竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
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万葉集 集歌850から集歌854まで

2020年08月20日 | 新訓 万葉集
集歌八五〇 
原文 由吉能伊呂遠 有婆比弖佐家流 有米能波奈 伊麻左加利奈利 弥牟必登母我聞
訓読 雪の色を奪ひて咲ける梅の花今盛(さか)りなり見む人もがも
私訳 雪の白い色を奪ったように咲いている梅の花は、今が盛りです。愛でる人がいてほしい。

集歌八五一 
原文 和我夜度尓 左加里尓散家留 宇梅能波奈 知流倍久奈里奴 美牟必登聞我母
訓読 吾(わ)が屋戸(やと)に盛りに咲ける梅の花散るべくなりぬ見む人もがも
私訳 私の家に盛りと咲いている梅の花は、その花が散る時期になったようだ。今、その花を見る人がいてほしい。

集歌八五二 
原文 烏梅能波奈 伊米尓加多良久 美也備多流 波奈等阿例母布 左氣尓于可倍許曽
訓読 梅の花夢に語らく風流(みや)びたる花と吾(あ)れ思(も)ふ酒に浮かべこそ
私訳 梅の花が夢に語るには「雅な花だと私は想う」、その雅な梅の花である私を酒に浮かべましょう。

遊松浦河序
序訓 松浦(まつら)河(かは)に遊(あそ)ぶの序
注意 この歌群は中国の伝奇小説である遊仙窟に刺激を受け、最初から物語を創作する意図をもって創られた日本最初の歌物語です。そのため、作品中の和歌は一字一音万葉仮名だけによる表現となっています。
前置 余以暫徃松浦之縣逍遥 聊臨玉嶋之潭遊覧 忽値釣魚女子等也 花容無雙 光儀無匹 開柳葉於眉中發桃花於頬上 意氣凌雲 風流絶世 僕問曰 誰郷誰家兒等 若疑神仙者乎 娘等皆咲答曰 兒等者漁夫之舎兒 草菴之微者 無郷無家 何足稱云 唯性便水 復心樂山 或臨洛浦而徒羨王魚 乍臥巫峡以空望烟霞 今以邂逅相遇貴客 不勝感應輙陳歎曲 而今而後豈可非偕老哉 下官對曰 唯々 敬奉芳命 于時日落山西 驪馬将去 遂申懐抱 因贈詠謌曰
序訓 余(われ)暫(たまたま)松浦の縣(あがた)に徃きて逍遥し、聊(いささ)かに玉嶋の潭(ふち)に臨みて遊覧せしに、忽ちに魚を釣る女子らに値(あ)ひき。花のごとき容(かほ)雙(ならび)無く、光(て)れる儀(すがた)匹(たぐひ)無し。柳の葉を眉の中に開き、桃の花を頬の上に發く。意氣雲を凌ぎ、風流世に絶(すぐ)れたり。僕問ひて曰はく「誰が郷、誰が家の兒らそ。若疑(けだし)神仙ならむか」といふ。娘ら皆咲みて答へて曰はく「兒らは漁夫の舎の兒、草菴の微(いや)しき者にして、郷(さと)も無く家も無し。何そ稱(な)を云ふに足らむ。唯性(さが)水を便(つて)とし、復、心に山を樂しぶのみなり。或るは洛浦に臨みて、徒らに王魚(さかな)を羨み、 乍(ある)は巫峡(ふかふ)に臥して空しく烟霞(えんか)を望む。今邂逅(たまさか)に貴客(うまひと)に相遇(あ)ひ、感應に勝(あ)へずして、輙(すなわ)ち歎曲(くわんきょく)を陳ぶ。而(また)今(いま)而後(よりのち)、豈偕老にあらざすべけむ」といふ。下官對へて曰はく「唯々(をを)、敬みて芳命を奉(うけたまは)る」といふ。時に日山の西に落ち、驪馬(りば)去なむとす。遂に懐抱(くわいほう)を申(の)べ、因りて詠謌を贈りて曰はく、
序訳 私は、たまたま、松浦の地方に行きそぞろ歩きをし、少しばかり玉島川の淵に立って遊覧した時に、ちょうど魚を釣る少女たちに出会った。少女の花のような容貌は他と比べるものがなく、輝くような容姿も匹敵する者はいない。柳の葉を眉の中に見せ、桃の花を頬の上に披く。気分は雲を遥かに超え、風流は世に比べるものがない。僕は少女に問うて云うには「どこの里の、どこの家の少女ですか。もしかしたら神仙ですか」といった。少女たちは皆微笑んで答えて云うには「私たちは漁師の家の子供で、草生す家の身分低き者で、名の有る里もありませんし、屋敷もありません。どうして、自分の名を告げることが出来ましょう。ただ、生まれながらにして水に親しみ、また、気持ちは山を楽しむだけです。時には、洛浦のほとりに立って、ただ、美しい魚を羨み、またある時には、巫峡に伏して空しく烟霞を眺める。今、たまたま、立派な人に出会って感動にたえず、そこで、ねんごろに気持ちを伝えました。今後は、どうして、偕老の契(=夫婦になること)を結ばずにいられるでしょうか」と云った。私は「ああ、つつしんで貴女の想いを承りましょう」といった。時に、日は西の山に落ち、私と私を乗せる馬は帰らなければならない。そこで、心の内の想いを述べ、その想いに従って歌を詠い贈って云うには、
集歌八五三 
原文 阿佐里流須 阿末能古等母等 比得波伊倍騰 美流尓之良延奴 有麻必等能古等
訓読 漁(あさり)るす海人(あま)の子どもと人は云へど見るに知らえぬ貴人(うまひと)の子と
私訳 「漁をする漁師の子供」と貴女は私に告げるけれど、貴女に逢うと判ります。身分ある人の子であると。

答詩曰
標訓 答へたる詩に曰はく
集歌八五四 
原文 多麻之末能 許能可波加美尓 伊返波阿礼騰 吉美乎夜佐之美 阿良波佐受阿利吉
訓読 玉島(たましま)のこの川上(かはかみ)に家(いへ)はあれど君を恥(やさ)しみ顕(あらは)さずありき
私訳 玉島のこの川の上流に私の家はありますが、高貴な貴方に対して私の身分を恥じて、それを申し上げませんでした。

コメント
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