昨年12月に菅内閣が閣議決定した「2010年新防衛計画大綱」は、憲法を破壊し、日本を憲法とは正反対の方向に押しやり、世界の流れに逆行するものとして極めて重大な問題です。
これまでも「新大綱」の問題点として指摘してきたように、最大の問題点は我が国の防衛に関する姿勢をこれまでの「基盤的防衛力」から「動的防衛力」に転換したということです。
これまで歴代政府は、自衛隊の存在をさまざまな理由をつけて正当化してきました。「専守防衛」という概念も、もともと憲法に違反して創設された自衛隊にいくらかでも憲法との整合性をもたせる狙いで使い始めた言葉です。
1976年の大綱が打ち出した「基盤的防衛力」は、この「専守防衛」のための考え方でしたが、今回この考え方に終止符を打ち、「動的防衛力」を打ち出したのは、自衛隊を国内だけでなく、むしろ国外で公然と行動できる軍隊に変えるという狙いがあるからです。
これは何よりも米国の要求によるものです。それは米国防総省が昨年2月に発表した「4年ごとの国防計画見直し」報告(QDR)を見れば明らかです。
その内容は、米国の国際的な影響力の低下を認めながら、米国の経済危機脱出のための決定的な意味を持つアジアでの軍事的・経済的な権益確保を狙っていますが、そのために(1)3D=「防衛」「外交」「開発」の三本柱の強化、(2)米軍の前進配備堅持、(3)GDP(国内総生産)では米国に次ぐ大国として経済的にだけでなく、政治的、軍事的にも急速に影響力を増大しつつある中国への対処、東南アジアへの経済的・軍事的進出拡大、インドとの関係強化などをうたっていますが、中でも特徴的なのが、米国の影響力低下とともに国内での軍事予算削減圧力を考慮しつつ持ち出してきているのがアジアの同盟国、特に日本との同盟関係の最大限の利用であり、軍事作戦とともに兵站・情報活動での負担分担拡大要求なのです。
昨年のQDRでは、米国の軍事作戦の差し迫った課題として3つ挙げています。
(1)現在あるいは今後の戦争で勝利し、主導権をにぎる必要性、(2)米国以外の他の国々や非国家的主体が一層強大化するなかで一層重要になっている「グローバル・コモンズ」(世界的規模の共有物)における米国の権益とこれに対するアクセスの保障、(3)政治的、社会的国際環境の変化、です。
特に「グローバル・コモンズ」では、「一国では支配できないが全ての国が依拠している分野、領域」とし、そうした「複合的な環境条件」のもとで生じる様々な事態がまさに「グローバルな課題」であり、これには米国とともにすべての同盟国が共同で取り組むことを求めています。
「新大綱」は、まさにこの米国の新戦略の要求に忠実に応えたものといえるのです。「新大綱」には「グローバル・コモンズ」の言葉はないものの、「新大綱」の元となった「安保懇報告」には、この「グローバル・コモンズ」という言葉が数箇所に登場しているといいます。
一極覇権主義の破綻、新自由主義の矛盾の深まり、国際的な力関係の変化という今日の世界情勢下の米国の世界戦略は、米国の軍事・政治・経済面での覇権・指導権維持の政策を追求しながら、そのために同盟国との関係強化をはかるというものです。しかしながらその一方で、米国は対中国政策にも見られるように、日本が考えている単純な日米同盟基軸論だけではなく、より多面的な協調外交をも行わざるを得なくなっているという特徴が見て取れます。
このことを見ずに、対米軍事路線追従・協調こそが日本の安保政策であり、日本の外交の基軸は日米同盟「深化」にあるとするのは、米国の世界戦略の一面に対する支援として米国からは大いに利用されるでしょうが、世界の流れ、国際政治の現実にはまったく合致しないということに気づくべきでしょう。
【出典参考】2011年2月3日発行、通巻398号月刊「憲法運動」掲載「新防衛大綱は日本をどこへ導くのか-世界の流れに逆行する日米同盟強化路線」三浦一夫(ジャーナリスト)より
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