人生」の最後で、有吉佐和子を次のように評している。
**有吉佐和子は、近代文学的第一人称をになうことが、おそらく生理としてできなかった。つまり「私の内面」をえがけず、えがこうともしなかった。
吾妻徳穂であれ、自分の祖母と母であれ、華岡青洲の母と妻であれ、また他のどんな女性であれ、自分以外の、しかし自分とどこか似た人を主人公に据えたとき、彼女の持ち味である「物語」は強靭な骨格をともなって成長することができた。**(220頁)

なるほど。『華岡青洲の妻』に有吉佐和子の自信に満ちた力強さ、書きっぷりの凄さを感じたが、その理由(わけ)が分かった。

関川さんは、あとがきで前編の林芙美子と後編の有吉佐和子について、**才能があって過剰なまでに個性的、そして生命力にあふれすぎた「女流」(後略)**と書いている。これが総括的な評。


さて、次はまだ明かせない目論見のために『名古屋テレビ塔クロニクル』と『名古屋テレビ塔クロニクル2』(人間社)を続けて読むか、それとも、太平洋戦争関連本の『主戦か講和か 帝国陸軍の秘密終戦工作』山本智之(新潮選書)を読むか、どっちにしようかな・・・。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「華岡青洲の妻」を読む

2025-03-22 | g 読書日記


『華岡青洲の妻』有吉佐和子(新潮文庫1970年1月30日発行、2025年1月20日78刷)を読んだ。

江戸時代の紀州。世界で初めて全身麻酔による乳癌の手術に成功した医者、華岡青洲。青洲による麻酔薬の危険な人体実験に競って身を捧げた青洲の妻と母。青洲を愛するが故の嫉妬による争い。

しばらく前に読んだ『青い壺』、その第四話で有吉さんは財産争いを描いている。実家に来て母親に嫁ぎ先の財産争いのことを話す娘。

**「(前略)下のお姉さんは、私は貸衣裳で結婚式あげたって言い返すわ、中のお姉さんは、結婚するとき大きいお姉さんの振袖借りようとしたら断わられたって今頃になって言い出すし、ね。大きいお姉さんに言わせると断ったのは姑で、私は知らないってことになって」
「やれやれ」
「大きい兄さんが目を据えるみたいにして、ときに姉さん、持参金はいくら持って行ったんだい、なんて訊くしねえ」
「嫌だわねえ」
「私、姉さんも妹もいなくて本当によかったと思ったわ。中の姉さんって下の姉さんより貧弱な嫁入支度だったって、そこまで問題にするのよ。(中略)出産祝いは一番多く受け取っている筈だってまぜっ返すのよ。もう滅茶滅茶だった。百カ日まで、集まってはそんなことばっかりやりあってたんですもの、おかげで私まで、くたくただわ」**(77,8頁)

長々と引用したのは、有吉さんが、このように家庭内の争いをよく知り、それを描くのが実に上手いということを知って欲しかったから。『華岡青洲の妻』でも、ふたりの女の争いが描かれる。

**「(前略)お堅い御家風の中でまめやかにお育ちと伺(うかご)うております加恵さんを、震の嫁にはこのひとよりないと見込んで伺いましたのでございますよってに」**(22頁)

震(後の青洲)の母親(於継)に強く請われて嫁いだ加恵。それが・・・。

**母親は、妻には敵であった。独り占めを阻もうとする於継の無意識の行為もまた嫁に対する敵意に他ならなかった。**(75頁) と、有吉さんはストレートな表現をここではしている。

ものがたりの終盤。於継は既に亡くなっている。有吉さんは加恵の義妹に次のように言わせる。

**「(前略)お母(か)はんと、嫂さんとのことは、ようく見てましたのよし。なんという怖ろしい間柄やろうと思うてましたのよし。こないだもお母はんの法事で妹たちが寄ったとき、話す話が姑の悪口ばかり。云えば気が晴れるかと思うて、云わせるだけ云わせて聞き役してましたけども、女(おなご)二人の争いはこの家だけのことやない。どこの家でもどろどろと巻き起り巻き返ししてますのやないの。(後略)**(215頁)

この小説が発表されたのは1966年、およそ60年前のこと。だが、今もその頃と、嫁と姑の関係の根っこの部分、心の奥底の嫉妬心は変わらないのかもしれない。このことが今尚この小説がよく読まれているということの証左、ではないか。

『有吉佐和子のベスト・エッセイ』(ちくま文庫)に『華岡青洲の妻』について書いたエッセイが収録されている。手元にないので、記憶に頼るが、美談の陰の嫁と姑の争いはそっと隠しておいて欲しかった、というような文章(だったのか、記憶が曖昧だが)を目にして(耳にしてだったかもしれない)、有吉さんは嫁と姑の争いは醜くない、と書いていた。

読み終えて思った、有吉佐和子はどんな人だったんだろう、と。『女流 林芙美子と有吉佐和子』関川夏央(集英社2006年)。図書館でよい本を見つけた。早速、本書の後半「有吉佐和子的人生」を読もう。


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「金閣寺」を読む

2025-03-20 | g 読書日記

320
 三島由紀夫の(などと書く必要もないだろうが)『金閣寺』(新潮文庫1960年9月15日発行、1970年2月15日20刷)を読み終えた。下掲の拙ブログの過去ログを見ると、この小説を高校生の時に細かな活字の文庫で読み、後年、大きな活字になった文庫で読んだことがわかる。そして今回また細かな活字の文庫で読んだ。

 
この小説を初めて読んだのは高校生の時。新潮文庫(昭和44年18刷、定価120円)だった。2008年7月2日(*1)の記事に**小さな活字で組まれていて今読むのはきついです。**と書いている。


上の記事を書いてまもなく、大きな活字で組まれた新潮文庫を買い求めていて、7月21日の記事に次のように書いている。**『金閣寺』新潮文庫を読み始めました。昔読んだ文庫本は活字が小さくて、老化が始まっている眼ではつらく、版が改まって大きな活字になった最近の文庫本を買い求めました。**

リーディンググラス(老眼鏡とも言う)を使うようになった今、小さな活字が全く苦にならなくなった。それに小さな活字で読む方が小説を「読んでいる感」が高まる。それで、今回ずいぶん古い本をネットで買い求めた。

しばらく前に読んだ『金閣を焼かなければならぬ 林 養賢と三島由紀夫』内海 健(河出文庫2024年)のカバー裏面には『金閣寺』について、三島由紀夫の青春の総決算となる最高傑作と書かれている。また、ぼくが今回読んだ文庫の解説文に、中村光夫氏は**『金閣寺』が三島氏の青春の決算であり、また戦後というひとつの時代の記念碑であることはたしかですが(後略)**(265頁)と書いている。

共に『金閣寺』は三島由紀夫の青春を括る作品で、最高傑作だという評価。ぼくも三島由紀夫の作品をひとつだけ挙げるとすれば、『金閣寺』(過去ログ)。

精神科医が『金閣寺』の主人公の溝口の精神分析をするくらい、三島由紀夫はこの作品で溝口の心の動きを描いている。このことを知って、今回は読んだ。

最後の一文。**別のポケットの煙草が手に触れた。私は煙草を喫んだ。一ㇳ仕事を終えて一服している人がよくそう思うように、生きようと私は思った。**(257頁 *2)

なぜ溝口は生きようと思ったのか・・・。金閣寺と心中するつもりで、小刀と睡眠薬のカルモチン100錠入りの瓶を所持していたのではなかったのか。

**私はたしかに生きるために金閣を焼こうとしているのだが、私のしていることは死の準備に似ていた。自殺を決意した童貞の男が、その前に廓へ行くように、私も廓へ行くのである。**(217頁)

注意深く読み進めれば、この一文に気がつく。溝口は金閣寺と決別して生きようとしていた。

金閣寺との決別とは、実は有為子との決別ではないか、と思い至った。そう、有為子と決別して生きようという溝口。これはなんとも俗な解釈だが・・・。


*1  金閣寺が焼失したのは昭和25年(1950年)7月2日未明。
*2 最新版は文字が大きいためにページ数が多くなっている。また、解説文は恩田 陸が書いている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「華岡青洲の妻」有吉佐和子

2025-03-18 | g 読書日記

320
■ 昨年(2024年)は安部公房の作品を集中的に読んだ。今年は作家を決めず(決めることができず)、読みたいと思う作品を読むことにした。

しばらく前に『青い壺』(文春文庫)を読んで、人の心理を描かせたら有吉佐和子の右に出る作家はいないのではないか、と思った。で、『華岡青洲の妻』(新潮文庫)を読み始めた。青洲の妻と青洲の母。この小説では華岡青洲をめぐる嫁と姑の心模様、愛の葛藤が描かれているから。

奥付で発行年月日をみると、1970年1月30日。買い求めたこの本は2025年1月20日、78刷。55年経つのに、いまだに書店に並び、読み続けられている作品。内容をカバー裏面の紹介文から引く。

**世界最初の全身麻酔による乳癌手術に成功し、漢方から蘭学への過渡期に新時代を開いた紀州の外科医華岡青洲。その不朽の業績の陰には、麻酔薬「通仙散」を完成させるために進んで自らを人体実験に捧げた妻と母があった―(後略)**




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「江戸の火事と火消」を読む(加筆)

2025-03-15 | g 読書日記

『江戸の火事と火消』山本純美(河出書房新社1993年)を読んだ。刊行から30年以上経過しているが、有難いことに、ネットで古書を買い求めることができた。

 
目次:「火消の道具」と「江戸の町づくりと防火対策」

「はしがき」によると、本書は『月刊消防』(東京法令出版)に昭和54年(1979年)から平成4年(1992年)まで、約13年もの長きに亘り連載された記事の半分を選んだものとのこと。書名の通り、江戸の火事と火消について、細かく項目が立てられ、各項目について記述されている。その内容は具体的で詳しい。

本書の内容紹介のために目次を載せる。

はしがき
江戸っ子と火事
幕府の火消
大名火消
江戸の華・町火消
火消の道具
江戸の町づくりと防火対策
江戸の大火
武家屋敷の火事
後を絶たない放火事件
あとがき
江戸防災年表

巻末に掲載されている「江戸防災年表」には町火消の組の数の変遷も記されている。以下にその一部を載せる(和暦年月日の月日は省略、漢数字をアラビア数字とした)。
1718年(享保 3年) 町火消結成令
1720年(享保 5年) 町火消いろは組結成(48組)
1730年(享保15年)町火消いろは組を10番組編成とする
1738年(元文  3年)町火消10番組を8番組とする(定員10642人)
以下略 

年表には定火消の変遷も掲載されている。定火消は明暦の大火の翌年、1658年に組織されたと理解しているから、以下のところを見てあれ?と思った。
1650年(慶安  3年)幕府の火消役(定火消)2組結成
1657年(明暦  3年)明暦の大火
1658年(万治  1年)定火消4組(定員512人)となる

このことについて本文中に次のような記述がある(漢数字をアラビヤ数字とした)。
**幕府の火消制度は早く慶安3年(1650)6月に火消役2人をおき、各4000石以上の者をもってあて、2組の消防隊を始めている。その後明暦大火を経てからは本格的な予防策をとり、防火のため防火堤、火除地、防火建築、煮売り行商の夜間営業禁止などの施策を行っている。**(31頁)

手元にある「江戸の主要防火政策に関する研究 ―享保から慶応までの防火環境とその変遷について―」森下雄治,山崎正史(地域安全学会論文集NO.19,2013.3)に示されている定火消の推移の年表には「万治1年(1658)成立」と載っている。相違が気になるが、確認する手立てがない・・・。

それから、1658年(万治  1年)に組織された定火消4組がどこにあったのか、ということ。このことについて、本書では**定火消の役屋敷は飯田町、左内坂、お茶の水、麹町におき、火消屋敷と呼ばれた。**(32頁)とある。上掲の論文では飯田町、麹町、御茶水、伝通院と示されている。左内坂(市谷左内坂)と伝通院、相違している。

市ヶ谷には(JR市ヶ谷駅の近く、武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパス東横の坂道)下掲の標柱が立っている。

 
撮影日:2016.03.26

1658年(万治  1年)に組織された定火消4組の所在地について、拙書『あ、火の見櫓! 火の見櫓観察記』(2019年)で、私は次のように書きました(29,30頁)。

 

『江戸の火事と火消』に戻そう。

肝心の火の見櫓については「火の見櫓」と「火の見櫓再建」という節で6頁に亘って記述があり、火の見櫓の仕様も記されている。

火の見櫓に沼っている者として、本書が入手できたことが嬉しい。


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

積読状態解消せず

2025-03-13 | g 読書日記

540
 3月になって読み終えた本は左側の3冊に図書館本の1冊を加えた4冊。右側の8冊は積読未読。2冊減って2冊増えてという状況が続く・・・。

今読んでいる『金閣寺』を読み終えたら、『主戦か講和か 帝国陸軍の秘密終戦工作』山本智之(新潮選書2013年)を読もう。有吉佐和子の『華岡青洲の妻』(新潮文庫)も読みたいなぁ。


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「金閣寺」三島由紀夫

2025-03-13 | g 読書日記


 ネット注文していた三島由紀夫の『金閣寺』(新潮文庫)が届いた。今現在のカバーデザインが好みではないので、画像を確認して、そう、これこれ、と古いデザインのものを注文していた。発行年を奥付で確認すると、昭和45年2月15日。55年前の文庫! 初めて読んだ新潮文庫の三島作品は、どれもこのデザインだったかも知れない。違うかな。



用紙は変色し、活字は細かい。好きだな、こういう本。以前も書いたけれど、小説を「読んでいる感」が高まる。活字が細かいのは特に支障はない。リーディンググラス(老眼鏡ともいう )をかけて読むので。

今日(12日)、朝カフェ読書で読み始めた。

 
最近読んだ内海 健の『金閣を焼かなければならぬ 林 養賢と三島由紀夫』と酒井順子の『金閣寺の燃やし方』が夜道を明るくする提灯(って喩えが古いか)のように、読む先を案内してくれているかのようで、読みやすい。

読み始めたら、なぜか分からないが、有吉佐和子の『華岡青洲の妻』が読みたくなった。またネットで古本を注文するかな。


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

図書カードで購入した本

2025-03-10 | g 読書日記


正月にMからもらった図書カードで購入した本7冊(C1~C7)。
全て読み終えている。


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「江戸の火事と火消」

2025-03-09 | g 読書日記

 
『大災害の時代』五百旗頭(いおきべ)真(岩波現代文庫2023年)の巻末に掲載されている各章の注と参考文献。「第1章 関東大震災」の注に『江戸の火事と火消』山本純美(すみよし)(河出書房新社1993年)が掲載されていた。第1章の記述は江戸の明暦の大火にも及んでいる。で、前掲の書籍が注で掲載されていたという次第。

火の見櫓に沼っている者として、これは読まなければならない。今から30年以上も前に出版された本が入手できるだろうか・・・。できた。
これはネット時代の恩恵。

   
目次の「第5章 火消の道具」と「第6章 江戸の町づくりと防火対策」

さて、これから読もう。


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする