竹取翁と万葉集のお勉強

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後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻八

2020年08月02日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
也末幾仁安多留未幾
巻八

布由乃宇多
冬歌

歌番号四四三
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 者徒之具礼布礼者也万部曽於毛本由留以川礼乃方可満川毛美川良无
定家 者徒時雨布礼者山部曽於毛本由留以川礼乃方可満川毛美川良无
和歌 はつしくれ ふれはやまへそ おもほゆる いつれのかたか まつもみつらむ
解釈 初時雨降れば山辺ぞ思ほゆるいづれの方かまづもみづらん

歌番号四四四
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 波川志久礼婦累本止毛奈久左本也満乃己春礼安万祢久宇川呂比尓个利
定家 波川志久礼婦累本止毛奈久左本山乃梢安万祢久宇川呂比尓个利
和歌 はつしくれ ふるほともなく さほやまの こすゑあまねく うつろひにけり
解釈 初時雨降るほどもなく佐保山の梢あまねく移ろひにけり

歌番号四四五
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 加无奈川幾不利美布良寸三左多女奈幾志久礼曽布由乃者之女奈利遣流
定家 神奈月不利美布良寸三定奈幾時雨曽冬乃始奈利遣流
和歌 かみなつき ふりみふらすみ さためなき しくれそふゆの はしめなりける
解釈 神無月降りみ降らずみ定めなき時雨ぞ冬の始めなりける

歌番号四四六
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 布由久礼者左本乃可者世尓為留多川毛飛止利祢可多幾祢遠曽奈久奈留
定家 冬久礼者左本乃河世尓為留多川毛飛止利祢可多幾祢遠曽奈久奈留
和歌 ふゆくれは さほのかはせに ゐるたつも ひとりねかたき ねをそなくなる
解釈 冬来れば佐保の河瀬にゐる田鶴も一人寝がたき音をぞ鳴くなる

歌番号四四七
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 飛止利奴留飛止乃幾可久尓加美奈川幾尓者可尓毛布留者川志久礼可奈
定家 飛止利奴留人乃幾可久尓神奈月尓者可尓毛布留者川時雨哉
和歌 ひとりぬる ひとのきかくに かみなつき にはかにもふる はつしくれかな
解釈 一人寝る人の聞かくに神無月にはかにも降る初時雨かな

歌番号四四八
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 安幾者天々志久礼布利奴留和可奈礼者知留己止乃波遠奈尓可宇良美武
定家 秋者天々時雨布利奴留我奈礼者知留己止乃波遠奈尓可宇良美武
和歌 あきはてて しくれふりぬる われなれは ちることのはを なにかうらみむ
解釈 秋果て時雨降りぬる我なれば散る言の葉をなにか恨みむ

歌番号四四九
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 布久加世者以呂毛三衣祢止布由久礼者飛止利奴留与乃三尓曽志美个留
定家 吹風者色毛見衣祢止冬久礼者飛止利奴留与乃身尓曽志美个留
和歌 ふくかせは いろもみえねと ふゆくれは ひとりぬるよの みにそしみける
解釈 吹く風は色も見えねど冬くれば一人寝る夜の身にぞしみける

歌番号四五〇
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 安幾者天々和可身志久礼尓布利奴礼者止乃葉左部尓宇川呂日尓个利
定家 秋者天々和可身志久礼尓布利奴礼者事乃葉左部尓宇川呂日尓个利
和歌 あきはてて わかみしくれに ふりぬれは ことのはさへに うつろひにけり
解釈 秋果てて我が身時雨に降りぬれば言の葉さへに移ろひにけり

歌番号四五一
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 加美奈川幾志久礼止々毛尓加美奈比乃毛利乃己乃者々布利尓己曽布礼
定家 神奈月時雨止々毛尓加美奈比乃毛利乃己乃者々布利尓己曽布礼
和歌 かみなつき しくれとともに かみなひの もりのこのはは ふりにこそふれ
解釈 神無月時雨とともに神無備の森の木の葉は降りにこそ降れ

歌番号四五二
於无奈尓徒可者之遣類
女尓徒可者之遣類
女につかはしける

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 堂乃武幾毛加礼者天奴礼者加美奈川幾志久礼尓乃美毛奴留々己呂可奈
定家 堂乃武木毛加礼者天奴礼者神奈月時雨尓乃美毛奴留々己呂哉
和歌 たのむきも かれはてぬれは かみなつき しくれにのみも ぬるるころかな
解釈 頼む木も枯れ果てぬれば神無月時雨にのみも濡るるころかな

歌番号四五三
也万部以留止天
山部以留止天
山へ入るとて

曽宇幾保宇之
増基法師
増基法師

原文 加美奈川幾志久礼者可利遠三尓曽部天志良奴也万知尓以留曽加奈之幾
定家 神奈月時雨許遠身尓曽部天志良奴山地尓入曽加奈之幾
和歌 かみなつき しくれはかりを みにそへて しらぬやまちに いるそかなしき
解釈 神無月時雨ばかりを身にそへて知らぬ山路に入るぞかなしき

歌番号四五四
加美奈川幾者可利尓於保衣乃知不留加毛止尓安者武止天
万可利多利个礼止毛者部良奴本止奈礼者加部利万天幾天
堂川祢天徒可者之遣流
加美奈月許尓大江千古加毛止尓安者武止天
万可利多利个礼止毛侍良奴本止奈礼者加部利万天幾天
堂川祢天徒可者之遣流
神無月ばかりに、大江千古がもとに、「逢はむ」とて
まかりたりけれども、はべらぬほどなれば、帰りまで来て、
尋ねてつかはしける

布知八良乃多々不左乃安曾无
藤原忠房朝臣
藤原忠房朝臣

原文 毛美地者々於之幾尓志幾止美之可止毛志久礼止々毛尓布利天々曽己之
定家 毛美地者々於之幾錦止見之可止毛時雨止々毛尓布利天々曽己之
和歌 もみちはは をしきにしきと みしかとも しくれとともに ふりててそこし
解釈 もみぢ葉は惜しき錦と見しかども時雨とともに降り出てぞ来し

歌番号四五五
可部之
返之
返し

於保衣乃知不留
大江千古
大江千古

原文 毛三知波毛志久礼毛徒良之満礼尓幾天加部良武飛止遠布利也止々免奴
定家 毛三知波毛時雨毛徒良之満礼尓幾天加部良武人遠布利也止々免奴
和歌 もみちはも しくれもつらし まれにきて かへらむひとを ふりやととめぬ
解釈 もみぢ葉も時雨もつらしまれに来て帰らむ人を降りやとどめぬ

歌番号四五六
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 加美奈従幾可幾利止也遠毛布毛美知者乃也武止幾毛奈久与留左部尓布留
定家 神奈月限止也思毛美知者乃也武時毛奈久与留左部尓布留
和歌 かみなつき かきりとやおもふ もみちはの やむときもなく よるさへにふる
解釈 神無月限りとや思ふもみぢ葉のやむ時もなく夜さへに降る

歌番号四五七
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 知者也布留加美可幾也満乃佐可幾者々志久礼尓以呂毛加者良左利个利
定家 知者也布留神可幾山乃佐可木者々時雨尓色毛加者良左利个利
和歌 ちはやふる かみかきやまの さかきはは しくれにいろも かはらさりけり
解釈 ちはやぶる神垣山のさか木葉は時雨に色も変らざりけり

歌番号四五八
春満奴以部尓末天幾天毛美知尓加幾天以比川可八之个留
春満奴家尓末天幾天紅葉尓加幾天以比川可八之个留
住まぬ家にまで来て紅葉に書きて言ひつかはしける

比者乃比多利乃於保伊萬宇智岐美
批杷左大臣
枇杷左大臣

原文 飛止春満寸安礼多留也止遠幾天三礼者以万曽己乃者々尓志幾遠利遣流
定家 人春満寸安礼多留也止遠幾天見礼者今曽己乃者々錦遠利遣流
和歌 ひとすます あれたるやとを きてみれは いまそこのはは にしきおりける
解釈 人住まず荒れたる宿を来て見れば今ぞ木の葉は錦織りける

歌番号四五九
可部之
返之
返し

以世
伊勢
伊勢

原文 那美多左部志久礼尓曽比天布流佐止者毛美知乃以呂毛己佐万左利个利
定家 涙左部時雨尓曽比天布流佐止者紅葉乃色毛己佐万左利个利
和歌 なみたさへ しくれにそひて ふるさとは もみちのいろも こさまさりけり
解釈 涙さへ時雨にそひてふるさとは紅葉の色も濃さまさりけり

歌番号四六〇
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 布由乃以个乃可毛乃宇者計尓遠久之毛乃幾衣天毛乃遠毛布己呂尓毛安留可奈
定家 冬乃池乃鴨乃宇者計尓遠久之毛乃幾衣天物思己呂尓毛安留哉
和歌 ふゆのいけの かものうはけに おくしもの きえてものおもふ ころにもあるかな
解釈 冬の池の鴨の上毛に置く霜の消えて物思ふころにもあるかな

歌番号四六一
於也乃保可尓満可利天遠曽久加部利个礼者川可者之个留
飛止乃武寸女乃也徒奈利遣流
於也乃保可尓満可利天遠曽久加部利个礼者川可者之个留
人乃武寸女乃也徒奈利遣流
親のほかにまかりて遅く帰りければつかはしける、
人のむすめのやつなりける

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 加美奈従幾志久礼布留尓毛久累々比遠幾美満川本止者奈可之止曽於毛布
定家 神奈月時雨布留尓毛久累々日遠君満川本止者奈可之止曽思
和歌 かみなつき しくれふるにも くるるひを きみまつほとは なかしとそおもふ
解釈 神無月時雨ふ降るにも暮るる日を君待つほどはなかしとぞ思ふ

歌番号四六二
堂以之良春
題之良春
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 三遠和遣天之毛也遠久良无安多飛止乃己止乃者左部尓加礼毛由久可奈
定家 身遠和遣天霜也遠久覧安多人乃事乃者左部尓加礼毛由久哉
和歌 みをわけて しもやおくらむ あたひとの ことのはさへに かれもゆくかな
解釈 身を分けて霜や置くらんあだ人の言の葉さへに枯れも行くかな

歌番号四六三
布由乃比武左之尓徒可者之个留
冬乃日武左之尓徒可者之个留
冬の日、武蔵につかはしける

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 比止之礼寸幾美尓川个天之和可曽天乃計左之毛止計寸己本留奈留部之
定家 人之礼寸君尓川个天之和可袖乃計左之毛止計寸己本留奈留部之
和歌 ひとしれす きみにつけてし わかそての けさしもとけす こほるなるへし
解釈 人知れず君につけてし我が袖の今朝しもとけずこほるなるべし

歌番号四六四
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 加幾久良之安良礼布利之遣之良多万遠志个留尓者止毛飛止乃三留部久
定家 加幾久良之霰布利之遣白玉遠志个留庭止毛人乃見留部久
和歌 かきくらし あられふりしけ しらたまを しけるにはとも ひとのみるへく
解釈 かきくらし霰降りしけ白玉をしける庭とも人の見るべく

歌番号四六五
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 加美奈従幾志久留々止幾曽三与之乃々也満乃美由幾毛布利者之女个留
定家 神奈月志久留々時曽三与之乃々山乃美由幾毛布利始个留
和歌 かみなつき しくるるときそ みよしのの やまのみゆきも ふりはしめける
解釈 神無月時雨るる時ぞみ吉野の山の深雪も降り始めける

歌番号四六六
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 遣佐乃安良之左无久毛安留可奈安之比幾乃也万加幾久毛利由幾曽布留良之
定家 遣佐乃嵐寒久毛安留哉葦引乃山加幾久毛利雪曽布留良之
和歌 けさのあらし さむくもあるかな あしひきの やまかきくもり ゆきそふるらし
解釈 今朝の嵐寒くもあるかなあしひきの山かき曇り雪ぞ降るらし

歌番号四六七
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 久呂加美乃志呂久奈利由久三尓之安礼者末川者川由幾遠安者礼止曽美留
定家 久呂加美乃志呂久奈利由久身尓之安礼者末川者川雪遠安者礼止曽見留
和歌 くろかみの しろくなりゆく みにしあれは まつはつゆきを あはれとそみる
解釈 黒髪の白くなりゆく身にしあればまづ初雪をあはれとぞ見る

歌番号四六八
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 安良礼布留三也万乃佐止乃和比之幾者幾天多和也寸久止不比止曽奈幾
定家 霰布留三山乃佐止乃和比之幾者幾天多和也寸久止不人曽奈幾
和歌 あられふる みやまのさとの わひしきは きてたはやすく とふひとそなき
解釈 霰降るみ山の里のわびしきは来てたはやすく訪ふ人ぞなき

歌番号四六九
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 知者也布留加美奈従幾己曽加奈之遣礼和可三志久礼尓布利奴止於毛部八
定家 知者也布留神奈月己曽加奈之遣礼和可身時雨尓布利奴止思部八
和歌 ちはやふる かみなつきこそ かなしけれ わかみしくれに ふりぬとおもへは
解釈 ちはやぶる神無月こそかなしけれ我が身時雨にふりぬと思へば

歌番号四七〇
乃利乃豆加佐乃加美安川美乃美己志乃比天加与不止己呂者部利个留遠
乃知/\多衣/\尓奈利者部利个礼者以毛宇止乃左幾乃以従幾乃美也乃
美己乃毛止与利己乃己呂八伊可尓曽止安利遣礼者曽乃返事尓
遠无奈
式部卿安川美乃美己志乃比天加与不所侍个留遠
乃知/\多衣/\尓奈利侍个礼者以毛宇止乃前斎宮乃
美己乃毛止与利己乃己呂八伊可尓曽止安利遣礼者曽乃可部利己止尓
遠无奈
式部卿敦実の親王忍びて通ふ所侍りけるを、
後々絶え絶えになり侍りければ、妹の前斎宮の
内親王のもとより、「このごろはいかにぞ」とありければ、その返事に、


与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 志良也満尓由幾布利奴礼者安止多衣天以万者己志地尓飛止毛加与者春
定家 志良山尓雪布利奴礼者安止多衣天今者己志地尓人毛加与者春
和歌 しらやまに ゆきふりぬれは あとたえて いまはこしちに ひともかよはす
解釈 白山に雪降りぬれば跡絶えて今は越路に人も通はず

歌番号四七一
由幾乃安之多於以遠奈个幾天
雪乃安之多於以遠奈个幾天
雪の朝、老いを嘆きて

徒良由幾
従良由幾
つらゆき(紀貫之)

原文 布利曽女天止毛末川由幾者武者多満乃和可久呂加三乃加者留奈利个利
定家 布利曽女天友末川雪者武者多満乃和可久呂加三乃加者留奈利个利
和歌 ふりそめて ともまつゆきは うはたまの わかくろかみの かはるなりけり
解釈 降りそめて友待つ雪はむばたまの我が黒髪の変るなりけり

歌番号四七二
可部之
返之
返し

加祢寸个乃安曾无
兼輔朝臣
兼輔朝臣(藤原兼輔)

原文 久呂可美乃以呂布利可不留之良由幾乃満知以川留止毛者宇止久曽安利个留
定家 久呂可美乃色布利可不留白雪乃満知以川留友者宇止久曽有个留
和歌 くろかみの いろふりかはる しらゆきの まちいつるともは うとくそありける
解釈 黒髪の色降り変ふる白雪の待ち出づる友はうとくぞ有ける

歌番号四七三
万多



川良由幾
川良由幾
つらゆき(紀貫之)

原文 具呂可三止由幾止乃奈可乃宇幾三礼者止毛加々美遠毛川良之止曽於毛布
定家 具呂可三止雪止乃奈可乃宇幾見礼者止毛加々美遠毛川良之止曽思
和歌 くろかみと ゆきとのなかの うきみれは ともかかみをも つらしとそおもふ
解釈 黒髪と雪との中の憂き見れば友鏡をもつらしとぞ思ふ

歌番号四七四
可部之
返之
返し

加祢寸个乃安曾无
兼輔朝臣
兼輔朝臣(藤原兼輔)

原文 止之己止尓志良可乃加寸遠満寸可々美三留尓曽由幾乃止毛者之里个留
定家 年己止尓志良可乃加寸遠満寸可々美見留尓曽雪乃友者之里个留
和歌 としことに しらかのかすを ますかかみ みるにそゆきの ともはしりける
解釈 年ごとに白髪の数をます鏡見るにぞ雪の友は知りける

歌番号四七五
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 止之布礼止以呂毛加者良奴万従可衣尓加々礼留由幾遠者奈止己曽美礼
定家 年布礼止色毛加者良奴松可衣尓加々礼留雪遠花止己曽見礼
和歌 としふれと いろもかはらぬ まつかえに かかれるゆきを はなとこそみれ
解釈 年ふれど色も変らぬ松が枝にかかれる雪を花とこそ見れ

歌番号四七六
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 志毛加礼乃衣多止奈和比曽志良由幾乃幾衣奴可幾利者者奈止己曽美連
定家 霜加礼乃枝止奈和比曽白雪乃幾衣奴限者花止己曽美連
和歌 しもかれの えたとなわひそ しらゆきの きえぬかきりは はなとこそみれ
解釈 霜枯れの枝となわびそ白雪の消えぬ限りは花とこそ見れ

歌番号四七七
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 己保利己曽以万者寸良之毛三与之乃々也満乃多幾川世己恵毛幾己江寸
定家 氷己曽今者寸良之毛三与之乃々山乃多幾川世己恵毛幾己江寸
和歌 こほりこそ いまはすらしも みよしのの やまのたきつせ こゑもきこえす
解釈 氷こそ今はすらしもみ吉野の山の滝つ瀬声も聞こえず

歌番号四七八
堂以之良寸
題之良寸
題しらす

与美比止毛
与美人毛
よみ人も

原文 与遠佐武美祢左女天幾个者遠之曽奈久者良比毛安部寸之毛也遠久良无
定家 夜遠佐武美祢左女天幾个者遠之曽奈久払毛安部寸霜也遠久良无
和歌 よをさむみ ねさめてきけは をしそなく はらひもあへす しもやおくらむ
解釈 夜を寒み寝覚めて聞けば鴛ぞ鳴く払ひもあへず霜や置くらん

歌番号四七九
由幾乃寸己之布留比於无奈尓徒可者之遣留
雪乃寸己之布留日女尓徒可者之遣留
雪のすこし降る日、女につかはしける

布知八良乃加計毛止
藤原加計毛止
藤原かけもと(藤原蔭基)

原文 加徒幾衣天曽良尓美多留々安者由幾八毛乃於毛不飛止乃己々呂奈利个利
定家 加徒幾衣天曽良尓美多留々安者雪八物思不人乃心奈利个利
和歌 かつきえて そらもみたるる あはゆきは ものおもふひとの こころなりけり
解釈 かつ消えて空に乱るる泡雪は物思ふ人の心なりけり

歌番号四八〇
毛呂宇知乃安曾无乃加利之天以部乃満部与利万可利个留遠
幾々天
師氏朝臣乃加利之天家乃満部与利万可利个留遠
幾々天
師氏朝臣の狩りして家の前よりまかりけるを
聞きて

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 之良由幾乃布利者部天己曽止者佐良女止久留多与利遠春久左々良奈无
定家 白雪乃布利者部天己曽止者佐良女止久留多与利遠春久左々良奈无
和歌 しらゆきの ふりはへてこそ とはさらめ とくるたよりを すくささらなむ
解釈 白雪の降りはへてこそ訪はざらめとくる便りを過ぐさざらなん

歌番号四八一
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 思徒々祢奈久尓安久留冬乃夜乃袖乃氷者止个寸毛安留哉
定家 思徒々祢奈久尓安久留冬乃夜乃袖乃氷者止个寸毛安留哉
和歌 おもひつつ ねなくにあくる ふゆのよの そてのこほりは とけすもあるかな
解釈 思ひつつ寝なくに明くる冬の夜の袖の氷は解けずあるかな

歌番号四八二
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人知らず

原文 安良多満乃止之遠和多利天安留可宇部尓布利川武由幾乃多衣奴志良也万
定家 荒玉乃年遠渡天安留可宇部尓布利川武雪乃多衣奴志良山
和歌 あらたまの としをわたりて あるかうへに ふりつむゆきの たえぬしらやま
解釈 荒玉の年を渡りてあるが上に降り積む雪の絶えぬ白山

歌番号四八三
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 満己毛加留保利衣尓宇幾天奴留可毛乃己与比乃之毛尓以可尓和不良无
定家 満己毛加留保利江尓宇幾天奴留可毛乃今夜乃霜尓以可尓和不良无
和歌 まこもかる ほりえにうきて ぬるかもの こよひのしもに いかにわふらむ
解釈 真薦刈る堀江に浮きて寝る鴨の今夜の霜にいかにわぶらん

歌番号四八四
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 之良久毛乃於利為留也万止三衣川留八布利川武由幾乃幾衣奴奈利个利
定家 白雲乃於利為留山止見衣川留八布利川武雪乃幾衣奴奈利个利
和歌 しらくもの おりゐるやまと みえつるは ふりつるゆきの きえぬなりけり
解釈 白雲の下りゐる山と見えつるは降り積む雪の消えぬなりけり

歌番号四八五
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 布留左止乃由幾者々奈止曽布利川毛留奈可武留和礼毛於毛比幾衣川々
定家 布留左止乃雪者花止曽布利川毛留奈可武留我毛思幾衣川々
和歌 ふるさとの ゆきははなとそ ふりつもる なかむるわれも おもひきえつつ
解釈 ふるさとの雪は花とぞ降り積もるながむる我も思ひ消えつつ

歌番号四八六
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 奈可礼由久美川己本利奴留布由左部也奈本宇幾久左乃安止者止々女奴
定家 奈可礼由久水己本利奴留冬左部也猶宇幾草乃安止者止々女奴
和歌 なかれゆく みつこほりぬる ふゆさへや なほうきくさの あとはととめぬ
解釈 流れ行く水こほりぬる冬さへやなほ浮草の跡はとどめぬ

歌番号四八七
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 己々呂安天尓三者己曽和可女之良由幾乃以川礼可者奈乃知留尓多可部留
定家 心安天尓見者己曽和可女白雪乃以川礼可花乃知留尓多可部留
和歌 こころあてに みはこそわかめ しらゆきの いつれかはなの ちるにたかへる
解釈 心あてに見ばこそ分かめ白雪のいづれか花の散るに違へる

歌番号四八八
堂以之良須
題之良寸須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 安万乃可者布由者己保利尓止知多礼也以之末尓多幾川遠止多尓毛世奴
定家 天河冬者氷尓止知多礼也以之末尓多幾川遠止多尓毛世奴
和歌 あまのかは ふゆはこほりに とちたれや いしまにたきつ おとたにもせぬ
解釈 天の河冬は氷に閉ぢたれや石間にたきつ音だにもせぬ

歌番号四八九
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 遠之奈部天由幾乃布礼々者和可也止乃寸幾遠多川祢天止布飛止毛奈之
定家 遠之奈部天雪乃布礼々者和可也止乃寸幾遠尋天問人毛奈之
和歌 おしなへて ゆきのふれれは わかやとの すきをたつねて とふひともなし
解釈 おしなべて雪の降れれば我が宿の杉を尋ねて訪ふ人もなし

歌番号四九〇
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 布由乃以計乃三川尓奈可累々安之可毛乃宇幾祢奈可良尓以久与部奴良无
定家 冬乃池乃水尓奈可累々安之可毛乃宇幾祢奈可良尓以久与部奴良无
和歌 ふゆのいけの みつになかるる あしかもの うきねなからに いくよへぬらむ
解釈 冬の池の水に流るる葦鴨の浮寝ながらにいく夜へぬらん

歌番号四九一
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 也末知可美女川良之計奈久布留由幾乃志呂久也奈良无止之川毛利奈八
定家 山知可美女川良之計奈久布留雪乃志呂久也奈良无年川毛利奈八
和歌 やまちかみ めつらしけなく ふるゆきの しろくやならむ としつもりなは
解釈 山近みめづらしげなく降る雪の白くやならん年積もりなば

歌番号四九二
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 末川乃者尓加々礼留由幾乃曽礼遠己曽布由乃者奈止者以不部可利个礼
定家 松乃葉尓加々礼留雪乃曽礼遠己曽冬乃花止者以不部可利个礼
和歌 まつのはに かかれるゆきの それをこそ ふゆのはなとは いふへかりけれ
解釈 松の葉にかかれる雪のそれをこそ冬の花とはいふべかりけれ

歌番号四九三
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 布留由幾者幾衣天毛志波之止万良奈无者奈毛々美知毛衣多尓奈幾己呂
定家 布留雪者幾衣天毛志波之止万良南花毛々美知毛枝尓奈幾己呂
和歌 ふるゆきは きえてもしはし とまらなむ はなももみちも えたになきころ
解釈 降る雪は消えてもしばしとまらなん花も紅葉も枝になきころ

歌番号四九四
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 那美多加者三奈久者可利乃布知者安礼止己保利止个祢者由久可多毛奈之
定家 涙河身奈久許乃布知者安礼止氷止个祢者由久方毛奈之
和歌 なみたかは みなくはかりの ふちはあれと こほりとけねは ゆくかたもなし
解釈 涙河身投ぐばかりの淵はあれど氷解けねば行く方もなし

歌番号四九五
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 布留由幾尓毛乃於毛不和可三於止良女也徒毛利/\天幾衣奴者可利曽
定家 布留雪尓物思和可身於止良女也徒毛利/\天幾衣奴許曽
和歌 ふるゆきに ものおもふわかみ おとらめや つもりつもりて きえぬはかりそ
解釈 降る雪に物思ふ我が身劣らめや積もり積もりて消えぬばかりぞ

歌番号四九六
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 与類奈良八従幾止曽三末之和可也止乃尓者之呂多部尓布利川毛留由幾
定家 与類奈良八月止曽見末之和可也止乃庭白妙尓布利川毛留由幾
和歌 よるならは つきとそみまし わかやとの にはしろたへに ふりつもるゆき
解釈 夜ならば月とぞ見まし我が宿の庭白妙に降り積もる雪

歌番号四九七
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 武女可衣尓布利遠个留由幾遠者留知可三女乃宇知川个尓者奈可止曽美留
定家 武女可衣尓布利遠个留雪遠春知可三女乃宇知川个尓花可止曽見留
和歌 むめかえに ふりおけるゆきを はるちかみ めのうちつけに はなかとそみる
解釈 梅が枝に降り置ける雪を春近み目のうちつけに花かとぞ見る

歌番号四九八
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 以徒之可止也末乃左久良毛和可己止久止之乃己奈多尓者留遠末川良无
定家 以徒之可止山乃桜毛和可己止久年乃己奈多尓者留遠末川良无
和歌 いつしかと やまのさくらも わかことく としのこなたに はるをまつらむ
解釈 いつしかと山の桜も我がごとく年のこなたに春を待つらん

歌番号四九九
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 止之不加久布利川武由幾遠三留止幾曽己之乃志良祢尓寸武己々知寸留
定家 年深久布利川武雪遠見留時曽己之乃志良祢尓寸武心知寸留
和歌 としふかく ふりつむゆきを みるときそ こしのしらねに すむここちする
解釈 年深く降り積む雪を見る時そこしのしらねにすむ心ちする

歌番号五〇〇
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 止之久礼天者留安計可多尓奈利奴礼者々奈乃多女之尓万可不之良由幾
定家 止之久礼天春安計可多尓奈利奴礼者花乃多女之尓万可不白雪
和歌 としくれて はるあけかたに なりぬれは はなのためしに まかふしらゆき
解釈 年暮くれて春明け方になりぬれば花のためしにまがふ白雪

歌番号五〇一
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 者留知可久布留之良由幾者遠久良也末美祢尓曽者奈乃左可利奈利个留
定家 春知可久布留白雪者遠久良山峯尓曽花乃左可利奈利个留
和歌 はるちかく ふるしらゆきは をくらやま みねにそはなの さかりなりける
解釈 春近く降る白雪は小倉山峯にぞ花の盛りなりける

歌番号五〇二
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 不由乃以計尓春武尓本止利乃徒礼毛奈久志多尓加与者武飛止尓志良寸奈
定家 冬乃池尓春武尓本止利乃徒礼毛奈久志多尓加与者武人尓志良寸奈
和歌 ふゆのいけに すむにほとりの つれもなく したにかよはむ ひとにしらすな
解釈 冬の池に住む鳰鳥のつれもなく下に通はむ人に知らすな

歌番号五〇三
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 武者多満乃与留乃美布礼留之良由幾者天留従幾可計乃川毛留奈利个利
定家 武者多満乃与留乃美布礼留白雪者天留月影乃川毛留奈利个利
和歌 むはたまの よるのみふれる しらゆきは てるつきかけの つもるなりけり
解釈 むばたまの夜のみ降れる白雪は照る月影の積もるなりけり

歌番号五〇四
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 己乃川幾乃止之乃安万利尓太良左良八宇久比寸者々也奈幾曽之奈万之
定家 己乃月乃年乃安万利尓太良左良八宇久比寸者々也奈幾曽之奈万之
和歌 このつきの としのあまりに たらさらは うくひすははや なきそしなまし
解釈 この月の年のあまりに足らざらば鴬ははや鳴きぞしなまし

歌番号五〇五
堂以之良須
題之良須
題しらす

与美比止之良寸
与美人之良寸
よみ人しらす

原文 世幾己由留三知止者奈之尓知可奈可良止之尓佐者利天者留遠万川可奈
定家 関己由留道止者奈之尓知可奈可良年尓佐者利天春遠万川哉
和歌 せきこゆる みちとはなしに ちかなから としにさはりて はるをまつかな
解釈 関越ゆる道とはなしに近ながら年に障りて春を待つかな

歌番号五〇六
美久之計止乃々部従途宇尓止之遠部天以比和多利
者部利个留遠衣安者寸之天曽乃止之乃志八寸乃
徒己毛利乃比徒可者之遣流
美久之計止乃々別当尓止之遠部天天以比和多利
侍个留遠衣安者寸之天曽乃止之乃志八寸乃
徒己毛利乃日徒可者之遣流
御匣殿の別当に年をへて言ひわたり
侍りけるを、え逢はずしてその年の師走の
つごもりの日、つかはしける

布知八良乃安徒多々乃安曾无
藤原敦忠朝臣
藤原敦忠朝臣

原文 毛乃於毛不止春久留川幾比毛志良奴満尓己止之者遣不尓者天奴止可幾久
定家 物思止春久留月日毛志良奴満尓己止之者遣不尓者天奴止可幾久
和歌 ものおもふと すくるつきひも しらぬまに ことしはけふに はてぬとかきく
解釈 物思ふと過ぐる月日も知らぬまに今年は今日に果てぬとか聞く

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