読書日記

いろいろな本のレビュー

米国製エリートは本当にすごいのか? 佐々木紀彦  東洋経済新聞社

2011-10-16 09:06:37 | Weblog
 著者は慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年より休職し、スタンフオード大学大学院で修士号(国際政治経済専攻)取得。本書はその経験をもとに書かれている。所謂企業派遣というやつである。スタンフオードとは高校時代に夏季セミナーに参加したのが縁で、その素晴らしい環境に魅せられたとのこと。高校生の頃から、外に目が向いていたのだ。
 一読、特に目新しい指摘はなかったが、最近増えている中国・韓国の留学生の様子はそれぞれの国情を反映して面白い。中国人は飽くまで個人のキャリアアップが中心で、国家の政治システム(共産主義)とは関係ないというスタンス。韓国人は群れを作り他国の留学生とあまり交流せず、必死に勉強する。これは嘗ての日本人留学生の姿だと著者は指摘する。自国の政治・経済状況の厳しさがアメリカの有名大学に留学してこちらで就職という道を誘導しているらしい。今日本ではアメリカの大学に留学する学生が中国・韓国に大きく水をあけられていることに危機感を募らせているが、この件に関して著者は杞憂だと言っている。
 原因として、まず第一に少子化の影響、次に経済不況。確かにアメリカの大学に留学すると多額の費用がかかる。そして大きいのが若者が米国的なものに憧れや魅力を感じ亡くなったこと。言い換えれば、日本が成熟国家になったからだと言う。したがって「若者の内向さこそ留学生現象の元凶だ」というのは短絡的だと一蹴している。これには私も同感だ。日本はヨーロッパ並みの成熟した文化国家になってきたのだ。嬉しいことではないか。「売り家と唐風で書く三代目」という川柳がある。商家の三代目で身上をつぶすという内容だが、成熟とはこのようなことを言うのである。中国・韓国の留学生が多いのは両国が発展途上国であるということで、若者の内向き・外向きの問題ではない。特に中国の詰め込み教育などは市民社会の成熟と程遠いことを逆照射している。
 ところが最近日本の一部には、これではグローバル化に抗せないと公立高校のエリート教育を断行すべしと数を恃んで条例まで作り、現場を締め付けようとしている者がいる。大体今頃、公立高校にエリート教育を担わせるという発想そのものが理解できない。40年前からそれは私学の役割になっている(東大合格者のこの40年間のランキングを見よ)。この条例の原案を作った某市の市会議員は「手本にしたのはイギリスのサッチャー元首相の教育改革だ」と新聞のインタビューで言っていたが、階級社会イギリスのまねをしてどうするんだいと言いたい。教育問題は選挙の争点にされることが多いが、それは結果がすぐに目に見える形で現れないからだ。だからいい加減なことが言えるのだ。逆に教員にとってもそこがつけ込まれる要因になっていることは遺憾なことだ。公務員や教員を叩いて喜んでいたら将来日本のありように悪影響を及ぼしますよ。もちろん自分の子や孫にもね。

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